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.国際  投稿日:2023/3/21

バイデン大統領をどう評価するか その4 統治能力への不安


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・数々の失態にも関わらず、バイデン大統領は2024年大統領選立候補をちらつかせている。

・選挙作戦として、唐突にトランプ氏個人を標的とした演説を始めた。

・バイデン政権はトランプ氏の非や負を叩くことで勢いを保っていたが、その構図が大きく変化。

 

2023年1月に岸田文雄首相が訪米した日米首脳会談でも、バイデン大統領との共同記者会見がなかったのは、明らかに大統領側近のそうした配慮からだった。つまりバイデン大統領がどんな失言や放言をするかもしれないという懸念からである。

ただしアメリカ側において、民主党支持の顕著なニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNといった大手メディアは、バイデン大統領のその認知症気味ともされる失態部分をほとんど報じない。

この種の大手メディアの報道への依存が大きい日本の主要メディアでも、アメリカ大統領の勤務能力へのこの疑問を伝えることが少ない。日本側でアメリカ政治の現実を正確につかむうえでの大切な注意点である。

だがバイデン大統領もその最側近も、2024年の大統領選挙には再び立候補するという意図をすでに散らつかせている。民主党内では多様な理由からバイデン再出馬には反対という意見が強いが、有力な対抗馬はいまのところ出ていない。

バイデン氏自身は明らかに、自分がトランプ氏を選挙戦で破った唯一の政治家だという「実績」を最大のカードとして再出馬への構えをみせてきた。その選挙作戦とも呼べる言動としては、昨年11月の中間選挙の直前から、唐突ともいえる形でトランプ氏個人を標的とした演説を始めたことがあげられる。

バイデン大統領はそれまではトランプ氏やその支持層への批判も激しい集中攻撃とまではいかず、政策面の相違にも重点をおくという感じであったが、昨年11月上旬の主要演説でトランプ氏を「民主主義の敵」とか「アメリカの敵」と集中的に断じた。

まず、トランプ氏がバイデン氏の選挙での勝利を認めないことが「アメリカ民主主義の否定」だと糾弾する。さらに、トランプ氏が大統領在任中の機密文書をそのまま自邸に持ってきていたことに対して連邦捜査局(FBI)が家宅捜索したことをも指摘していた。

それでなくてもバイデン政権や民主党側はトランプ氏の非や負を叩くことで勢いを保つ部分も多かった。ところがその構図もここへきて大きく変わってしまった。バイデン氏が「民主主義への脅威」として糾弾してきたトランプ氏の機密文書の流出が、ブーメランのような形で自らにも襲ってきたのだ。

バイデン大統領がオバマ政権の副大統領として扱っていた機密文書多数がバイデン氏のワシントンでの民間執務室とデラウェア州の自宅でみつかったというのである。民間執務室では昨年11月2日に、自宅では昨年12月に、いずれも同氏の弁護士たちが発見し、司法省や国立公文書館へ届けたというが、外部には内密にされた。そして今年1月9日にCBSテレビが報道して初めて一般に知らされたのだった。

以来、アメリカのメディアはホワイトハウスやバイデン大統領自身に連日、この件の実情を問う質問を浴びせ続けるようになったが、いまだ明快な解答は出ていない。バイデン政権側はノーコメントや曖昧な言辞だけを続けているのだ。実は岸田首相の来訪はまさにその時期だった。

(つづく。その1その2その3

**この記事は月刊雑誌『正論』2023年4月号に載った古森義久氏の論文「国際情勢乱す米国政治の混迷」の転載です。

トップ写真:機密文書は見つからなかったと報道陣に話す大統領特別補佐官兼ホワイトハウス顧問室報道官のイアン・サムス氏(2023年2月1日アメリカ・ワシントンD.C.)出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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