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.社会  投稿日:2023/5/30

ネパールと日本の医療の”スタンダード”の違い


金田侑大(北海道大学医学部)

【まとめ】

・春休みにネパールの3病院を回った。

・同国では、患者に食事が出ず、医療従事者が患者の世話をしてくれることもない。

・医者はほぼ全員、アルバイトをしていて本来の病院にいるのは数時間だけ。

 

病院のシングルベッドで一家団欒。

久々のお見舞いではありません。ネパールの入院患者の毎日です。

春休みに訪れたネパールの病院で、ベッドをいつも、患者さん一人で広々と使えているような人は、妊婦さん以外にはほとんど見かけませんでした。

 

さて、私は春休みに3つのネパールの病院(パタン病院、チョウジャリ病院、Green Pasture病院)をまわらせていただきました。この3つの病院をまわった際に、共通項ではありながら、日本の医療とは大きく違うなと感じた点がいくつかありました。

 

まず、食事について。日本では入院患者に対しては、特別な制限のない一般食や、疾患や治療に合わせて栄養量が細かく設定されている治療食といった形で、医師の指示のもと(時には管理栄養士が監修し、)治療戦略の一部として、患者さん一人ひとりの状態に合わせた食事が提供されます。

しかし、ネパールの病院では、入院している患者にスタッフがご飯を配膳している場面に出くわすことは一度もありませんでした。それもそのはず、ネパールではたとえ大学病院であっても、患者に食事が出ないことが平常運転だからです。(糖尿病患者向けの食事が用意されることはあったりするそうです)

写真)ネパールの病院で子どもを診察する金田氏

筆者提供)

栄養バランスも気になるところですが、この背景にある問題は、コストや衛生状態といった問題ではなく、伝統的身分制度、いわゆるカースト制度*です。ネパールの方々は通念として、“身分が違う人がつくった料理を口にしてはいけない”と考えているそうで、この価値観が病院での食事の提供を妨げる要因となっています。

次に入院について。先ほど、ネパールでは病院食が出ないと書きました。では、入院患者の食事は誰が準備するのか。患者の家族です。ネパールの一般的な病院では、食事が出ないだけでなく、看護師さんなどの医療従事者が、患者の身の回りの世話をしてくれることはありません。そのため、入院する場合は家族などの付き添いが必要になります。私が訪れた3つの病院全てで、シングルベッドに患者一人で寝ている光景を見ることはほとんどありませんでした。あったとしても妊婦さんぐらいでしょうか。

その他の患者の場合は、パートナーや親とぎゅうぎゅうになりながらベッドをシェアして寝ています。二人分以上かかってしまう食事や滞在費のことを考えると、なかなかネパールで入院という選択肢を考えることって厳しいなと感じました。

そして、医師の勤務スタイルについて。医者といえば食いっぱぐれはない、というのが日本でのイメージだと思いますが、意外にもネパールの医者はほぼ全員、アルバイトをしています。それもそのはず、ネパールの医師の給料は大体月に6万円前後です(ネパールの一般的な平均月収は約1万円)。大学教授などになれば月20万ほどになるのですが、ネパールの医学部に通うのには合計で4~500万ほどかかると言われていることを考えると、これでも全然十分ではありません。

そのため、大体どの医師も毎日コンサルタント、パートタイムの医師として働いており、本来の病院にいるのは数時間というのが現状です。パタン病院などは特に特徴的で、病院の隣にクリニック用のルームが用意されていて、定時になると先生たちが皆んなそっちに移動して、時間外診察を始めます。時間外診察の利点は、患者側が自分でどの医師に診てもらうかを選べるという点です。そのため、診察代なども割高ですが、結構な方が利用されている印象でした。

余談になりますが、ネパールでは医学部の入試形式も独特です。例えば定員が100人の医学校があったとして、大体その3倍ほどの合格者が出るのですが、入学金を準備できた人から入学が認められるという形式になっているそうです。そのため、受かった時点から、いかにお金をかき集めるかという勝負が始まります。ネパールの医学生の友達はたくさんいますが、ミスネパールだったり現地の俳優だったりと、何かと有名人が多いのですが、実際に現地の医師の方々から話を聞いてみると、なるほどそりゃ一般人には無理だよなと感じました。

海外に行くたび、世界は広くて、自分はちっぽけだなと感じます。そして、医療というのは、つくづく人類学だなとも。文化や社会通念、宗教などが複雑に絡み合って、その上に、その土地での医療の歴史と実践があります。ネパールの医療を2週間見させていただいただけでも、日本とこんなにも違うのか?!と驚きの連続です。制度があるからといって、その上で全ての物事が動いてるとは限りません。情報が誰でもインターネットで手に入るようになった現在だからこそ、一次情報に自分で当たりにいく。コロナの規制が緩和されつつある今こそ、そのような価値が再認識されるようになるといいなと思います。

*カースト制度について

ネパールの身分制度は、主にヒンドゥー教のカースト制度に起源を持ちます。カースト制度はインド周辺で見られる社会的階層制度で、伝統的に神職や学者を担うバラモン、戦士や統治者の役割を担うクシャトリア、商人や農民、職人などの役割を担うヴァイシャ、そして労働者や奉仕者の役割を担うシュードラという4つの身分階層に分かれています。また、これらのカーストに属さないダリットと呼ばれる階層も存在します。彼らは不可触民とされ、これまで厳しい差別や制限の対象とされてきました。

 ネパールでは、カーストに基づく差別は憲法で禁止されており、政府は差別の撤廃やカースト制度の改革に取り組んでいます。しかし、根強い伝統や社会慣習のために、現実にはカースト制度が完全に解消されていない状況が続いています。結婚、職業選択、社会的交流、さらには医療現場に至るまで、ネパール社会のあらゆる側面に影響を与えています。

 

トップ写真:カンティ小児病院を訪問するハリー英国王子 2016年3月23日 ネパール・ポカラ 出典:Photo by Danny Martindale/WireImage




この記事を書いた人
金田侑大

スイスはフラウエンフェルト出身。母は日本人、父はドイツ人というバックグラウンドで育つ。私立滝中学校、私立東海高等学校を経て、現在は北海道大学医学部医学科4年に在学中。2021年9月より1年間イギリスのエディンバラ大学に留学し、医療政策や国際保健といった分野を学んだ。ハリーポッターの地、エジンバラで魔法使いになるべく一年修行するも、残念ながらマグルだったようで無念の帰国。将来、図らずも病院に来ることになってしまったたくさんの方々を、笑顔にして見送れる魔法を使えるように、北海道の病院で再修行させていただいております。

金田侑大

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