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.社会  投稿日:2024/1/1

稚拙な不祥事会見は今年も増える【2024年を占う!】危機管理


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・不祥事会見に必要なことは、会見の目的の明確化と想定問答の準備。

・2023年に起きた不祥事会見はどれもこの2つが出来ていなかった。

・今年も不祥事会見は増えるだろう。危機管理に十分な備えが必要だ。

 

不祥事だらけの2023年。テレビで毎日誰かが頭を下げている映像を見せつけられるのに、うんざりしているのは筆者だけではあるまい。

2023年に起きた不祥事とその会見を見て、危機管理の観点から気づいた点はいろいろあるが、その一部を紹介する。

不祥事会見は早ければ早いほど良いとされる。

しかし、それは十分に準備がなされていることが条件だ。つまり、早ければいいというものではない。

準備には、2つ必ずやっておかねばならないことがある。

1つは、会見の目的の明確化だ。何のために会見を行うのか。その会見の目的は何なのか。組織内でそれが合意できてないと、記者会見で必ず炎上する。場合によっては、会見をやらないという決断も必要だ。会見をするのは、その目的が完遂できると自信があるときだ。

もう1つは、想定問答の準備だ。これができていないと、こちらも炎上不可避だ。記者から聞かれるであろうあらゆる質問を想定し、そのひとつひとつに回答を準備しなくてはならない。その時、回答するものと回答しないものを峻別しておくことが重要だ。

そんなこと当然やっているだろう、と思うかもしれないが、意外と準備不足のケースが多い。

ビッグモーターの例をみよう。創業者の兼重宏行前社長が出席し、息子で副社長の宏一氏は出席しなかった。宏一氏は現場を仕切っていたといわれており、当の本人が出席しないのもおかしな話だったが、とにもかくにも兼重前社長は宏一氏の辞任を発表したうえで、経営陣の関与を全否定した。そのうえで、2023年6月に不正を初めて知ったとし、「本当に耳を疑った。こんなことまでやるのかとがくぜんとした」「天地神明に誓って知らなかった」と述べたが、会見を聞いていてその説明に納得した人はいなかったろう。

その中で、残念ながら2023年の新語・流行語大賞にノミネートされなかったが、「ゴルフ愛好者への冒涜」発言もあった。真摯に社会に向き合った会見とは到底思えなかった。

経営陣の関与を否定することを第一義として開いた会見だったが、それを誰も信じてくれないような状況下で、いくらそれを言い張っても会社を取り巻く環境は改善しない。会見の目的自体に無理があった例だ。

旧ジャニーズ事務所の1回目の会見にも同様のことが言える。ジャニー喜多川氏による性加害の被害者に対する救済スキームがまだ出来ていないうちに会見を開いた。当然だが、それに関する質問が出てもゼロ回答になった。結果、炎上だ。

これも会見の目的と開くタイミングを間違えた例だ。救済スキームが固まった時点で会見すればあのような会見にはならなかったろう。質問への回答の準備も不十分だった。ゴルフ愛好家である宏行氏にすれば、気の利いたことをいったつもりだったかもしれないが、むしろ社会の顰蹙を買ったのはいうまでもない。

宝塚歌劇団のいじめ自殺疑惑の会見でも、出席した木場健之理事長らはいじめ・パワハラ疑惑を全否定した。一方で、遺族側が主張している「ヘアアイロンいじめ」について、井塲睦之理事・制作部長は報告書を読み上げるなか、「ヘアアイロンを故意に額に押し付けるなどのいじめがあったのか」の項目で、「ヘアアイロンで火傷をすることは劇団内では日常的にあること」とした。これは筆者も会見を見ていて違和感があった。

そもそもヘアアイロンは高温になるもので自分が髪を巻くためのもの。普通、怖くて他人に自分の髪をヘアアイロンで巻いてもらおうとは思わないだろう。もし他人の髪にヘアアイロンをあてるなら相手の皮膚にアイロンが触れないよう細心の注意を払うはずで、日常的に火傷が発生する、などとする報告書で世間が納得すると思った時点でアウトだ。

この質問が出ることは当然事前にわかっており、この報告書をOKした幹部らの感覚はずれているといわざるを得ない。もし、危機管理コンサルタントが入っていたなら、他の回答を用意していたはずだ。明らかに準備不足だ。

なぜ、このように目的が不明確なまま会見を開いたり、想定問答が不十分なまま会見に臨んだりしてしまうのだろうか。

答えは簡単だ。自分たちの組織以外の第三者を入れて事前に対策を取っていないからだ。

不祥事会見の前に第三者を入れねばならない理由は明確だ。自分たちの論理だけで押し通そうとしても、かえってそれが社会との軋轢を生むことにつながることが多いからだ。自分たちの組織の論理は決して世間一般のそれと同じではない。むしろ乖離していることの方が多いのだ。

第三者の目で、自分たちの論理を検証してもらうことが、会見前の準備として極めて重要だ。

日大アメフト部薬物問題の会見でも同様のことが言える。明らかに準備不足で炎上している。1番最初の会見で澤田康広副学長(当時)が説明した一連の経緯がかえって事実を隠蔽しようとしていた、という疑惑を招くことになってしまった。そして、あとからあとから新真実が発覚し、最初の会見はなんのためのものだったのかわからなくなってしまった。こちらも目的を明確にしないまま会見に臨んだ例だ。

本来不祥事会見の目的は、炎上を鎮静化し、ブランドの毀損を最小限にとどめることにある。しかし、一連の会見を見る限り、その目的は達成できていないどころか、むしろ事態を悪化させている。

2023年の年末には超弩級の不祥事が発覚した。ダイハツ工業の品質不正問題だ。なんと34年も不正が続いていたという。

企業やあらゆる組織が制度疲労をきたしている。2024年も企業の不祥事は続くだろう。不正が表に出てしまったらやることはひとつ。事実を認め、再出発のための方策を明らかにすることだ。その単純なことができないのが不祥事対応の難しさなのだ。普段全く準備をしていない日本企業は、2024年も不祥事のたびに炎上を繰り返すことになるだろう。

年に1回、避難訓練をやっている企業は多い。地震、津波、火事、事故などには備えるが、不祥事の備えはしないというのでは経営者として失格だ。2023年に起きた不祥事を他山の石として、今年こそ危機管理を万全なものにしたい。

トップ写真:謝罪会見のイメージ(本文とは関係ありません)出典:RichLegg/GettyImages




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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