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.国際  投稿日:2023/11/4

米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その5 中国の総合国力は弱くなる?


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中国側はバイデン政権の競合と協力という個室化のアプローチを利用している。

・中国の経済の変化は経済成長モデルが構造的限界に達したとの印象を与える。

・経済の衰退から、中国は対外戦略面で守勢に回ったとの印象がある。

 

古森義久 「中国側はしかしバイデン政権の競合と協力という個室化の二重軌道のアプローチには反対はしませんね。中国側にとっての利点さえあるような気がします」

トシ・ヨシハラ 中国側はまさにその『競合と協力』の方式をうまく利用していると思います。米側が求める協力に応じるかわりに米側に対してその代償として競合の領域での譲歩を求めるという態度をとっています。たとえば協力のための定期協議に応じるふりをしながら、実際にはまず自国側は競合の領域ではなんの譲歩もしない、そのための具体的な交渉さえも避けてしまう、という態度なのです。だから+だといえます」

古森 「さきほどもさらりと論題になりましたが、中国の経済不振、あるいは国内不安はどうみても深刻なようです。習近平政権もこの国内状況を真剣に受け止めているようです。政権自体が揺らいでいるという感じもあります。たとえば外務大臣のミステリ―のような失踪と解任、さらに続いてこんどは国防大臣の消息不明と、政権の要職にさえも不可解な変動が起きています。

こういう状況から日本の一部には習近平主席自身が失脚するとか、共産党態勢が崩れるというような観測さえも出ています。そうなれば日本にとってもアメリカにとっても悲しむ事態ではないでしょう。しかし私自身は中国共産党の強固な態勢が崩れるようなことは、あの天安門事件の際にも起きなかったのですから、ないと思っています。でもいまの中国の経済の状況は改革開放以来かつてない深刻さを感じさせます」

ヨシハラ 「そうですね。中国の経済にいま起きている変化はこれまでのいわゆる中国経済成長モデルが構造的な限界に達したという印象を与えます。構造的な弱点がついに正面に、あるいは全面に出てきたということでしょうか。いまの中国では借り入れ過剰、債務の過剰に始まり、環境破壊、高齢化や少子化という人口動態のゆがみ、汚職の横行などがひどいですね」

古森 「中国経済を支えた主要な支柱は疑いなく外国からの投資、そして中国国内での外資企業による生産、その製品の輸出という要素だったわけですが、その対中投資もアメリカ側での対中ディカップリング(切り離し)の動きで大きく変わりそうです。日本でさえも中国での新たな直接投資へのためらいは広まっています」

ヨシハラ 「そうした状況ではもうこれまでのような高度の経済成長は期待できない。中国の経済力全体が弱くなっていく。その結果、中国の総合国力も勢いを失っていく。こんな展望が考えられるわけです」

古森 「そうなると私たちが関心を向けるのはその経済面での衰えが中国の対外行動のパターンをどう変えるかです。普通の見方では経済が停滞し、国力が勢いを失えば、指導部は当然、その国内問題に精力と注意を多く向け、対外問題の推進が弱まるだろう、という感じですね。

この見方を支えるかにみえるのはごく最近の中国の対外攻勢の緩和です。中国はフィリピンがアメリカとの相互防衛の絆を拡大し、有事に米軍に使用を認める基地を5カ所か9カ所にほぼ倍増するという新合意を結ぶことに激しく反発しました。南シナ海で海軍艦艇がフィリピン側の船舶を乱暴な放水で脅すような行動までとりました。でもそれだけで終わりました。フィリピンのマルコス政権は当初の方針どおりにアメリカとの安保強化の合意を成立させました。この中国の態度は従来の強硬路線からの後退だとみられています。

アメリカ日本、韓国が安保協力を強化することを決めたキャンプデービッド原則も中国にとっては後退だといえるでしょう。このところ中国は対外戦略面で守勢に回ったという印象もありますね。この状況は中国内部の混乱、とくに経済の衰退が原因だろうとする見方も明らかに存在します」

(その6最終回につづく。その1その2その3その4

*この記事は雑誌「正論」2023年11月号に掲載されたトシ・ヨシハラ氏と古森義久氏の対談録「経済衰退しても中国は『軍事大国』」の転載です。

トップ写真:南沙諸島で中国沿岸警備隊の船がアユンギン浅瀬の前哨基地への補給任務中のフィリピン沿岸警備隊の船を妨害し、放水砲を発射した事件を受けて、マニラの中国大使館前で抗議活動を行うフィリピン人ら(2023年8月11日 フィリピン・マニラ)出典:Photo by Jes Aznar/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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