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.国際  投稿日:2023/3/8

中国艦艇40隻超 南シナ海比島に集結


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・フィリピンが実効支配している南沙諸島のパグアサ島周辺海域に中国艦船が集結。

・南沙省島周辺で中国のフィリピンに対する示威行為が目立つ。

・「九段線」が国際法に違反するという判断が下されたが、中国は現在に至るまでそれを完全に無視。

南シナ海の南沙諸島にあるフィリピンが実効支配を続ける島の周辺海域に3月4日以降、中国の海軍、海警局艦艇や海上民兵が乗り込んだ船舶など40隻以上が集結し、フィリピン側に嫌がらせを続けていることを7日に比沿岸警備隊が明らかにした。

中国は北京で3月5日から全国人民代表大会(全人代)を開催しており、これに合わせて一方的に宣言した自国の海洋権益が及ぶ範囲とする「九段線」における示威行為でフィリピンへの圧力を強めているものとみられている。

比沿岸警備隊によるとフィリピンが実効支配している南沙諸島のパグアサ島周辺海域に中国の艦船が集結して居座っていることが明らかになった。

それによると中国人民解放軍海軍艦艇、海警局艦艇「5203」号に加えて海上民兵が乗り組んでいるとみられる艦船42隻が確認されている。

こうした中国の艦船は3月4日に同海域に展開しているのが確認され、7日現在も同海域に留まっているという。

★約400人が在住するパグアサ島

 フィリピン南部パラワン州プエルトプリンセラの西方海上約483キロの南シナ海にあるパグアサ島は南沙諸島で2番目に大きな島で、1971年以来フィリピンが実効支配し、海軍兵士、沿岸警備隊隊員、漁民などの一般市民合計約400人(うち子供70人)が居住している。

 島には1400メートルの滑走路も整備され、行政的にはパラワン州の一部となっている。

 パグアサ島の南西約25キロの海上には中国が軍事拠点化しているスービ礁がある。

 スービ礁は暗礁で元々はベトナムが支配していたが1988年に中国が攻撃して奪取。以後埋め立て工事を行い3000メートル級の滑走路やレーダー施設が建設され、海軍兵士も駐留するなど完全な軍事基地と化している。

 スービ礁が間近にあることからパグアサ島はたびたび中国から嫌がらせを受けており、2020年には同島周辺海域に中国漁船100隻以上が押し掛けて示威行動を行った。

 また2022年11月20日には中国の大型ロケットからの落下残骸とみられる部品がパグアサ島近くの海域で発見された。フィリピンの海軍兵士が乗ったゴムボートでこの部品をパグアサ島の砂州付近の海域で曳航していたところ中国海警局船舶が妨害し、曳航ロープを切断。残骸部品を奪取するという事態をも起きている。

 この時も比沿岸警備隊は「妨害され、ロープを切断されて奪われた」と説明したが中国外務省は「比側が最初に浮遊物を発見し引揚げ曳航したものの双方が現場で友好的に協議してフィリピン側が中国側に返還した。現場で遮ったり奪い取るなどの状況はなかった」と常套手段である自己正当化に終始し、比世論の大反発を招いた経緯がある。

★繰り返し中国側に警告

 フィリピン沿岸警備隊はパグアサ島周辺に集結して動かない中国の40隻以上の艦艇群に対して「そこはフィリピンの領海内である。直ちに離れるように」という警告を無線で繰り返している。

 しかし中国側からは何の反応もなく完全に無視し続けているという。

 マルコス大統領はこれまでのところ今回のパグアサ島での事案に対して特にコメントをしていないが、2月6日に発生した南シナ海スプラトリー諸島周辺海域での中国海警局船舶による比沿岸警備隊艦艇へのレーザー照射事件を受けて在フィリピン中国大使を大統領官邸に召喚して直接遺憾の意を示すという異例の対応を取っただけに、今後中国に対してさらに厳しい対応を取る可能性もでている。

 2月21日にも比沿岸警備隊の航空機が南シナ海を警戒監視飛行中に、比排他的経済水域(EEZ)内にあるサビナ礁周辺に中国艦船約30隻が集結しているのを発見、航空機は無線を傍受したが意味不明で逆に同海域からの退去を航空機から中国艦船に命じた。

 同様のことは比が実効支配するアユンギン礁周辺海域でも同日確認されており、中国の南シナ海とくに南沙省島周辺でフィリピンに対する示威行為が特に目立つ状況となっている。

★中国の一方的主張と行動

 南シナ海の大半を占める「九段線」を根拠として中国は島嶼や環礁での埋め立て工事などで次々と軍事拠点化を進めており、フィリピンが実効支配するアユンギン礁やパグアサ島に対しても「中国の海洋権益が及ぶ範囲」としてフィリピンの領海やEEZ内にも関わらずに妨害行動や嫌がらせを繰り返している。

 南シナ海を巡ってはフィリピン以外にもマレーシア、ベトナム、ブルネイが領有権を主張して中国と対立している。

 一方的に中国が主張している「九段線」を巡っては2014年にフィリピンのベニグノ・アキノ大統領(当時)がその不当性をオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)に提訴。

 2016年にPCAは「九段線とその囲まれた海域に対する中国が主張してきた歴史的権利は国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」との判断を下した。

 しかし自らの主張が国際的に認められなかったことから、中国はこの判断を現在に至るまで完全に無視し続けている。

 そうした中国の態度が「法の順守」とか「国際的な協調」「対話を通じた問題解決」などという決まり文句とは相容れない自己矛盾、自己撞着を起こしていることを国際社会はすでに見抜いている。

 今の中国では「反省」とか「謝罪」などという類の言葉を用いることは、どんなにその責任が政府にあろうとも中国共産党支配が続く限りありえない状況となっており、それが南シナ海を緊張の海にしているのだ。

トップ写真:南シナ海における中国の人工島の空撮

出典:Photo by Ezra Acayan/Getty Images




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