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.国際  投稿日:2023/12/1

アメリカに広がる日本の味覚 その1 アメリカに里帰りした日本のりんご


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・アメリカでダントツの人気を誇っているのが日本発祥の品種「Fuji(ふじ)」。

・アメリカに「帰化」「移民」し、定住を果たしたのはリンゴだけではない。

・大根、みかんデコポン、さつまいもなども人気を博している。

 

秋もほぼ終わり、冬に入りかけているニューヨークであるが、すでにホリデー感満載。今年は秋の気温が高めだったせいか、紅葉は今ひとつであった。だが、四季がはっきりしているニューヨークは、日本同様、今の時期、季節の味覚が豊富だ。

ニューヨークで秋の名産、といえば代表的なのは、りんごであろう。

ニューヨーク市はニックネームで「Big Apple」と呼ばれるが、なぜそう言われるのかは諸説ありはっきりしない。ニューヨーク州の形がりんごに似ていて、その一番大きな街がニューヨーク市だから、とか、国家の密を吸い取っているのがニューヨーク市、という「大きなリンゴなのだ」とか、誰ともなくニューヨークのことを「Apple」と呼ぶようになり、一番大きな都市、ニューヨーク市を「Big Apple」と呼ぶようになった、とかおそらく100を下らないくらいの説があると思われるが、ニューヨーク市は、どの説が正しい、とは認定していない。

ただ、確かなのはニューヨーク州はりんごの名産地の一つである、ということだ。

日本でリンゴの名産地と言えば青森県が代表的であるが、アメリカではやはり北部である、ワシントン州が群を抜いて生産量が多く、以下、ニューヨーク州、ミシガン州、ペンシルベニア州と続く。いずれも緯度は青森県と同じか、より北に位置し、各州合計の生産量は日本の5倍以上である。輸出に回されている分もあるとは言え、大半は国内で消費されており、アメリカ人は「リンゴ大好き」国民であると言える。

秋になると、スーパーには季節限定品とも言える、アップルサイダーが並び始める(アメリカにおけるサイダーとは元来、リンゴを絞った濾過していない濁ったジュースをいわばリンゴの生ジュースを指し、日本で言うサイダーとは全く別物)。アップルパイは代表的なアメリカの秋のデザートであり、ディナーの付け合せには欠かせない。リンゴは調理やデザートで多く使用され、秋から冬にかけて食卓を彩るアメリカ料理の一翼を、リンゴが担っていると言っても過言ではない。

ニューヨーク州で、りんごは多くの品種が栽培されているが、中でも長年、アメリカでダントツの人気を誇っているのが日本発祥の品種「Fuji(ふじ)」である。

▲写真 スーパーのリンゴのコーナーで必ずある「Fuji」(筆者提供)

「ふじ」は、青森県藤崎町で、戦前に交配され作られた品種で、土地の名前を取って「ふじ」と命名されたという。「富士山」の富士、でもあると言い、1962年(昭和37年)になって品種登録された。

https://www.fujisaki-kanko.jp/fuji/fuji_history.html

ニューヨーク州で収穫されるリンゴのうち「Fuji」はかなりの割合を占める。

アメリカにおける「ふじ」は今や、日本発祥の宝、とでもいうべき存在で、この「ふじ」は、「国光」というリンゴと「レッド・デリシャス」というリンゴを掛け合わせて作られた品種である。

ふじの片方の親である「国光」は日本の名前であるが、本名は「ラルズ・ジャネット」といいアメリカの品種である。現在はほぼ流通していない品種で、江戸時代にアメリカから日本にもたらされた「アメリカ人」である。その後、1930年代にやはりアメリカ産の「レッド・デリシャス」と試験的に掛け合わせて「ふじ」は出来上がり、1962年に日本で最終的に品種登録された。(参考:ふじりんごの歴史|味の農園

その後、1980年代になって「ふじ」はアメリカに紹介され、以来、既存のアメリカのリンゴの存在を蹴散らすような、爆発的な人気を得て、こんにちに至る。

「両親がアメリカ人」の「ふじ」は日本で100年近く前に「日本人」として生まれ、その子孫は「Fuji」となって、アメリカに里帰りを果たし、今や、アメリカ全土で愛され、生産されるリンゴの代表格になった。

アメリカに「帰化」「移民」して、定住を果たしたのはリンゴだけではない。

*大根

「Daikon」の名前が定着しつつある。ちゃんと「大根」の名前が定着しつつある。見栄えは悪いが今や立派な「移民」である。

▲写真 大根。見た目は悪いが、アメリカ野菜と一緒に普通に売られている(筆者提供)

*やはり秋の味覚、日本の柿

以前はアジア系のお店でしか見かけなかったが、私の地元の八百屋には昨年辺りから普通に並んでいる。「富有柿」「蜂屋柿」。ともに岐阜県出身のこの柿、日本から輸入されているのかと思ったのであるが、両方とも今や立派な「アメリカ人」で、Fuyu Parsimmon(富有柿)、Hachiya Parsimmon(蜂屋柿)として主にカリフォルニアで生産されている。

▲写真 カリフォルニア産富有柿(上)と蜂屋柿(下)「柔らかくなったら食べ頃」の表記(筆者提供)

*みかん

アメリカで柑橘類の代表格と言えばオレンジ、であるが、オレンジもそもそも、フロリダが植民地時代だった時にスペインから持ち込まれたものである。そして今、日本のみかんがアメリカのお店に普通に並んでいる。「Satsuma Orange」の名前で売られているが、これはカリフォルニアで生産されている温州みかん。日本のみかんの代表的な生産地は和歌山、愛媛、静岡あたりであるが、原種は九州あたりらしいのでそう呼ばれるらしい。

▲写真 「さつまオレンジ」と呼ばれているカリフォルニア産の温州みかん(筆者提供)

*デコポン

高級ブランドとして数年前からアメリカで火が着いた「デコポン」。アメリカでは「Sumo Citrus」「Sumo Orange」の名前で売られていて、今から春にかけてがアメリカでの旬である。「相撲」の名前は形がお相撲さんに似ているからだそうで、カリフォルニアの農家が日本からライセンスを譲り受けてほぼ独占的に生産しており、今やアメリカの都市部では高級な柑橘類として人気を博している。(参考:What Is A Sumo Citrus Orange? – Why Are Sumo Oranges So Expensive?

▲写真 「Sumo Citrus」として売られているデコポン(筆者提供)

さつまいも

Sweet Potato 」はアメリカでも以前から普通に売られていたが、圧倒的な甘さと食感が人気となって、ここ数年、さつまいもは「日本いも」としてその人気が徐々に高まりつつある。

▲写真 産地不明ながら、日本の「さつまいも」人気が加熱しつつある(筆者提供)

りんごの「ふじ」に始まった「日本生まれ」は、その裾野をまだまだアメリカに広げてゆくが、日本の企業自体も会社として海外に進出している例も多い。人気の日本ブランドであるが、ニューヨーク在住日本人としてそれを素直に喜んで良いのかわからない複雑な心境を次回お伝えしたい。

(つづく)

トップ写真:「特売品」として八百屋の店頭に並ぶ、NY産のリンゴ(筆者提供)




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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