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.社会  投稿日:2024/2/19

「危機管理マニュアル」その3 不祥事会見の基本②進行について 


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・過去の不祥事会見では、司会の進行で問題となったケースがある。

・誰が司会をするかどうかで、その会見が成功するかどうかが決まる。

・記者と敵対するような進行は避けるべき。

 

 「危機管理マニュアル」

その1        社会という名の法廷

その2        不祥事会見の基本①会見の目的

その3       不祥事会見の基本②進行について

その4        不祥事会見の基本③質問への答え方

その5           平時に備えておくべきこと

 

前回、会見の目的を明確にする重要性について書いた。

今回は、「進行について」話したい。

進行、すなわち司会である。不祥事会見の司会など、だれもやりたくないだろう。謝罪する側が司会者を選ぶわけだが、通常はその組織の広報部長がやるのが普通だ。広報部がないようか組織なら、誰か社内の人間を探してくるか、さもなければ、危機管理コンサルタント会社に頼んで準備してもらうことになる。

さて、過去、司会が話題になったケースがいくつかあったので紹介しよう。

まず、「日大アメリカンフットボール部悪質タックル問題」の時の司会。2018年のことだった。

質問をさえぎる、時間が来たといって打ち切ろうとする。感情的な対応が目立った。極めつけはこの捨て台詞。

対応の悪さに対し記者の間に失笑が漏れる中、ある記者がたまらず、「会見、みんな見ていますよ!」と言うと、「見てても見てなくてもいいんですけど」と言い放った。さらに、別の記者が「司会者のあなたの発言で、日大のブランドが落ちてしまうかもしれないですよ!」と言うと、「落ちません。余計なこと言わずちょっと聞いてください!」などと応酬した。筆者もこの会見を生で見ていたが、不祥事会見でこんな司会は見たことがない。

結果、この司会者の「ぶちギレ会見」は、2007年の船場吉兆食品偽装疑惑での「ささやき女将」と、2014年の政務活動費不正使用疑惑での号泣元兵庫県議とともに、3大炎上会見と称された。

オチはこの司会者が共同通信出身だったこと。同大学に危機管理学部があることも話題になっていた。

なぜか次の話題も日大アメフト部の不祥事。去年大いに話題を振りまいた「日大アメフト部違法薬物問題」でのこと。日本大学アメリカンフットボール部の部員が寮で覚醒剤と乾燥大麻を所持していた容疑で8月5日逮捕されたことを受け、会見を開いた日本大学。

今回は5年前の男性広報部員ではなく、女性の広報課長が司会だったが、開口一番、「会見者が入場します!」という、前回とは真逆の、結婚披露宴開会の言葉を彷彿とさせる明るいトーンで始まった。

これまた違和感全開で進行した。なにも不祥事会見だからと言って、暗い雰囲気を醸し出す必要はないが、「イベント慣れ」した場違いな司会進行が、同大学の謝罪する雰囲気を吹き飛ばしたことだけは間違いない。

もう一つ上げよう。同じく去年の話題をさらった「故ジャニー喜多川氏による所属タレントらへの性加害問題」をめぐる記者会見で、質疑応答の際に指名しない記者らの名前や写真を載せた「NGリスト」がNHKにスクープされた。その時の会見を仕切っていたのが元NHKベテランアナウンサーだ。

その司会者が、会見の途中で、「だんだん顔を覚えられなくなってきました」とつぶやいたものだから、「NGリスト」との関連で取りざたされ、「どういう意味?」、「意味深発言」などと場外で話題になる事態に。

「NGリスト」など作ること自体、不祥事会見の基本を逸脱しているが、司会の余計な一言がかえって謝罪する側のイメージを毀損した例と言える。

こうしてみてくると、不祥事会見の場合、司会進行はきわめて重要なことがわかるだろう。司会に誰を選ぶかは、その会見を成功させるかどうかの鍵を握っているといっても過言ではない。

謝罪する組織の広報が司会を担当するのが基本ではあるが、不祥事会見の司会をした経験があることが望ましい。少なくとも、短気な人、すぐ感情的になる人はこうした司会にはそぐわない。記者と敵対していいことはなにもないのだから。

(その4につづく。その1その2

トップ写真)イメージ(本文と関係ありません)出典)skynesher/GettyImages




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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