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.国際  投稿日:2023/4/22

犯罪急増で市民に”武装”呼びかけ、大統領は弾劾目前-南米エクアドル


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

エクアドル、治安急速に悪化、殺人件数は中南米4位。

・アルバニア麻薬組織の暗躍が大きな要因。

・議会、大統領弾劾裁判に向け野党勢力攻勢強める。

 

■「自分の身は自分で守れ」に非難ごうごう

 南米のエクアドルと言っても、日本ではあまりマスコミで取り上げられることがないが、今年は日本とともに国連安保理の非常任国メンバーとなっており、国際社会で一層注目されることだろう。

そのエクアドル国内では今、異常な事態が起きている。犯罪増加に伴う治安の急速な悪化だ。同国の有力紙「エル・ウニベルソ」は「殺人事件は過去5年間で7倍増加、エクアドル史上最悪になった」と伝えている。中南米カリブ地域の犯罪・治安問題を調査・分析しているシンクタンク「インサイト・クライム」によれば、2022年のエクアドルの殺人件数は10万人当たり25.9人で、ベネズエラ、ホンジュラス、コロンビアに次いで同地域で第4位。5位のメキシコ、7位のブラジルよりも殺人件数が多い。エクアドルでの殺人事件の大半は麻薬取引に絡むもので、コカイン密売組織同士の抗争、同組織と軍・警察との衝突、それに市民が巻き込まれるといったケースが目立つ。

殺人事件だけでなく、強盗や暴行事件も多発、収容能力9千500人の国内最大の刑務所に1万2千人の囚人が押し込められ、刑務所暴動もしばしば起きている。こうした事態にラッソ大統領はこのほど、「自分の身は自分で守れ」と銃で武装するよう市民に訴えた。これに対し野党や市民団体からはラッソ政権は有効な治安対策を打てず、統治能力を失ったと非難の声が一斉に上がった。

                       

■グアヤキル港が麻薬組織の抗争舞台

 エクアドルの治安悪化を招いた大きな要因の一つが外国からの犯罪組織の流入とする見方が現地では有力。ロシア、メキシコ、コロンビアの麻薬カルテルも活動しているが、とりわけ、悪名高いアルバニアの麻薬密売組織のメンバーが1990年代に大量にエクアドルに入国したことが最大の問題点と指摘されている。アルバニア人は最近まで、ビザなしでエクアドルに入国できたことが麻薬組織によって悪用されたといわれる。

現地の別の有力紙「オイ」の記者の話では、アルバニア麻薬組織はペルーやコロンビアからコカインを仕入れるルートを確保、エクアドル最大の都市グアヤキルの港から欧州へ運び出す仕組みを構築したという。

同紙記者は、最近グアヤキル港で押収されたコカインの半分近くがアルバニア組織による欧州向けだったと述べている。エクアドル治安当局関係者によれば、アルバニア組織はエクアドル国内にフロント企業をいくつも設立し、表向き通常のビジネスに従事しているよう見せかけるケースも多い。

また、同組織はグアヤキル港からの欧州向けコカイン積み出しルートの支配権をめぐり、ロシアやメキシコなど他の組織との抗争を繰り返しているという。数年前、エクアドル治安当局によって捕らえられたアルバニア人犯罪グループの大物がその後、欧州に逃亡する事件も起きている。

 

■議会解散を警告、強気の大統領

 こうした中、肝心の政府は足元が大きく揺らいでいる。ラッソ大統領が議会で弾劾裁判にかけられそうな状況に陥っているからだ。野党勢力は、大統領が原油輸送事業に絡む違法な契約に関与した上、大統領の義弟が麻薬取引に関係している疑いがあるとして追及に力を注ぐ。大統領はこれらの容疑をを否定するとともに、同契約については2021年大統領就任前であると弁明している。しかし、エクアドル憲法裁判所は野党側の主張を認め、議会での弾劾裁判手続きの開始にゴーサインを出した。

エクアドル国会は一院制で定数は137。ラッソ大統領の与党は12議席しかなく、他の連携政党を入れても過半数に達せず、大統領にとっては苦しい状況。弾劾成立には92の賛成票が必要とされている。大統領は一部外国メディアとのインタビューで弾劾阻止に自信を示す一方、野党側が弾劾へのプロセスを強行するなら、議会を解散し、大統領選を含め総選挙を行うと警告、強気の構えを見せている。エクアドルは新型コロナウイルスや燃料価格急騰により大きな打撃を受けたが、世界銀行の最新予測では今年の成長率はプラス3パーセントと比較的明るい見通しが伝えられたばかり。「せっかくの経済回復も、治安悪化と政局の不安定化で台無しになりかねない」(エクアドル最大の日刊紙「エル・コメルシオ」)との嘆きに同調する声が現地では高まっているようだ。(了)

 

トップ写真:議会での弾劾裁判開始の手続きされる中、会議に出席するエクアドルのギジェルモ・ラッソ大統領(2023年3月6日)

出典:Photo by Franklin Jacome/Agencia Press South/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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