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.国際  投稿日:2023/12/6

アメリカに広がる日本の味覚 その3「良いものは売れる」から「より良いものを売る」へ


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・韓国、中国系の店で、日本の品物を販売する店が激増してきている。

・NYのアメリカ経営スーパーの中に、突如「日本の魚屋さん」がオープン。

・世界に進出する日本の味覚を、現地に住む日本人として楽しみにしている。

 

輸出するならば、良いものを作って世界へ送り出すのは、昔から終始一貫した日本企業の姿勢であろう。

良い製品を作るのは日本では当たり前であって、製品の品質そのものが「日本ブランド」であるとわれわれ日本人は信じている。

かつて、ニューヨークなどでは日本の食べ物が欲しければ日本の小売店に行って買うしかなかったが、今は主に韓国、中国系の店で、日本の品物を販売する店が激増してきている。

最近の特徴として、それらは日本の店ですら扱っていないような日本の品物を扱っていることが多い。現地の「日本ブランドファン」は日本の店を素通りして、そちらに向かう。

▲写真 1980年代から「日本村」とまで言われたニューヨーク・イーストビレッジのビル。多くの日本のレストランやスーパーが入居していたが、ビルの取り壊し計画ですべて立ち退かされ、今は廃墟(筆者撮影)

かつての日本のお店のお株を奪い返すには、さらなる品揃えと値段しかないが、これが全然イケてない。

極端、と言われるくらいの円安なのに、値段は下がるどころか、以前より値段は上がっている。これはニューヨークの日系の店では顕著である。

どういう仕組みなのか知らないが、現地の韓国、中国の店は、日本の店より日本の商品の低価格化を実現して販売しているところがある(ECサイトも含む)。しかも、日本の店で扱ってない品物も多くあり、特売なども激しい。

今まではそれらの店は「日本の商品もあつかうアジア系マーケット」でしかなかったが、いまや、日本の品を買い求める時は、自分も含め、そちらにシフトし始めている。

かつてないくらいの円安で、日系ではないお店が、日本商品の低価格を実現しているのに、地元の日本人に対して、商売をする側が、円安にあやかった貢献する意志すら見せることのない、日本の店に対する反発もある(これはあくまでも個人的な意見だ)。

値下げできない日本の店の生き残りの切り札は、冒頭に書いた「日本ブランド」を前面に出すことかも知れないが、現地日本人にはますます縁遠い存在となるであろう。前回書いた1パック23ドルの日本産の「しょうが」などは、日本のブランディングその一つなのであろうが、効果的な販売法と言えるのであろうか。

少なくとも「23ドルのしょうが」を現地日本人は買わない。ということで、われわれ現地日本人は顧客対象外である。

翻って日本製品を扱う、韓国系などのスーパーの鼻息は荒い。

前回「その2」で書いた、日本製品の値引きの他に、何でも売ってやろうという勢いはすさまじい。

▲写真 発祥は日本。韓国産シャイン・マスカット。黒地に白抜きの文字で「韓国産(Product of Korea)」の文字(ロスにて筆者撮影)

日本で品種開発されたこの高級品種のぶどうは、ニューヨークでは「韓国シャイン・マスカット」として売られていた(写真はロスで撮影)。日本が海外での品種登録に、もたもたしていたために、韓国で生育された日本発のぶどうは、韓国ブランドとして売り出されている。

これらが今後、アメリカに浸透してゆけば、日本発祥のシャイン・マスカットは「韓国ブランド」としてその価値を高めていくことになる。

だがこれをずるいと言えば、自ら日本の価値を貶めることになると思う。

ーーー

この秋、「大げさに言えば」現地日本人社会を揺るがすような出来事があった。少なくとも自分にはたいへん衝撃的な出来事であった。

ニューヨークのアメリカ経営のスーパーの中に、突如「日本の魚屋さん」がオープンしたのである。

現地の魚屋さんがオープンしたのではない。

文字通り「日本にある日本の魚屋さん」が日本から移転してきたのである。店に並んでいる商品の殆どは、週2回豊洲から到着する鮮魚である。

驚愕と、興奮と、感動、である。

ばかなことを言って恐縮だが、1に魚屋なのに匂いがしない。日本では当たり前だが、こちらでは「魚臭い」のが魚屋さんなのである。

2に、おととい日本の海で採れた日本の魚がもうニューヨークのお店に並んでいるというありえない現実。

並んでいる魚たちはまだ目玉が透き通っている。当然高い、と思われるだろうが、この店では、大きさや、部位を変えることによって、安価に購入できるパックを用意している。

アメリカでは一般には馴染みがないアラなども売られていて、これが安く、おそろしく新鮮なので調理法を知っている日本人が群がる。5ドルあまりで買ったパンパンに入った鮮度抜群の鯛のアラで、我が家はもう2度も鯛めしを作った。自分が料理人になったかと思うほどの出来である。

今まで高級な刺し身など買えなかったが、鮮度バツグンのアラで作った鯛めしは、刺し身は買えずとも、かつてなかったくらいの満足度であった。

新鮮な魚の販売をも得意としている韓国の店も、これには太刀打ちできないクォリティである。しかも鮮度の上に「豊洲直送」という日本ブランドが乗っかっているのである。

▲写真 活き締め、業者の名前入り(筆者撮影)

毎週末には、日本の職人さんによるマグロの解体ショーが行われ、アメリカのお客が群がる。解体ショーの直後には中落ちが試食で配られ、それを食べたことのないアメリカ人はその美味しさに打ちのめされる。

▲写真 マグロの解体ショーに群がるアメリカ人客(筆者撮影)

既存の客を取り入れるだけではなく、小さい顧客層を広げるべく、こうやって、さほど食卓に魚が並ぶことのないアメリカ人に魚ファンを増やしていくやり方は、国内事業に限界を感じる日本企業が、海外に活路を見出していくやり方に重なる。

アジア系でない、普通のアメリカのスーパーに日本の店をまるまる登場させた現地アメリカの店も大変な決断をしたものだ。これからの展開を楽しみにすると共に、日本のお店にも負けじと頑張って欲しい。

加えてすでにアメリカに浸透した日本の製品も応援したい。

▲写真 ニューヨークのアメリカンスーパーに普通に置いてあるもの。左上から右回り。昔のデザインでインパクトが強いビール、今や健康食品の筆頭格の豆腐、英語になった「パン粉」、完全にアメリカの調味料となった醤油、野球選手で有名になったお菓子、ポテトチップスで有名なメーカーのアメリカ販売主力商品。すべてアメリカ製(筆者撮影)

世界に進出する日本の味覚を、現地に住む日本人として楽しみにしているとともに、この先、日本はどういうチャレンジを見せてくれるのか見たいものだ。

その1その2

トップ写真:アメリカで売られている豊洲直送の金目鯛(筆者撮影)




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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