「危機管理マニュアル」その5 平時に備えておくべきこと

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・危機はいつ襲ってくるかわからない。平時こそ危機管理について考えるべき。
・まずは社内で危機を洗い出し、その対応策を全社で共有する。
・トップは、模擬会見(取材)などで対応力を普段から磨いておくことが大事。
「危機管理マニュアル」
その1 社会という名の法廷
その2 不祥事会見の基本①会見の目的
その3 不祥事会見の基本②進行について
その4 不祥事会見の基本③質問への答え方
その5 平時に備えておくべきこと
前回まで、不祥事会見の基本について3回に分けて解説した。
最終回は、「平時」にどのような備えをしておくべきかについて話したい。
普段から危機に備えている企業は少ない。なぜか。その必要性を感じていないからだろう。他者の不祥事の例を見ても、「対岸の火事」としか
受けて止めていない企業は多い。
そもそも危機管理の担当部署もないところが多い。CRO(Chief Risk Officer:最高リスク管理責任者)を社内に置いている会社はまだまだ少ない。
危機管理はある意味、生命保険や損害保険に似ていると感じる。将来起きるであろうリスクにかけるのが保険だが、すべての人が入っているわけではない。
企業の危機管理にも似たような面がある。実際に不祥事が起きるかどうかわからないのにそこに手間やお金をかけるのはムダだと思う経営者が多いからだ。
しかし、自然災害と同じで、普段から準備しておかないと、いざという時に悲惨な目にあう。
したがって筆者は平時こそ、危機管理について考えるべきだと考える。
その場合のプロセスを紹介しよう。
1 危機の洗い出し
自社にとってどのような危機・不祥事が想定されるのか、部署ごとに洗い出す。
2 危機対応状況の把握
現在、各部署が洗い出した危機に対応したことがあるのか、また、想定外の危機が起きた時対応できるのか、などをチェックする。
危機が関連会社含めグループ全体に波及することも想定し、横横断的に網羅する。
3 危機対応方策策定
部署ごとに対応策を作る。対応策は全社、並びにグループ社間で共有する。新たな危機管理案件が発生したら逐次追加する。
4 模擬会見(取材)の実施
不祥事が発生した時、矢面に立つのはトップや幹部だ。想定される不祥事に対応するための模擬記者会見を行う。対象者には経営トップだけでなく、記者会見・取材など、実際にメディアの窓口のとなるポジションの者も含めることが望ましい。
1から3まではなんとか社内でできるだろうが、4だけはメディアトレーニングの専門家に依頼することが望ましい。社内の人間だけでは気づかないリスクを洗い出すためにも、第三者の目が必要だ。
想定した不祥事にどう対応するかによって、企業のイメージ、レピュテーションは大きく変わる。
これまで紹介してきた、旧ジャニーズ事務所、ビッグモーター、日本大学、宝塚歌劇団の例を見れば一目瞭然だろう。どこも危機の火消しに成功したとはとてもいえない。普段から危機対応を準備していたようにはとても思えなかった。
危機(不祥事)は待ってくれない。いつ何時会社を襲うかわからない。普段から準備しておくことが肝要だ。
あるIT企業はグループ会社を含めると30数社あったが、2年ほど前、すべての関連会社のトップにメディアトレーニングを受けさせた。中身は模擬記者会見が主体だった。危機に対する対応力をグループ全体で持つことが重要だと考えたのだと思う。実際、その企業を見ていると、危機対応のスピードは上がっていると感じる。
今一度本シリーズを読み返し、自社の危機管理体制がどうなっているのか、確認してみてほしい。
トップ写真:イメージ(本文と関係ありません) 出典:maroke/GettyImages
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。
