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.国際  投稿日:2023/3/18

米比合同パトロール 中国が反発


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・南シナ海での米比合同パトロールが中国を刺激。

・フィリピンは天然ガスや油田などの海底資源の開発を推進。

・マルコス大統領の強い姿勢が中国の妨害や嫌がらせに繋がっている。

 

中国が一方的に海洋権益を主張して周辺国との間で領有権問題が起きている南シナ海でフィリピン軍と米軍による合同パトロール再開が進む中、中国が地域の安定を損なうとの理由で反発している

フィリピン政府は、合同パトロールに米だけではなく米の同盟国でもあるオーストラリアや日本の参加も計画しているとされ、実際にそれが実現する見通しは不透明だがもし実現すれば中国の反発はさらに強まることが予想されている。

フィリピンは2月にマニラを訪問したオースティン米国防長官との間で中断していた南シナ海での米比両軍による合同パトロールの再開で基本合意している。

これは南シナ海のフィリピンに近い南沙諸島周辺で2022年末から2023年年初にかけて中国の海軍や海警局船舶によるフィリピン沿岸警備隊艦船などへの妨害行動や嫌がらせが急増している事態を受けたもので、米政府のフィリピンへの軍事的コミットメントを反映したものだ。

米比国防相会談では合同パトロール再開に加えてフィリピン国内で米軍が使用可能とする基地を5カ所から9カ所に増やすことでも合意した。これは南シナ海での警戒監視という側面に加えて台湾有事もにらんだ布石とされ、中国は嫌悪感を露わにしている。

実際に米比陸軍の合同演習も台湾に近いルソン島北東部にある比基地などで実施されるなど「対中シフト」が進んでいるといえる。

■中国大使が合同パトロールに反発

フィリピン地元紙などの報道によると在フィリピン中国大使館のスポークスマンは3月12日、再開が予定される米比合同の南シナ海でのパトロールや米比防衛協力協定(EDCA)の強化拡大に関して「フィリピンの国益と地域の平和と安全に緊張をもたらす」との懸念を示した上で「米国は依然として冷戦時代の思考に拘泥しフィリピンとの軍事的関係を拡大している」と厳しく批判した。

これは在フィリピン米大使館のマリーケイ・カールソン大使が3月10日に地元メディアGMAとのインタビューに答える形で「EDCAは単に地域の防衛に貢献するだけでなく経済にも好影響を与えるものである」としてEDCAに基づくフィリピン国内で米軍が使用できる基地が5カ所から9カ所に増えたことを歓迎したことに中国として反発したものだ。

比米両国はEDCAに基づいて拡大した4つの基地の場所など詳細を明らかにしていないが、米比陸軍の共同軍事演習「サラクニエ演習」が3月13日から台湾に近いルソン島北東部イザベラ州にあるメルチョラデラクルス基地を中心に実施されており、今年は例年に比べて同演習がレベルアップされたうえ外国からの侵攻を想定としていることなどから「台湾有事」をも念頭にした演習とされていることが中国を刺激しているのだ。

■「習近平を信用するな」の論調

フィリピンの地元紙「スター」は習近平国家主席が率いる中国が「協定破り、見せかけの書類への署名」「前言翻し」などを常套手段としていることを指摘して「マルコス大統領は習近平国家主席が信用できないことを悟るべきだ」と訴えた。

同紙は1月にマルコス大統領が中国を訪問して習近平国家主席との首脳会談で南シナ海問題は「対話を通じて友好的に処理する」ことで合意した。

にもかかわらず2、3月にフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるスカボロー礁やセカンド・トーマス礁などで中国海警局船舶や海軍艦艇、海上民兵が乗り込んだ船舶などによるフィリピン沿岸警備隊艦船などへの進路妨害、嫌がらせ、レーザー照射、居座りなどが続発する状況が繰り返されていることを例示して「習近平国家主席と中国は信用できない」と断じた。

■海底資源の開発に注力すべし

国際問題の専門家はフィリピンが南西部パラワン島沖海域の比EEZ内にあるリード洲で天然ガスや油田などの海底資源の開発をフィリピン政府は許可して推進するべきだと主張している。

しかしインドネシアやマレーシアが現在実施している海底資源開発に中国は強い関心を寄せ開発現場周辺海域に海警局船舶を派遣して監視活動を続けており、フィリピンがリード洲周辺海域で海底資源開発に本格的に着手すれば、同様に中国による監視や嫌がらせが発生し、南シナ海での緊張がさらに高まるとの懸念もでている。

中国とフィリピンの関係はドゥテルテ前政権が経済優先政策から融和的姿勢をとったため比較的穏やかに推移したが、マルコス大統領は就任以来対中国関係を重視するものの領土問題、南シナ海問題では一歩も譲歩しない強い姿勢に転換したことで中国は警戒感を高め、それがフィリピンの沿岸警備隊艦船への妨害や嫌がらせの頻発に繋がっているものとみられている。

トップ写真:中国大使館の前で、西フィリピン海域への中国船の侵入に抗議するデモ隊(2021年6月21日 フィリピン・マニラ)出典:Photo by Ezra Acayan/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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