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.社会  投稿日:2023/1/3

知ることで守れる命 HPVワクチン普及に向けた取り組み


Japan In-depth編集部横塚愛実

【まとめ】

・若者にHPVワクチンについて広く発信する会「Vcan」のメンバー、荒井秀真さんにインタビューを行った。

・Vcanでは来年の3月に大阪でHPVワクチンについて学ぶフェスを開催する予定で、そのために現在クラウドファンディングを実施している。

・HPVワクチンに留まらず、若者が問題意識を持って情報を共有していく場が必要。

 

今回「性をもっとオープンに」シリーズ第4弾として、若者にHPVワクチンについて広く発信する会「Vcan」のメンバー、荒井秀真さんにインタビューを行った。

荒井さんは医学生のキャリア支援を行っている学生団体「メドキャリ」の代表をつとめるなど、精力的に活動を行っている。

▲写真 Vcanメンバーの東京慈恵会医科大学5年 荒井秀真さん 出典:本人提供

日本で年間10000人以上の女性が発症し、約2900人の命が奪われている子宮頸がん。主にHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因で発症する。性交渉の経験がある女性の内、5〜8割がHPVに感染していると推計されている。

ウイルスの約90%が2年以内に自然治癒するが、感染したままにすると一部の人でがんを発症する事がある。つまり、子宮頸がんはHPVワクチンを接種すれば高い確率で防ぐことのできる病気なのだ。

世界的に見ると、HPVワクチンの接種率や検診の受診率は70%を超える国もある。しかし日本ではワクチン接種による副反応を訴える声が相次ぎ、2013年に厚生労働省がHPVワクチンの積極勧奨を中止したという経緯がある。そして現在、日本における接種率は1.9%と他の国に大きく後れを取っている。

▲写真 日本のHPVワクチン接種率 出典:厚生労働省HP

そうした中、厚生労働省は2021年11月、「最新の知見を踏まえ、改めてHPVワクチンの安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められた」(「ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の今後の対応について」厚生労働省健康局長 令和3年11月26日)として、ワクチン接種の積極勧奨を再開した。今年10月からは従来のワクチンよりも高い感染予防効果があるとされる9価ワクチンの定期接種を行う方針も決定された。

現在、HPVワクチン接種の積極勧奨がなされていなかった時期に対象年齢であった1997-2005年生まれの女性には無料で「キャッチアップ接種」が行われている。このキャッチアップ期間は2025年3月までなので、この世代に向けてHPVワクチンに関する情報を発信していくことが急務である。

荒井さんが所属している「若者にHPVワクチンについて広く発信する会 Vcan」は、全国の医学生を中心とした学生団体だという。この団体は「知らなかったまま、後悔しないでほしい」という思いをもとに、HPVワクチンに関する情報発信を行っている。

そして2022年11月17日よりクラウドファンディングサイト「READY FOR」にて、#子宮頸がんを過去のものに というハッシュタグを掲げてクラウドファンディング企画[1] を開始した。

クラウドファンディングは1月15日の午後11時まで受け付けており、既に200万円は達成したという。この資金を活用し、来年の3月4日に大阪でハンドペイントフェスを開催する予定だ。

そのフェスでは、蛍光ハンドペイントを使ったレクリエーションや、現役産婦人科医によるHPVワクチンのレクチャーが行われるという。このイベントを通してHPVワクチンについて学び、参加者には「知識を伝えられる人」になってほしいと荒井さんは語る。

▲写真 クラウドファンディングについて説明する荒井秀真さん 出典:本人提供

キャッチアップ世代は約787万人もいます。調査によるとその若者のうちの55.4%しか、HPVワクチンについて知らないんです。あと2年で350万人以上に周知活動を行うのは僕たちの力だけでは無理なので、知を伝播させられる人を増やしていくための活動をしています」と荒井さんは語る。

「若者にHPVワクチンについて広く発信する会Vcan」では、現在SNSの発信や、メンバーの母校を訪ねてワクチンについて伝える中高ツアーを実施している。今後、先ほど取り上げた来年開催予定のフェスに参加した人の母校にも訪問し、「伝える輪」を徐々に広げていくそうだ。

荒井さんに、Vcanの今後の展望について聞いてみた。メイン活動としての中高ツアーをしっかりと継続しつつ、東京でのイベントも開催することを目指しているという。

HPVワクチンに留まらず、みんなが問題意識を持って集まれる場所を作ること。そして様々な社会問題について若者が自分事として捉えていけるような文化をつくっていけたらいいなと思っています」

「性もっとオープンに」シリーズの一連の取材では、ユースクリニックの設立や性教育の在り方など、若者が自分の悩みを相談したり、正しい情報を手に入れたりする機会について取り上げてきた。

「知る機会」を確保するために、そして皆が正しい知識を広めていく「伝えられる人」になっていくためには何が必要か、荒井さんの考えを聞いた。

「まずは、心理的安全性の確保というのが課題だと思います。自分が何か問題意識について発信した時に、回りがそれを受け入れてくれる土壌があってはじめて発信できますよね。あとは、何か情報を与えられた時、そこで終わりではなく自分で調べる。それで初めて情報を「知った」lことになると思います。そうやって知識を取り入れようとする姿勢を皆が持つことで、社会全体として問題を自分事として解決していく土壌ができるのではないでしょうか」

HPVワクチンにかぎらず、「知ること」で解決できる悩みや問題はたくさんある。SNS飽和時代の今、簡単に情報を得ることができるようになった。しかし、そのすべてが信頼に足る情報ではない。特に性に関する情報などは人に相談しづらいこともあり、一人で悩んだり間違った情報を信じることでより深刻な問題に発展することもある。

個人が正しい知識を得る姿勢を持つこと、そしてそれを支える土壌を作っていく必要がある。しかし、単に個々の団体や情報を持っている個人が啓発活動を行っていくだけでは、伝えられる範囲に限りがある。Vcanで行われている活動のように、「伝えられる人」を育成し、彼らを起点にして、様々な場所で知識の輪を広げていくことが必要だろう。

トップ写真:「若者にHPVワクチンについて広く発信する会Vcan」のクラウドファンディング 出典:Vcan公式HP




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