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.社会  投稿日:2023/8/14

ジャニーズ問題で明るみに出た男性性被害


Japan In-depth編集部(渡辺結花、菅谷瑞希、樊明軒)

【まとめ】

・男性の被害者はこれまでほとんど認知されず、長い間苦しめられてきた。

・法改正により改善されたものの、時効や性行同意年齢など課題は残る。

・犯罪の抑止のためには、性教育が必要不可欠。

 

■ ジャニーズ問題から見る男性性被害

ジャニーズ問題をきっかけとして、男性性被害者への視点見直しの機運が高まりつつある。さらなる促進のために、何が必要か。当事者団体にインタビューした。

ミュージシャンのカウアン・オカモト氏がジャニーズ事務所の元社長、故ジャニー喜多川氏から性暴力を受けていたことを告発した。2003年に東京高裁がセクハラ被害の事実性を認めていたにも関わらず、問題が表面化しなかった背景には、男性が暴力の「被害者」となることへの世間の目がある。「男なのに」「抵抗できたはず」などの言葉をぶつけられ、誰にも相談できない場合が多いのだ。

政府の運営する性犯罪・性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」には、年間7606件の相談が寄せられているが、男性からの相談件数は10%程度、さらに電話相談の次の段階である面談では2%に留まってしまう。(「共同参画」2020年7月号)

ジャニーズ問題に関して、7月にSNSを通じてGoogleフォームを利用したアンケート調査を行ったところ、44名の一般人から回答があり、43名がジャニーズ問題を知っていると答えた。

さらに、今回のジャニーズ問題までは男性が被害者になるとはそもそも思っていなかった。性被害といえば女性というイメージだった、といった声が寄せられ、男性被害者の抱える生きづらさが浮き彫りとなった。

次に、ジャニーズ問題の報道を受けて、特に感情が変化していないと回答した人が多くいる一方で、男性も被害者になり得るのだということ、そして性別に関わらず、性被害を受けた人は被害の声を上げづらく、セカンドレイプなどにも悩まされ、社会がそのような人たちを生きづらくさせてしまっているのだと感じた、告発した人がおそらく被害者全員ではないこと、また、芸能界で生きることには感謝しているといった旨の発言を見て少し引いてしまったといったように一部の人に心情変化があったことも見受けられた。

裏を返せば、被害者が被害を告発できなければ、世間の男性被害者への視線はそうそう変わらないのである。しかし、被害者にとって自身の経験を吐露するのは精神的にとても厳しいものだ。

■ 性犯罪の防止にに取り組む当事者団体に聞く

こうした状況に対して、性犯罪の当事者団体である一般社団法人Springの幹事西東京市市議会議員の納田さおり氏は次のように語った。

▲写真 zoomでの取材の様子(2023年7月9日)出典:Japan In-depth編集部

編集部: 性被害に遭われた方々は、その後の人生を生きる上でどのような点に生きづらさを抱えるのでしょうか。

納田氏: 性犯罪はその人の人生に大きな被害の影響を与えるものだと痛感しています。例えば幼少期に被害にあった場合は、一生モノのトラウマになることが多いです。すぐに鬱などの様々な症状が表に出るわけではありませんが、何年も経ってからいきなり発症する場合があります。電車で痴漢にあった場合は電車に乗ることができなくなるなど、深刻な症状が発症するケースが多くみられます。ある程度時間が経っても、被害にあった日が近付くと何らかの症状が出てしまう「記念日反応」に陥ってしまう人もいます。

編集部: 上記の点について、男性被害者の場合と女性被害者の場合で違いはありますか。また、あるとしたらどのような違いでしょうか。

納田氏: 男性被害者の方は女性被害者とはまた異なる傷を負います。というのも男性は社会の中で「男らしさ」を背負わされており、「なぜ逃げられなかったのか」「逃げられなかった自分が悪いのではないか」と自らを責めてしまうケースが多いのです。女性被害者の場合も、例えばミニスカートを履いていて被害にあった場合は、「危機意識が足りない」「そんな格好をしているのが悪い」と言われてしまうのが現状ですが、男性はさらに責められる傾向にあります。社会全体の性被害者に対する見方が変わって欲しいと思います。

