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.社会  投稿日:2024/2/21

「危機管理マニュアル」その4 不祥事会見の基本③質問への答え方


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・不祥事会見には想定質問を事前に準備することが重要。

・まず、結論を先に言おう。

・そして、否定すべきことは明確に否定すること。

 

「危機管理マニュアル」

その1 社会という名の法廷

その2 不祥事会見の基本①会見の目的

その3 不祥事会見の基本②進行について

その4 不祥事会見の基本③質問への答え方

その5 平時に備えておくべきこと

 

前回は、会見の進行と、司会の重要性について書いた。

今回は、「質問への答え方」について。

不祥事会見を見ていて毎回目につくのは「準備不足」だ。想定問答が十分に用意されていないな、と感じる。

想定問答がなぜ必要かは、その2の「会見の目的」に通じる。何のためにその会見を行うのか、そこが明確でないと、当然、答える内容もブレるのだ。記者の質問ひとつひとつになんとか答えようとするからどうしても無理が出てくる。場合によっては言ってはいけない一言を言ってしまうかもしれないし、仮に言わなくても雰囲気でバレてしまうこともある。

特にテレビカメラが入る場合、会見者の一挙手一投足が映像で白日の元にさらされる。話さなくても表情や仕草で視聴者はその人となりを知ることになる。人は見かけが9割と誰かが言ったが、まさにその通りだと思う。

■ 答えは事前に準備

会見ではどんな弾(タマ)が飛んでくるかわからない。なので、一つ一つにまともに答えていたらきりがない。

日本人はアメリカ人のようにプレゼンテーションに慣れていない。質問に真摯に答えようとしがちだが、時にそれが誤解に通じたり、失言になったりする。不祥事会見では、それは避けねばならない。

ではどうしたらいいか。

こちらの答えを事前に準備しておくことだ。そしてそこから逸脱しないことが重要だ。

例を挙げよう。

不祥事会見で記者が必ずと言ってもいいほど聞くのが「進退問題」だ。マスコミの世界では、社長を辞任に追い込むことを「首を取る」というが、トップに責任を取らせることを手柄と考えている節がある。

なので、不祥事会見では必ずと言っていいほどどこかの社が、

記者「社長、こんな問題を起こして、どう責任を取るんですか?職を辞する気持ちはあるのですか?

などとやる。

こちらはそれどころではない。辞める気なんてさらさらない。そんな時、こうした質問にはどう答えるか?

会見者「いまは、原因究明と防止策の策定に真摯に取り組む所存です。私の進退についてはそのあと考えます」。

これはまずい。

こう答えると、新聞やテレビの見出しは

〇〇社長、辞任へ

と書かれてしまう。

辞めるなんて一言も言ってないのになぜ!?と憤慨しても始まらない。事態が収拾したら考える、と言っているので辞めないかもしれないが、辞めるかもしれない。なら「辞任へ」と書いても間違いではない。記者はそう、考える。

しかし、「辞任へ」と書かれた方はたまったものではない。見出しを見た読者がこの社長は辞めるものだと思ってもおかしくない。そう書かれてから怒っても後の祭り。言葉だけが独り歩きしていく。

正解は:

辞任は考えておりません。一刻も早く原因を究明することと二度と同じ問題を起こさないための対策を取ることに全力を尽くします」。

明確に辞任を否定することが最重要であり、それを頭に持ってくるべきなのだ。

 結論を先に

もう一つ例を。

「奥ゆかしさ」を美徳とする日本人ならではなのか、相手の言うことに対していきなり「NO」というのは失礼だという深層心理が私たちの中にはある。欧米を旅行していて道を聞いた時に即座に“I do not know.”と言われてがっくりきた経験があるご仁も多かろう。

しかし、こと不祥事会見に置いて、「奥ゆかしさ」は全く必要がない。いや、むしろあってはならない。

相手は何とか自分たちのストーリーにそった答えを引き出そうとする。その答えをこちらが言いたくない場合、もしくは言えない場合は、相手の引っ掛け質問、誘導質問に乗ってはいけない。

たとえば、「こんな事件が起きたのは上からの指示があったからでしょう?組織ぐるみだったのではないですか?

よくある質問だ。マスコミは「組織ぐるみ」が大好きだ。何とかその会社を悪者に仕立て上げたい。そのための言質を何とか取りたい。だからこう聞く。

ダメな回答例。

私は全く知らなかった。なぜこんなことが起きたのか。現場がやったんじゃないですか?

誰の答えかバレバレだが、これは良くない。

まず、組織ぐるみを否定していない。かつ自分は責任逃れ。加えて現場に責任を押し付けようとしている。悪印象しかない。

正解は:

組織ぐるみということはありません。なぜこのような問題が起きたのか、私が先頭に立ち、第三者の目を入れて今原因究明に全力を挙げています」。

こういうにとどめておくのが最善であろう。

仮に会見に臨んでいる人間が現場に指示して何らかの不祥事が起きていたとしたら、リーガルリスクがあるから、会見の場でそれを認めるわけにはいかない。こう答えるのが精一杯だ。

まずは「組織ぐるみ」と書かれないことに注力すべきで、それを否定する。かつ、原因究明に真摯に取り組んでいる姿勢をアピールするのがこの時点でベストだ。

「結論を先に」。「否定すべきは否定する」。

この2つは、不祥事会見に置いて、質問への答え方の基本中の基本なのだ。

(その5につづく。その1その2その3

トップ写真:イメージ(本文と関係ありません)出典:webphotographeer/GettyImages




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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