[瀬尾温知]<2014FIFAワールドカップ>ブラジルが国民の誇りであるサッカーで屈辱的で歴史的な大敗
ブラジルは、決勝が行われるマラカナン・スタジアムの地に立つことも許されないまま敗退した。
優勝を手にしかけて逃した1950年の悲劇を払拭するどころか、その悲劇も霞んでしまう1対7の歴史的大敗。自国開催でワールドカップ制覇という国民の夢は、残酷な形で砕けた。
前半11分、ドイツのCKでマークが外れたところをミュラーに決められて先制点を与え、そこからの18分間で立て続けに失点し、前半だけで0対5と点差が開いて決勝進出をかけた勝負は早々に決してしまった。
ブラジルはこの試合、チーム最多4得点のネイマールを腰椎骨折で欠き、守備の要でキャプテンのセンターバック、チアゴシウヴァも警告の累積で出場停止だった。その攻守の中心選手が揃った万全の状態でも、苦戦は免れないというのが試合前の見方だった。
フェリペ監督はネイマールの代わりにスピードのあるドリブルが持ち味の攻撃的FWベルナルジを起用。ドイツの破壊力ある攻撃を警戒して中盤を固める布陣ではなかった。それでもまずは守備を重視して試合に入るのかと考えていたが、ブラジルは立ち上がりから前掛かりになり、中盤が疎かになっていた。
先制された直後に「この陣容だと、思わぬ大差がつくことになるかもしれない」と予感したが、まさかブラジルにとってワールドカップ史上ワーストの7失点を喫する屈辱的大敗になるとは予想できなかった。
DFのダビドルイスが「ドイツが最高の出来で、我々は最悪だった」と完敗を認めた通り、ドイツは、精神、肉体、技術のすべてでブラジルを上回ったチームだった。
その相手に先制点を許し、追う展開になってバランスを崩し、2点目、3点目を奪われてパニックに陥れば、ブラジルでさえ為す術はなくなる。強靭で隙のないドイツの威圧感が、ブラジルを悪循環にさせた結果、屈辱的な大敗となった。
ブラジルのメディアは、フェリペ監督は現代サッカーに順応しておらず、相手に対する戦略を持ち合わせていなかったと批判し、腐敗したCBF・ブラジルサッカー連盟の再建が急務だと非難の矛先を向けてもいる。
メディアも国民も敗因を探し、討論することだろう。大敗から何かを学び、進歩していかなければならないからだ。ただ、ブラジルの誇りであるサッカーで、プライドをずたずたに傷つけられたこの敗戦には、監督の人選、選手選考、戦術、強化過程云々を超越した意味があるような気がする。
ワールドカップ開催に反対するデモが大会前からブラジル全土で発生したように、サッカーばかりに熱を上げていてはならない時代の到来を告げたのだという論議も再燃することだろう。だからと言って、サッカーの誇りを失っていいわけではない。まずはどうしたらドイツを打ち負かせるかに焦点を絞る必要がある。
私なら、ここでアイデアを述べることはしない。釈迦に説法になるだけだろうから。今後の進化を静かに見守りたい、今はそんな気分だ。
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【執筆者紹介】
1972年東京生まれ。スポーツライター。
テレビ局で各種スポーツ原稿を書いている。著書に「ブラジ流」。 日本代表が強化するには、ジェイチーニョ(臨機応変な解決策)を身につけ、国民ひとりひとりがラテン気質になること。情熱的に感情のままに。