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.政治  投稿日:2024/1/8

「高岡発ニッポン再興」その124 電車通勤の土光に“ミスター検事”が感銘


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・一連の政治資金パーティー事件で政治に対する不信感が高まっている。

・土光敏夫は、国鉄民営化をはじめ行財政改革を次々成功させた。その原動力こそ清貧の姿勢。

・清貧な生活を貫き、身ぎれいにして高い理想を語っていきたい。それが改革につながる。

 

一連の政治資金パーティー事件で、国民の政治に対する不信感が高まっています。テレビや新聞が連日報道していますが、私自身、その内容に唖然としています。私も政治家の1人です。物価高で国民生活が苦しくなっている中、政治家に対する見方は厳しくなっていると思います。清貧な生活を貫く。そして、身ぎれいにして高い理想を語っていきたいですね。それが改革につながります。こうした姿勢を教えてくれたのは、国鉄の民営化などを実現した土光敏夫です。つまり、「メザシの土光さん」です。

造船業界は朝鮮戦争が休戦になると、不況に陥りました。政府は、造船業界を支援するため、利子補給したのです。これに関連してリベート金が政界に贈賄されたとして造船疑獄事件が起きました。政官財で105人が逮捕されましたが、土光はその1人でした。

土光は昭和29年4月2日午前6時半、自宅前のバス停でバスを待っていました。スプリングコートを着て手にはカバン。いつものように自宅前のバス停に歩きかけた時、東京地検の検事が近付いてきたのです。「土光さんですか」「家まで戻ってください」。

土光は経費節減のため、自家用車をやめバス通勤に切り替えていました。バスで鶴見駅まで行って、その後、電車に乗り換えての通勤です。

しかし、この日はおよそ1時間、東京地検の検事が土光の家宅捜索。その後、土光は任意出頭を命じられたため、特別に会社から自動車を呼び寄せ、検事と同乗。そのまま20日間拘置されました。拘置期間の間、壁に向かって法華経を唱えていたといいます。結局、「関係なし」で釈放されたのですが、土光はこの事件を踏まえ、「人生には予期せぬ落とし穴がついて回る。公私を峻別して、つねに身ぎれいにし、しっかりした生き方をしておかねばならない」という教訓を得たと、振り返っています。

土光の取り調べをした元検事総長の伊藤栄樹。「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘をつくな」の名言で“ミスター検察”と呼ばれた検事でした。ロッキード事件などを手がけましたが、著書「秋霜烈日」で土光について記載しています。

「私は、東京地検特捜部の平検事を7年もやったから、その間に検事と被疑者として相対した政治家、役人、会社経営者は、相当な数にのぼる。拘置所の調べ室で、立ち会いの検察事務官一人のほかは、一対一で、検事は罪の清算を説得し、被疑者はこれに対応する。

その間、被疑者の全人格はもちろん、検事のそれも、互いに赤裸々にさらけ出される。私も、いろいろな“ほんとうの姿”を見ることができたが、『これはまいった。実に立派な人だ』と感じさせられた人が数人いる。それらの人に会うことができたのは検事冥利につきると思っている。その筆頭が土光さん」。

「逮捕と同時に、土光さん宅の捜索に行った“特捜Gメン”の一人が帰庁してすぐにいったものである。『いやぁ、今日という日は、まいった。実に立派な人だ。生活はまことに質素。大会社の社長なのに、朝早く、国電のつり革にぶらさがって通勤している』。」

「土光さんは不起訴になったが、事件後、私は、周囲の人びとに『財界の事情は知らないし、石川島の社長というのも十分に偉いのだろうが、あの人はもっと偉い人になるような気がする』といったものである」。

土光敏夫は、国鉄民営化をはじめ行財政改革を次々に成功させました。その原動力こそが、清貧の姿勢です。社長になっても、満員電車でつり革にぶら下がって出勤する姿に多くの人が感銘を受けたのです。私は土光の生き方、姿勢を見習って政治活動をしていきます。

トップ写真:イメージ 出典:kumacore/Getty Images




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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