編集部: ありがとうございます。そうした「男なのに」「抵抗できたはずなのに」という視点が、裁判には何か影響をもたらすのでしょうか。

納田氏: こうした視点、というよりも、もともと法制度が男性に不利なものでした。実は、長年男性が性犯罪被害者として認められることは法律的に不可能だったのです。2017年に110年ぶりの性犯罪に関する法律の改正が行われ、これまで女性に限定されていた強姦罪の被害者が「性別を問わない」ことになりました。そうした意味では、法廷の中では「逆男尊女卑」であったと言えますね。

編集部: そうした法律上の不平等に関連して、貴法人のHPでは「刑法性犯罪規定の改正」を目指しアドボカシー運動とロビイングに取り組まれていると拝見しました。改正にあたり、どのような課題があるでしょうか?

納田氏: 一つ目は時効についての問題です。アドボカシーを続けた結果、法改正を議論する刑事法検討会と法制審査会にSpringのメンバーが入れるようになりました。これは大きな成果だと思いますが、今回の法改正では時効について、5年の延長と幼少期に遭った被害は事実上18歳までの時効の停止という変更しかなされませんでした。ジャニーズ問題のように何年も経ってから罪が明るみに出る場合も多いので、まだまだ短いですよね。そもそも「5年」という数字は、内閣府が行なった調査対象のうち被害の相談が出来た方の9割の47人が「5年以内に相談した」と解答しているからですが、一方で6割の85人の方は誰にも相談していないと答えているのです。相談できない方々を切り捨てるのではなく、もっと広い視点での調査が必要ではないかと思います。

二つ目は性的同意年齢の問題です。今回の改正では16歳に引き上げられ、13歳以上16歳未満の場合は5歳以上の年齢差があれば無条件で犯罪に問われる「5歳差要件」が追加されました。しかし、本当に5歳差で良いのか、18歳の成人が15歳の中学生に成果買いをしても5歳差用件で無条件に罪に問えない状況で良いのか等課題は残ります。

編集部: ありがとうございます。次に少々話題が変わりますが、貴法人のHPでは、性被害に遭われた方の56.1%が誰にも相談できず、相談できたとしてもそれまでに長い年月が必要になっているとの記載がありました。それはなぜでしょうか。

納田氏: 「性犯罪のもたらす影響の重大さを周囲に理解されない」というのが大きいと思います。性犯罪はその人のアイデンティティを揺さぶるほどのダメージを与えますが、周囲に話すとその被害者側が責められてしまう、また、大したことのない問題のように扱われてしまう場合が数多くあるのです。また、どうしても性についての話題を「恥」としてタブー視する考え方が残っていることも要因です。「あなたは悪くない」「言っていいんだよ」という空気感を作っていきたいですね。さらに、許し難いことですが家族が加害者となるケースもあります。特に一家を支える父親が加害者だった場合は、父親を失い一家がバラバラになってしまうのではという恐怖から言い出せないケースも多いです。

編集部: 性被害を未然に防ぐためには法改正以外に何が必要でしょうか。

納田氏: 性教育が絶対に必要だと思います。例えば、同意なしで性交すれば不同意性交等罪として罪に問われると知らなかったら、気付かぬうちに加害者になってしまう場合もあります。「いやよいやよも好きのうち」という言葉がありますが、「いや」は「いや」なのだという意識を高め、「Yes」のみが同意であるという性交同意が、年齢に応じた性教育によって社会常識になることが重要です。また性暴力がもたらす性病は、不妊症に繋がったり、命に直結する場合もあるので、そうしたリスクもきちんと教えていく必要があります。性に関する話題を「恥」でなくしていきたいです。

編集部: ありがとうございます。最後に、ジャニーズ問題についてどのようにお考えでしょうか。

納田氏: 以前から噂や裁判があったにもかかわらず大事にならなかったのは、一般市民の中にも「芸能界だから特別」と感じ、何も言わない、言えない期間が長かったからではないでしょうか。この意識こそが、性暴力や性犯罪を増やしてしまった要因ではないかと考えています。法改正を機に、性暴力・性犯罪のない社会を作りたいですね。

