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.国際  投稿日:2024/6/25

「トランプ陣営の世界戦略がさらに明るみに」その1 新文書が示す国際安全保障策


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「アメリカ第一政策研究所」(AFPI)は国家安全保障へのアメリカ第一のアプローチ」と題する論文集を刊行した。

次期トランプ政権が日米同盟破棄とかNATO脱退という政策はとらないことは明白となる。

トランプ政策は世界戦略としては「力による平和」を主唱する。

 

アメリカの大統領選挙の結果、もしドナルド・トランプ前大統領が勝てば、アメリカ政府の対外政策はどうなるのか。その結果、世界はどう変わるのか、変わらないのか。

この展望を占うために有力な指針となる政策報告書がトランプ陣営の研究機関から公表された。

当然ながら選挙の結果はまだわからない。現職のジョセフ・バイデン大統領が勝つかもしれない。だが投票日まで半年以下というこの6月下旬の段階では、米側の一連の世論調査はみなトランプ候補の優位を示す。来年1月にトランプ政権が再び登場する可能性も十分にあるわけだ。

となれば、アメリカを同盟国として安全保障面でも大幅に依存する日本としては、その第二次トランプ政権がどんな世界戦略を打ち出し、日本にもどんな姿勢をみせるかは、重大な関心事となる。日本にとって国家のあり方をも左右する重大事とさえいえよう。

ところが最近の日本では、この読み方の作業では「もしトラ」という符丁の下に、「トランプ新政権は日米同盟を破棄するだろう」などという無責任な言説が飛び交う。「トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)から脱退する」という予測までが、これまた根拠不明のまま横行する。いずれも米側での民主党支持の主要メディアがトランプ氏を「孤立主義者」と断じて流すトランプ叩きのプロパガンダの受け売りという場合が多い。

そんな政治状況のなかでトランプ氏自身にも直結するトランプ陣営の政策研究機関、つまり大手シンクタンクがトランプ氏、そしてトランプ陣営としてのアメリカの国家安全保障政策はこうなのだと具体的に述べる政策報告書を発表したのだった。

この研究機関はワシントンに本拠をお「アメリカ第一政策研究所」(AFPI)である。

AFPIは常時、150人ほどのスタッフを抱える大規模なシンクタンクだが、メディアの光を浴びることは少ない。やはりトランプ嫌いの大手メディアの傾向のせいだろう。

事実、AFPIの理事長、所長のリンダ・マクマホン、ブルック・ロリンスという両女性ともトランプ政権の閣僚級高官だった。ただし理事や顧問、主要研究員はトランプ陣営を越える広範な共和党系人材をも集めている。しかし中核はあくまでトランプ政権に実際に在勤した大統領側近が主体である。同研究所はいまもトランプ氏自身と密接な連絡を保ち、同氏の選挙キャンペーンでも直接の政策提言をするのだ。

そのAFPIが5月中旬に「国家安全保障へのアメリカ第一のアプローチ」と題する論文集を刊行した。トランプ次期政権が誕生した場合のその国家安全保障政策、とくに対外戦略の具体的な内容をトランプ陣営代表の専門家14人が執筆した政策報告書の集大成である。

この報告書は軍事政策、対中政策、同盟関係、中東、ロシアなど各分野に分れ、合計12章から成る。単行本の形をとり、計250ページの重厚な内容だといえる。筆者はみなトランプ前大統領の支持者であり、実際にトランプ政権で働いた経歴の専門家たちが大多数を占める。

同書の全体を編集したのはいまAFPIで国家安全保障部門の責任者を務めるフレッド・フライツ氏である。同氏は2017年1月に発足したトランプ政権では大統領副補佐官、国家安全保障会議の主任スタッフを務めた。その前はCIA(中央情報局)、国家情報会議、議会下院情報特別委員会首席補佐官などという経歴を有する。

この「国家安全保障へのアメリカ第一のアプローチ」の内容をまず俯瞰すると、次期トランプ政権が日米同盟破棄とかNATO脱退という政策はとらないことは明白となる。全体としては既存の同盟関係の強化が方針である。ただし同盟関係では従来よりも防衛負担の双務性、均等性を求める。だから同盟全体としてはむしろ強化という方向を目指すわけだ。

トランプ政策は世界戦略としては「力による平和」を主唱する。軍事力を重視して、敵対勢力には「力の行使」につながる軍事的な抑止の構えも辞さない。同時に既存の国際秩序の維持には年来の同盟相手との協力をも重視る。この点では孤立主義ではない、というわけだ。AFPIの常時の外交政策表明では「単独ではなく」という標語を繰り返している。

この報告書はこの段階では尚早すぎる観は逃れられないとはいえ、トランプ氏の11月の本番選挙での勝利を前提として、来年1月の政権交代の実務面の手続きも具体的に詳述している。バイデン政権からの政務引き継ぎにはトランプ支持層の合計4千数百人の専門家、実務者があたり、政府各部門の上層部から中堅のポストに就任する、という計画である。この政治任命はアメリカ政府の政権機構では年来の慣習となっている。  

(その2につづく)

*この記事は総合雑誌「月刊 正論」2024年7月号に掲載された古森義久氏の論文「トランプ陣営の『世界戦略』を知る」の転載です。

トップ写真:ウィスコンシン州ラシーンのフェスティバル・パークでの集会に到着した共和党大統領候補ドナルド・トランプ前大統領(2024年6月18日)出典:Photo by Scott Olson/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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