[宮家邦彦]<たった5億ドルで何をする?>オバマ大統領が「シリア反体制派」へ武器供与・訓練のために5億ドル拠出[外交・安保カレンダー(2014年7月14-20日)]
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
先月の6月末に始まったラマダン月がようやく半分終わった。真夏の日中の断食は辛い。筆者はムスリムではないが、エジプトでのアラビア語研修時代、カイロの友人に何回か付き合ったことがある。髭面の大男が懸命に戒律を守る姿はどこか神々しかった。
7月17日にはシリア大統領就任式がある。6月3日の選挙でバッシャール・アサドが任期7年で三選されたことを覚えおられるだろうか。「えっ、大統領選なんてやったのか」と訝る向きもあろうが、世界がどう変ろうとダマスカスには別の暦があるらしい。
だが、別の暦というなら、それはワシントンも同じだ。オバマ大統領は6月26日にシリアの反体制派に武器供与・訓練のため5億ドルを「拠出する」、のではなく、「拠出するよう議会に要請した」そうだが、これこそ「Too little, too late!」ではないか。
思い出したくもない。1990年イラクのクウェート侵攻の際、日本の最初の10億ドル拠出につき米国が日本を罵った言葉だ。それでは聞こう。たった5億ドルで何をするのか。反体制派?どのグループだ?彼らに武器を渡すのか。彼らはそれを何に使うのか。
もう手遅れだろう。シリアで本当にアサド政権を倒す気があるのか。それなら、シリアでISISは米国と利益を共有するということか。そのISISがバグダッド包囲を狙っている、というのに。シリア・イラク国境が消えた以上、自己矛盾以外の何物でもない。
更に悲惨なのがガザの状況だ。昔からこの種の事件は何度も繰り返されてきたが、それらの多くはイスラエル、パレスチナ双方の強硬過激派が中東和平プロセスを潰すために仕掛けたものだった。ところが、今やそのような状況は昔話である。
そもそも潰すべき「和平交渉」などもはや存在しない。ユダヤ教保守派の未成年入植者が三人殺害された後は、報復のための報復が繰り返されている。どの時点をとるか非難される側は変わるが、変わらないのは双方に出る民間人の死傷者の多さだ。
今週の最後は岸田外相のウクライナ訪問。ロシアのクリミア併合後では初、既に日本はウクライナに対し1500億円の経済援助を約束しているが、キエフとの連携を保つことは重要だろう。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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