無料会員募集中
.国際  投稿日:2024/2/20

議長任期切れれば「われ関せず」? 上川氏、G7外相会議欠席


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・クライナ支援をめぐってミュンヘンで開かれたG7外相会議を上川陽子外相が欠席。

・ロシアの反体制派指導者、ナワリヌイ氏の〝怪死〟もとりあげられるなど西側結束にとって重要な会議だった。

・GDPでの日本の4位転落が明らかになった直後。国際的な影響が衰退し続けるのではないか。

 

 ■ナワリヌイ氏の怪死でロシアを非難

 日本は昨年G7議長国だったが、任期が終われば「われ関せず」か。

 ウクライナ情勢をめぐるG7外相会議が2月17日に開かれた。毎年、ミュンヘンで各国の首脳、外相らが集まって開かれる安全保障会議にあわせた日程だった。

 会議では、ロシアの侵略満2年を前に、ウクライナに対するゆるぎない支援、復旧・復興への継続を改めて明確にし、インド太平洋と欧州大西洋の安全保障が互いに影響しうることなどを確認した(外務省発表)。

 議長声明の冒頭では、ロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏の死亡をめぐって、G7としての「憤り」を表明し、ロシア当局に対して、死因を究明し、表現の自由への組織的な抑圧、市民の権利の不当な制限をやめるよう強く求めた。

写真)フランス・パリのロシア大使館横で、アレクセイ・ナヴァルニー氏に献花する人々(2024年2月19日 フランス・パリ) 

出典)Christian Liewig – Corbis/Getty Images

外相、ウェブでも参加せず、幹部が代理出席

 会議にはG7各国の外相、EU(欧州連合)上級代表に加え、ウクライナのクレバ外相も出席した。

 日本はこの会議に船越健裕外務審議官を派遣したにとどめた。上川外相のウェブでの参加もなかった。

 外務省は欠席の理由について、「(2月19日の)ウクライナ復興推進会議、(20日からの)ブラジルでのG20外相会議を控えていたことなど日程上の問題が大きかったとしてとに言及、ウェブで参加できなかったのは、「議長国(イタリア)の意向や設備の問題があったためで、今回はやむなく外務審議官が出席した」(総合政策局総務課)と説明している。 

 各国の国旗のもと、出席者が談笑するシーンがテレビで放映されていたが、端に立てられた日の丸が寂しい印象を与えていた。

 外相の窮屈な日程は理解できるとしても、会議で取り上げられたのは、ウクライナ情勢とナワリヌイ氏の不審死という世界が注視している問題だ。たとえ短時間でも出席して日本の立場を伝え、ロシア非難に加わるべきだったろう。

息切れ、日本のウクライナ支援 

 ロシアのウクライナ侵略に対して日本は当初こそ、防弾チョッキ、ヘルメットなど殺傷能力のない装備、東京のロシア大使館の外交官8人の一挙追放など、各国とよく足並みを合わせ、昨年のG7広島サミットにウクライナのゼレンスキー大統領出席を実現させるなど、それなりに健闘してきた。

 しかし、その後は地雷探知機の供与などを除けば目立った協力はなく、〝息切れ〟が続いている。

 あらたな支援を打ち出すことは不可能だったとしても、少なくとも外相自身が討議に加わり、日本の立場、主張を展開することは重要だった。

 日本とウクライナによる経済復興推進会議控えていたというなら、むしろ外相自身が直接、この場で各国の意見を聞くべきだったろう。

ワリヌイ氏の死亡に関しては全世界がロシアに対して死因究明を求め、非難しているのだから、日本の外相がその場に姿を見せなかったことは各国から人権意識の低さを指摘され、特定の意図があるのかと疑念を呼ぶことにならないか。 

 もっといえば、G7外相会議に先立って、3日間開かれたミュンヘン安全保障会議に出席すべきだったろう。40か国以上の首脳、100人以上の閣僚らが顔をそろえている会議に出ないというのはもはや、大国としての自覚が希薄と指摘されてもやむをえまい。

トランプ返り咲きなら欧州、日本の責任は重大に

 ウクライナ支援をめぐっては、カギを握る米国内で、議会の消極姿勢によって、あらたな予算案通過がいまだ滞ったままだ。秋の大統領選でトランプ前大統領が返り咲けば、支援はもはや期待できなくなる。

 そうした情勢の中でロシアの勝利を防ぐためには、欧州では、英独仏を中心としたアメリカ抜きのNATO北大西洋条約機構の結束がいっそう重要となり、アジアでは日本が大きな役割を果たさなければならないだろう。

 憲法上の制約、与党の一部にある慎重姿勢を考慮しても、一歩踏み込んだ支援実行を迫られる可能性がある。

 G7外相会議をめぐって、岸田首相、上川外相が何を判断基準にしたのか、窺うべくもないが、「次の総理」としてにわかに人気が高まっている上川氏(2月19日づけ読売新聞では4位に躍り出る)には、国民の期待に応えるためにも英断を下してほしかったと思うのは筆者ひとりだけではあるまい。

 アメリカがウクライナ問題への関与を中止すれば世界は大混乱に陥る。日本は欧州とともに、アメリカに代わる大きな役割が期待される。

 それができなければ、世界における日本の長期低落はいよいよ深刻になるだろう。

トップ写真)飯倉迎賓館で開催されたG7外相会合のワーキング・ディナーに出席する上川陽子氏(写真中央)(2023年11月7日 東京)

出典)Tomohiro Ohsumi/Getty Images

 




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."