「危機管理マニュアル」その1 社会という名の法廷
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・危機や不祥事は災害と同じで、忘れたころにやってくる。
・不祥事は、司法とは別に社会(世間、世論)という名の法廷でも裁かれる。
・法律の専門家以外の第三者の目を入れることが重要。
危機(クライシス)や不祥事は災害と同じ。忘れたころにやってくる。
だれしも自分に危機は訪れないと信じている。それはそうだ。いつ来るかわからない危機におびえて暮らすのは誰だってまっぴらだ。
でもそれは、ある日突然訪れる。
危機には対応せざるを得ない。逃げるわけにはいかない。でも、なにをどうしたらいいんだろう?誰に相談すれば良いのか?とりあえず、上司に報告しよう。
かくして、危機が起きたらとりあえず記者会見を開こう・・・となる。
でも、ちょっと待って欲しい。記者会見はかならず開かなくてはいけないのだろうか?そもそもどんなときに開けばいいのか?
どの会社も実はあまり深く考えた事がないのではないだろうか?マニュアルもない会社がほとんどだろう。「うちはこれまで不祥事は起きたことがないから大丈夫」。ある企業の幹部は筆者にそう言ったが、そうでないことは、日々の謝罪会見を見ていれば分かるはずだ。
しかし、人は自分に災厄は降りかからないと信じている。正常化バイアスが働いているからだろう。
今回から、シリーズで危機管理の要諦をお伝えしよう。
その1 社会という名の法廷
その2 不祥事会見の基本①会見の目的
その3 不祥事会見の基本②進行について
その4 不祥事会見の基本③質問への答え方
その5 平時に備えておくべきこと
■ 社会という名の法廷
危機・不祥事といってもいろいろある。製造業なら工場の事故など。非製造業ならサイバーアタックによる情報漏洩、もしくは従業員の不祥事。それ以外にも敵対的TOBやらなにやら、あらゆる危機が起こりうる。まさしく、企業は24時間365日、あらゆるリスクにさらされている。そして、その想定されるダメージもさまざまだ。
さて、危機が発生したら通常、企業はどのような行動をとるだろうか?まずは危機を探知した部署内で情報共有し、次に社内の管理部署に連絡して対応を検討するのが普通だろう。
上場企業なら、法務部があったり、顧問弁護士がいたりするはずなのでまずはそこに相談、という段取りを踏むのではないか。
法務部や弁護士など、法律の専門家は、「こう対応すれば、このような罪に問われる可能性がある」という視点でアドバイスする。ようは「裁判に負けない」、もしくは「勝つ」ためにはどうするか、という発想だ。
ただ、弁護士のアドバイスに従って会見に臨んでも炎上することはままある。
なぜか。
それは企業の危機(不祥事)が、司法とは別に、社会(世間、世論といってもよい)という名の法廷でも裁かれるからだ。そんな理不尽な、と思われるかもしれないが、それが現実であることをまずは知るべきだ。
特にSNSが発達している今、悪い情報は秒速で社会に広まる。仮にそれが虚偽情報だとしても、ネットの世界ではそんなことはお構いなしだ。気がつけば自分たちが社会悪になっていてもおかしくない。法的に問題がないはずなのに、だ。
社会はある意味SNSに操られているといってもいいだろう。
法的に問題がなくても、社会はそれでよし、としない。企業側からしたらある意味理不尽な非難だろうが、社会はそんなことはお構いなしだ。
つまり、現代では、法律の専門家以外の第三者の目を入れて、社会に対し、どのような情報を公にすれば、企業のレピュテーションリスクを最小化できるか、あらゆる角度から検討することが必須なのだ。
(その2につづく)
トップ写真:ジャニーズ事務所(当時)の記者会見に詰めかけたメディア(2023年9月7日 東京・千代田区パレスホテル東京)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。