米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その4 バイデン政権の対中政策「個室化」の欠陥
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・バイデン政権の対中政策「個室化」、競合しながらも協力する姿勢。
・米中の「文明の衝突」により、中国との協力はそもそも難しい。
・米中対立の本質を検証・精査し、定義づけて正しい対中政策の指針とすべき。
トシ・ヨシハラ 「バイデン政権は確かに中国の危険な野望を抑えるという意図での強固な政策は多々、とっていると思います。この点は確かに古森さん、ご指摘のようにトランプ前政権の対中政策の基本を継続していますね。しかしいまバイデン政権が苦労しているのは対中政策の領域ごとの仕切りです。列車やホテルのコンパートメント(個室)のような仕切られた空間に異なる課題を個別に入れて、区分するという方針です。
つまり競合と協力のうち、多数ある課題を個別にこれらの個室に入れて中国側に対処する。たとえば気候変動、コロナ対策、国際テロ対策、大量破壊兵器の拡散防止などの個別案件の分野はそれぞれ区分して個室に入れ、協力を協議する。
しかし他の競合の分野では協力に背を向け、別の個室で抑止や対抗の措置をとる。バイデン政権の対中政策にはこんな特徴があるわけです。競合しながらも同時に協力する、という姿勢です。個室化と呼べる対応です。
ところが最近の米中関係ではこの諸課題の個室化による区分が難しくなっています。一つには競合する部分が協力する部分よりずっと重みを増し、その領域もより広範になったためです」
古森義久 「確かに米中関係もこれだけ多層で広範となり、しかも対立や衝突という領域が明らかに基本部分のようになってくると、協力できる領域がまず小さくなりますね。同時に大国同士の利害の違いを細分化して、異なる要素を異なる個室に入れるという概念も実行は難しいようにみえます」
ヨシハラ 「米中両国はまずまったく異なる政治イデオロギーの上に国家を組み立てています。国際的な安全保障政策も水と油のように異なります。このあたりは妥協や一致は不可能に近いでしょう。その基本的な衝突という事実をいわゆる『協力』部分によって薄めたり、消すことができるとは思えません。
日本周辺の東アジア、西太平洋での米中両国の基本政策をみても、前述のように妥協は難しい。
バイデン政権の国家安全保障戦略をみると、中国に対しては『共産党の政治システムを基本的に変えようという意図はない』という趣旨が記されています。この趣旨は中国の全体主義的な政権を少なくとも交渉相手としてはそのまま受け入れるという意味になります。しかしこの種の政権はアメリカの民主的な政治システムとは本質的に相容れません。それでも中国と協力するというのはそもそも難しい作業なのです」
古森 「米中両国の相違に関しては最近の米側ではマルコ・ルビオ上院議員らが『文明の衝突』という表現を使うようになりましたね。米中両国は政治の理念や体制の違いだけではなく、歴史、文化、社会、人種など国や民族としての全体の特徴、つまり文明としてそもそも異なり、ぶつかるのだ、という意味です」
ヨシハラ 「その表現はトランプ前政権の国務省高官が対外的に使い、人種という言葉までとくに強調したため、不適切だとして辞任させられたという経緯もあります。でもトランプ政権の中国認識としては『文明の衝突』という概念は本音に近かったようです。
しかしこの『文明の衝突』というのは実は中国側で習近平主席さえも表明しているのです。中国共産党の指導層は米中両国間では文明が異なるのだと強調します。そして中国民族は特別な人種なのだとも強調する。習主席は『中国人のDNAは特別で平和志向なのだ』とも語ったことがある。ここまでいくと民族ナショナリズム、ほとんど人種差別主義にもなります。
だからアメリカ側としては対立相手の中国がこういう主張までしていることをよく考慮して、米中対立の本質を検証し、精査し、定義づけて正しい対中政策の指針とすべきなのです。対中協力の重視は共存ができるという前提なのでしょうが、競合部分は構造的であり、深層にいたります」
*この記事は雑誌「正論」2023年11月号に掲載されたトシ・ヨシハラ氏と古森義久氏の対談録「経済衰退しても中国は『軍事大国』」の転載です。
トップ写真:夕方のCCTVニュースで放送された米中首脳会談。北京のショッピングモールの大型スクリーンにて(2021年11月16日中国・北京)出典:Kevin Frayer/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。