コロンビア取り込み巻き返しか-中国の新たな中南米戦略

山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・南米コロンビアはこのほど、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に正式に参加した。
・中南米で反トランプ感情が高まっている今、中国による同地域での巻き返し戦略の一環との見方もある。
・トランプ米政権はコロンビアに強硬姿勢を示し、同国を舞台に米中の駆け引きが激化する可能性もある。
■「一帯一路」参加で親中路線が鮮明に-ペトロ政権
中国とコロンビアとの関係緊密化が目立つ。コロンビアのペトロ大統領は5月半ば、北京で習近平国家主席と会談、「一帯一路」に正式加盟する文書に署名した。習主席はコロンビアからの輸入拡大方針のほか、同国への投資促進やインフラ建設支援の意向を示し、二国間関係の一層の発展に力を入れる考えを強調した。コロンビア史上初の左派政権を率いるペトロ大統領は2022年の就任直後から中国に接近、2023年中国を公式訪問し、習主席との会談で両国関係を戦略的パートナーシップに格上げすると宣言しており、今回の「一帯一路」参加で親中外交路線を一層鮮明にした形だ。
注目されるのは、コロンビアの「一帯一路」参加が、ペトロ大統領訪中と時を同じくして北京で開催された中国と中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)の第4回閣僚級会合に合わせ、発表されたこと。同会合にはペトロ大統領のほか、ブラジルのルラ、チリのボリッチ両大統領も出席、さらに中南米とカリブ諸国の閣僚らも顔をそろえた。ブラジルはまだ、「一帯一路」に参加していないが、ルラ大統領はこの会合の後、習主席との間で二国間関係の協力文書に署名、対中関係の促進に意欲を示した。
■ 中南米で高まるアンチ・トランプ機運
CELACは同地域の33カ国すべてが参加して2011年末に発足した地域枠組み。1990年代に米国の干渉排除を目指し中南米の統合を目的に設立され、大きな外交的影響力を発揮した「リオ・グループ」の流れをくむ。中国は中南米戦略の一環としてCELACとの関係を強化しており、コロンビアの「一帯一路」参加をテコに同地域の他の国々に影響力を拡大したいとの思惑があるとみられる。習主席は今度の閣僚級会合で中南米カリブ諸国の開発支援のため90億ドル以上を出す用意があると表明した。
中南米の専門家がもう一つ注目するのは、トランプ政権に対し中南米諸国の間で反米感情が増しているタイミングで中国がコロンビアを取り込んだ点。トランプ政権の不法移民対策、関税政策、対外援助の停止などに中南米諸国が反発を強めているのは確か。その端的な例がコロンビア。周知の通り、今年1月、不法移民をコロンビアへ強制送還する米軍用機の受け入れをペトロ大統領が拒否したため、トランプ大統領はコロンビア産品に50%の高関税をかけると警告、その後、コロンビア側が不法移民の送還受け入れに同意したことで同国への高関税は発動されなかった。「トランプ大統領が”脅迫的手法”でコロンビアを屈服させたとして多くの中南米諸国の間でアンチ・トランプ感情が渦巻いている」(メキシコ有力紙)と伝えられる。
■ コロンビアに強硬姿勢-米国
中国の影響力増大に米国が神経を尖らせているのは言うまでもない。トランプ政権はパナマ運河両端の港湾管理が香港企業によって管理されていることを問題視し、パナマ政府に圧力を加えた結果、同政府が2月、「一帯一路」からの離脱を発表したのはまだ記憶に新しい。パナマが「一帯一路」に参加したのは2017年で中南米ではもっとも早かった。中国にとっては中南米の「一帯一路」参加第1号のパナマの離脱が強いショックだったことは想像に難くない。
中南米専門家の中には、第2次トランプ政権が発足早々、中南米から中国の影響力排除に乗り出したことに危機感を覚え、巻き返しに出ようとしているとみる向きもある。5月のCELAC開催とコロンビアの「一帯一路」参加は新たな中国の中南米戦略の表れではないかという見方である。トランプ政権もコロンビアの「一帯一路」参加が伝えられた直後から、ペトロ政権に対する強硬姿勢を見せている。米有力メディアの報道によれば、対中南米外交を主任務の一つとする米国務省西半球局はこのほど、コロンビアで中国企業が関与するプロジェクトへの国際金融機関の融資に強く反対する方針を明らかにした。現在、コロンビアの首都ボゴタの地下鉄建設事業に中国企業2社がかかわっており、米国務省の方針がこのプロジェクトを指すのは明らか。コロンビアを舞台にした米中間の駆け引きが今後、激しくなりそうだ。
トップ写真:ダニエル・ノボアの大統領就任式に到着したコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領 エクアドル、キトの国民議会ビル(2025年5月24日)出典:Photo by Franklin Jacome/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、