ジャニーズの性暴力をめぐる一連の報道を受け、少しずつ性被害に対する風向きは変わりつつありますが、依然として生きづらさを抱える人は多いです。特に、女性が被害者となるセクハラ等が物議を醸すことが多いですが、物理的には抵抗が可能な男性も、精神的・環境的な要因で抵抗できず、長く苦しんでしまうことがあります。7月26日に、政府は男性•男児に特化した性被害の相談窓口の開設などを盛り込んだ性被害防止の緊急対策を発表しました。今、この機を逃さずに状況を打開していく必要があると思います。

■ インターネット上でのアンケートの結果(一部抜粋)

▲写真 街頭インタビューで話を聞いたアメリカ人旅行客「日本に来る前までジャニーズ問題は全く知らなかったが、旅行中に何度かニュースを見た。あってはならないことだと思う。」と述べた。出典:Japan In-depth編集部

本アンケートではジャニーズの性被害問題について調査し、SNSを通じて回答を集計した。回答者43人の内訳は以下の通りである。まず男性14人、女性29人であった。年齢は19歳12人、20歳21人、21歳9人、23歳1人と20歳前後の大学生がほとんどであった。

この報道について、42人が知っていると回答し1人が知らないと回答した。また、この報道について何で情報を知ったかという質問に対しては、テレビが16人と最も多く、次いでTwitterや YouTubeなどのSNSが11人、媒体無記載のニュースが9人、ネットニュースが5人という結果であった。

ジャニーズ問題を知る以前には、男性性被害について「興味なし」または「考えたことが無かった」と答えた人が約4割を占め、最も多い意見だった。また、ニュースを見た後も4人に1人は「感情に変化はない」と答えている。

-解答抜粋-

Q1. ジャニーズ問題を知る以前、男性被害者への感情はどのようなものでしたか?

・可哀想

・男性が被害者になるとはそもそも思ってなかった。

・男性に対しての性被害は女性に対してと違って少ないので、考えたことがなかった。

・性暴力において男性被害者の存在を重視することは元々なかったように思います。性被害ときけば女性をそのままイメージしていました。

・あまり世間から認知されず、社会的に弱い立場

・ジャニーズ事務所には元々そういう性被害が横行してる噂を聞いたことがあったが、具体的な話は知らなかったため、あまり問題視してなかった。

Q2. ジャニーズ問題を知った後、どのように男性被害者への感情は変化しましたか?

・男性も被害者になりうるのだと知り驚いたとともに可哀想だと思った。

・一部の人しか関係がない話だが、繊細な問題だけに取り上げられて議論されるのは良いことだと思います。

・男性も被害者になり得るのだということ、そして性別に関わらず、性被害を受けた人は被害の声を上げづらく、セカンドレイプなどにも悩まされ、社会がそのような人たちを生きづらくさせてしまっているのだということ、を感じました。

・ジャニー氏の性加害報道後に裸踊りの動画が流出されたがそこで未成年をポルノのように扱ったことが許せないと思った。又、同性愛者の絡み合いはよくお笑いの一種として考えられる風潮が当事件での被害者の訴えも踏まえるとそのような風潮を是正すべきだと思った。

・元々そういうの(タレントへの性暴力)はありそうだと思っていたが、実際そういうことがあるとなると、彼らの精神面が心配になる。特に、今までは周知の事実ではなかったから精神的な安定は保てた面もあると思うので、こういう事実が公になった後の彼らへの精神的なケアが必要だと思う。

・特に児童期における精神的ストレスはその後の人生にも多大な影響を及ぼすことから、事実の究明と被害に遭われた方の二次被害(PTSD)を最小化するための支援が必要だと思った。

・マスコミとかメディア関係者も性被害について暗黙の了解で報じることはできずにいたことを知って、被害者の行動は勇気ある行動だと感じた。

トップ写真:ジャニーズ事務所(2023年5月25日撮影)出典:Japan In-depth編集部




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