無料会員募集中
.政治  投稿日:2023/12/10

「統一教会系との面会」問題、どうなる朝日と首相の攻防


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・岸田首相が4年前に、旧統一教会関係者と会っていたと朝日新聞が報じた。この人物は、首相と元米下院議長との面会に同席、自己紹介したというが、首相は記憶にないと繰り返している。

・朝日は面会の写真を掲載し、教団との接触を否定しながら後に認めて辞任した元閣僚のケースに触れ、「説明責任」を果たすよう求めている。

・首相があくまで面会同席者について知らなかったと突っぱねたら、朝日はあらたな証拠を突き付けるのか。それとも矛を収めるのか。今後の紙面展開が気になるところだ。

 

■ 朝日は〝証拠写真〟も掲載

朝日新聞が最初に「『首相、統一協会系と面会』」と1面トップで報じたのは12月4日づけ朝刊。関連記事も1面、社会面に掲載された。

これら記事によると、首相が自民党政調会長時代の2019年10月、党本部でギングリッチ米元下院議長と面談したさい、旧統一教会友好団体のトップが同席していた。この人物は岸田氏に名刺を渡して自己紹介、会話も交わしたという。

朝日は翌5日朝刊で追い打ち、1面トップで「米教団元会長も同席か」と報じ、面会の写真も掲載した。

その後も「首相 記録も記憶もない」(6日、2面トップ)、「岸田氏面談『教団系が手配』」(7日、1面トップ)など連日派手な報道を継続した。

 山際元経済再生相の辞任引き合いに説明要求

12月4日の朝日初報を見ると、それだけでは教団関係者と会っていたこと自体が問題であるかのような印象を受ける。大事件の時に新聞が多用する〝白抜き〟見出しの効果もあって、読者の目を引いたろう。

しかし、朝日の本当の狙いが、首相の過去の発言との矛盾を指摘し、「説明責任」を要求して攻撃しようというのは明らかだ。

実際、朝日の4日朝刊1面の「視点」は、岸田首相がこれまで、教団との関係を否定してきたことを指摘、「自身の発言との整合性も厳しく問われる」との主張を展開している。

しかし、同じ「視点」で言及しているように、今回の目的が下院議長との面談だった場合、党が昨年、所属議員に報告を求めた「教団との接点」には該当しない。

教団と接触を持っていた議員は現職閣僚を含め少なからずおり、それ自体は好ましいことではないにせよ、会ったということだけでは深刻な問題に発展する恐れは少ない。

 首相は「認識なかった」を繰り返す

朝日は、山際大志郎経済再生相(当時)が教団との関係について記憶にないなどといいながら、後に韓鶴子総裁との写真が出回って22年秋に辞任に追い込まれたことに繰り返し触れ、〝同罪〟であるかのような論陣を張っている。

最初に報じられた12月4日、首相は官邸でインタビューに答え、「元下院議長が表敬を申し入れてこられてお会いした。その際に大勢の同行者がおられ、そのひとりひとりについては承知していない」として、同席者に関連団体トップがいたという認識はなかったと釈明した。

翌5日朝刊の掲載された写真は、岸田、ギングリッチ氏をはさんで関連団体トップ、米教団元会長の4人が収まった記念撮影風と会談風景の2枚だった。

写真を見る限り、教会関係者の同席は明らかだが、岸田首相は同日、「同席者については承知していない。写真があったとしても認識は変わっていない」と前日同様の説明を繰り返した。

■ あいさつ程度でも問題か?

首相が今後、一転して、統一教会系団体トップらが同席していたことを知っていたーと認めた場合はどうなる。

首相が窮地に追い込まれるのは間違いないが、山際氏のケースと比較してみると、氏は、写真を撮った時点で相手が韓総裁であることは知っており、それ以前にも教会系の会合にも出席、関連団体への会費を支出していたこともわかっている。

岸田首相の場合、同席した友好団体トップの身元、誰が会談をセットしたかを最初から知っていたり、名刺を受け取った際に、教団について何らかのやり取りをしていれば別だが、仮定ではあるが、単に「よろしく」くらいにとどまっていたとしたら、どうだろう。

しかも、会話の内容が明らかではないのだから、現時点で山際氏の問題と同列に扱うのはやや無理があるのではないか。

朝日新聞によれば、同紙がこの問題について取材を始めたのは、昨年11月という(4日1面『視点』)から、かなりの情報を入手しているだろう。首相があくまで「認識はなかった」と繰り返せば、どこまで攻め切れるか。追及は容易ではないだろう。

筆者はこの問題について朝日新聞にメールで取材を申し込んだが、回答は「編集部門に伝えさせていただきました。なお、取材の経緯などについてはお答えいたしておりません。ご理解いただければ幸いです」だった。

 木で鼻をくくったような岸田事務所の対応

この問題についての岸田首相、岸田事務所の対応に問題はなかったか。

朝日によると、友好団体トップと面会したかについての複数回の質問に対して、岸田事務所は「経緯はわからないが、ギングリッチ氏との面会との認識だった」との回答を繰り返すだけで、友好団体トップの同席についての説明はなかったという。

首相は12月8日の衆院予算委員会で、「党本部関係者はじめさまざまな関係者に確認したがだれがこの面会をセットしたかを示すものはなかった。旧統一教会関係者が同席していたとしても、承知していない。私が統一教会と関係があったような指摘は当たらない」と珍しく強い調子で説明した。

これで説明責任を尽くしたとは言えないだろうが、朝日に対する木で鼻をくくったような回答よりははるかにましだろう。最初から、この程度答えていれば、朝日の筆鋒が鈍ったとは思えないが、読者の受ける反応は違ったかもしれない。

筆者は同様に岸田事務所に、記事が出た12月4日、FAXで取材を申し込んだが、回答はなかった。不誠実な対応は、首相の説明に対する不信感にもつながる。

朝日はじめ各メディアはいま、松野官房長官の更迭にまで発展した自民党各派のパーティ券の裏金問題に取材の勢力をつぎ込んでいる。

燃え盛るこの問題の騒ぎに埋もれてしまうのか、それともくすぶり続ける可能性はないのか。

朝日はどう攻勢を続け、首相はどうこたえるのだろうか。報じるほうには公平な記事を、答えるほうには真摯な態度を期待したい。

トップ写真:ドバイで開催されたCOP28に出席した岸田文雄首相(2023年12月1日アラブ首長国連邦・ドバイ)出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."