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未分類  投稿日:2024/5/26

アメリカへの中国からの不法入国者が激増


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米で中国からの不法入国者が激増し、当局が警戒を高めている。

・中国のスパイや、政治工作員が不法入国者のなかに潜入しているのではとの懸念が浮上。

・中国に対する警戒の声が米議会で聞かれるようになってきた。

 

アメリカへのメキシコ国境からの不法入国者の驚異的な増加はアメリカ社会を揺るがし、大統領選挙の主要争点にまでなったが、最近は中国からの不法入国者が激増したことが米側当局の警戒を一段と高める結果となった。中国からの密入国者には中国政府の意向を受けて米側でのスパイ活動や政治工作を実施する要員が多いとの懸念からである。

いまのアメリカでは南部でメキシコと国境を接するカリフォルニア、ニューメキシコ、アリゾナ、テキサスの4州でメキシコ国境を不法に越えて入国してくる男女の激増に悩んでいる。主として中米の諸国からメキシコ領内を縦断してアメリカに違法に入ってくる人間がバイデン政権になって、増加に増加を続けるようになったのだ。その理由は明らかに米側の政策の変化だった。

トランプ氏が大統領の在任中の時点での不法滞在の外国人の総数は1100万人とされていた。トランプ大統領はこの数をそれ以上には増やさず、多様な形で減らすという政策を打ち出した。その手段としてメキシコとの国境に全面的に壁を建設するという計画を実施し始めた。ところがバイデン氏は2020年の選挙中からトランプ政権の壁建設は非人道的だと非難し、ホワイトハウス入りしてすぐに壁建設の中止を命令した。それだけに留めず、メキシコとの国境の警備を緩め、不法でもすでに入国した外国人に対しては強制送還の措置をほとんどとらなくなった。

その結果、テキサス州のメキシコ国境沿いのリオグランデ川の浅瀬を徒歩で渡って、アメリカに堂々と不法入国してくる中南米系の100人ほどの集団が多数、テレビ報道でも連日のように目撃されるようになった。この現象はどうみても、バイデン大統領の寛容な国境管理政策の結果だった。

バイデン政権が登場してからの不法入国者の総数は同政権の公表分だけでも2021年には173万、22年は237万、23年は243万と増え続けた。2024年はまだ5月だが、すでに150万と前年同期を大幅に上回った。トランプ政権時代の2020年までの4年間は年間30万とか40万という数字だったから、どうみてもバイデン政権下での記録破りの激増だった。

バイデン政権登場以来の3年半の不法入国者は公式統計では合計約800万となる。しかしこの数字は公式の取り締まりの対象となった不法入国者の記録だけであり、取り締まりをくぐって、アメリカ内に入り、行方が不明となった入国者を加えると合計1000万人を越えたことは確実だとされる。

この不法入国者の奔流はアメリカ各地の社会で犯罪の増加や治安の悪化、さらには地元経済への悪影響など多様な問題を引き起こすようになった。このためバイデン政権も2024年に入って、それまでの入国警備の寛容政策を変えて、監視や審査を厳しくする措置をとった。またトランプ政権時代のメキシコの壁の建設も一部、再開できるように条令などを改正した。だがそれでも不法入国者激増という問題はアメリカの社会や国民を動揺させ、大統領選キャンペーンでは共和党側のトランプ陣営がバイデン政権の失態の一つとして正面から非難するようになった。

しかしここにきて、この不法入国者問題に新たな炎が燃え上がる形となった。本来、中米や南米からの国民が圧倒的多数だった密入国者のなかで中国籍の男女が急速に増えてきたのだ。本来、アメリカのメキシコ国境とは縁の遠かった中国からの不法入国者が急増してきたのである。

2024年3月までの半年間に南部国境からアメリカに不法入国して拘束された中国国籍の男女は合計約19万にも達した。この数字は2023全体では約3万7000人だった。23年末から24年にかけての至近の期間に記録破りの激増を示したわけだ。この年間の不法入国中国人の数字は2年前の2021年にはわずか700人ほどだった。だから50倍もの増加なのだ。

アメリカ政府当局もこの中国人の不法入国の急増には特別な注意を向けている。議会でも指摘されるようになった。中国政府がアメリカ国内での軍事関連情報を集めるスパイ工作や、米側の政治や世論に影響を及ぼす政治工作のための要員が最近の不法入国者のなかに潜入しているのではないか、という懸念から警戒が提起されるようになったのだ。

それでなくても、最近はアメリカの政府や議会の中国に対する脅威感が高まるにつれ、正規のルートでの中国からのアメリカへの入国や移住は厳しく制限されるようになっていた。その正規の中国人入国者の数の減少に反比例するように、不法の入国者が急増したのだ。この現象の背後に中国政府の新たな対米戦術がひそんでいたとしても、そうふしぎではない。現にそうした警戒の声はアメリカ議会では聞かれるようになったのである。

トップ写真:国境で米国税関・国境警備隊に拘束された中国人移民ら(2023年11月12日、カリフォルニア州ジャクンバ)出典:Nick Ut/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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