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.政治  投稿日:2023/5/26

まだ1年半、本当に衆院を解散するのか


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・広島サミットを機に内閣支持率がアップし、永田町の解散風が強まった。

・首相の支持率回復など有利な形勢が整う今こそチャンスとみられるからだ。

・衆院議員任期を半分以上残し、自らの利益を考える“利己的解散”など許されまい。

 

永田町の解散風が強まったのは見せ場の多かった広島サミットを機に、内閣支持率がアップしたことが最大の理由だ。

株価の上昇など好ましい状況もあるため、これらを追い風に、選挙に打って出て勝利をめざそうという目論見だ。

前回の総選挙から1年半余り、国民の判断を仰ぐべき重要課題もない時に、議員任期を半分以上残して、自らの利益のために衆院を解散するなど許されるのか。

税金からの多額の経費支出も必要となる。政治の私物化と言われてもやむをえまい。 

■ 首相は否定するも宮沢発言が煽る

岸田首相は5月24日の衆院予算委員会、21日のサミット終了後の記者会見などで、いずれも、「重要な政策課題について結果を出すことに集中しなければならない」などを理由に、解散の可能性を明確に否定した。

首相発言と同じ22日、参院議員の宮沢洋一党税制調査会長が「内閣不信任案がだされたら、首相の性格から受けて立つだろう」と解散風を煽り立てるような発言をして波紋を呼んだ。

解散は首相の専権事項であり、それについては「うそをついても許される」といわれることに加え、首相のいとこという親しい関係にある宮沢氏が煽る発言をしたことが手伝って、解散風がにわかに猛威を振るい始めた。

 支持率アップに株高、有利な状況が拍車

永田町の〝生臭い〟風は統一地方選後半、岸田内閣の中間評価と言われた衆参5選挙区の補欠選挙で辛勝ながら、4勝1敗という好結果が得られたことで吹き始めた。

サミット期間中の5月20、21の両日、読売新聞が行った世論調査での岸田内閣支持率は前月より9ポイントアップの56%。同じ日に行われた毎日新聞の調査でも45%とやはり9ポイント上昇した。

これに加え、3万1千円台を回復した株高など好ましい経済をにらみ、「いま選挙を断行すれば勝てる」という議員心理が強まった。 

統一選で躍進した日本維新の会はじめ野党の準備が整わないうちに、という計算もあるようだ。今国会会期末の6月21日前に解散、安倍晋三首相の一周忌翌日の7月9日に投票という説などもまことしやかにささやかれている。

■ 国民の信を問うべき政策課題があるのか

憲政の常道に従えば、解散・総選挙は、内閣不信任案が可決されたり、政策、法案をめぐって与野党の主張が全面対立し、国民の判断を仰ぐ必要がある場合などに断行されるべきだ。

いまは、これらのいずれの状況でもないし、与野党の勢力拮抗解消めざして総選挙を行う必要があるかといえば、与党が絶対安定多数を確保している現在、それもあてはまらない。

ベストタイミングで解散すれば勝利濃厚、議員は落選を免れ、党は勢力を維持、または拡大することができる。いまの解散ムードの裏には、こうした思惑以外に何があるだろうか。

 公明党との意見相違がネックか

自民党内には早期解散への慎重論も少なからず存在する。

勢いに乗る維新と短期間のうちに再び戦うのは危険だという判断は少なくない。

岸田首相周辺には、最大の目的である来年秋の自民党総裁選での再選に向け、現時点で総選挙で勝利したとしても、1年半も政治的な勢いが持続するかという懸念も指摘されている。

衆院定数の「10増10減」による候補者調整が与党の一角である公明党との間でこじれていること、同党がさきの地方選で大きく議席を失い、総選挙を戦う力を失ったこともマイナス材料だ。

 大平、宮沢首相になぞらえるが・・

岸田首相はサミット前、会長を務める派閥「宏池会」のパーティーで、それぞれ1979(昭和54)年と1993(平成5)年の東京サミットで議長を務めた2人の派閥先輩、故・大平正芳首相、故・宮沢喜一首相に言及。自らを含め「転換期のサミットの議長」と胸を張った。

大平氏はサミットが開かれた年の秋に衆院を解散、宮沢氏は政治改革にからむ内閣不信任決議可決を受けて、サミット前にやはり解散に踏み切ったが、いずれも惨敗した。

2人の先輩と自らを並べて語る岸田首相には、これらの選挙結果をどうみているのか。

あくまで国家・国民のための解散時期を考えるべきだろう。

トップ写真: G7サミット最終日にG7世界首脳らに加わるウクライナのゼレンスキー大統領(中央)(2023年5月21日 広島)出典:Photo by Getty Images/WPA Pool / プール




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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