「トランプ陣営の世界戦略がさらに明るみに」その2 「力による平和」での対外介入
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・AFPIの政策報告書によると、トランプ的対外政策は歴代のアメリカ政権とは異なる。
・政策的にアメリカ主権への侵害を抑える一方、実際の紛争には『力による平和』へのアプローチを主導する。
・今後のアメリカの対外政策は、大統領自身の決断が明確であることが超重要である。
さてこのAFPIの政策報告書の具体的内容を報告しよう。日本側にとっての関心が高い三章ほどに焦点をしぼって骨子を紹介することとする。
【アメリカ第一安全保障政策の全体像】
同報告書全体ではまず「国家安全保障へのアメリカ第一アプローチを定義づける」と題された第一章で全体図を描いている。つまり次期トランプ政権の対外安全保障政策の基本の特徴の説明である。
この章の報告者はトランプ前政権で国家安全保障政策の顧問を務めたキース・ケロッグ氏である。ケロッグ氏は陸軍の軍人としてアジア、欧州、中東などでの多様な軍務に就き、国防総省での政策部門でも勤務し、陸軍中将にまで昇進した。退役後はトランプ陣営に加わり、トランプ氏の前回の選挙戦を支援した。
この章はまずトランプ的対外政策が歴代のアメリカ政権のそれとは異なるとして以下を記述していた。
「トランプ政権の登場まではアメリカの各政権は民主党、共和党の別なく、全世界の出来事に介入主義的、グローバリスト的なアプローチを進めてきた。その結果、各地域での不安定がかえって増加する結果を招いた。その介入の特徴は人道主義的関与、民主主義推進、先制抑止的軍事関与、民主主義反政府勢力への支援、そのための政権交代などといえる。その施策は基本的に国際秩序の現維持だった」
「ところがこのアプローチはアメリカの地域紛争への果てしない介入、現地の紛争の長期化につながり、アメリカにとっての戦略的な過剰介入となった。アメリカ国民への負担を増し、国益へのプラスがないという状況をも生んできた」
この章はそのうえで、トランプ氏の政策として対外戦略でも、介入や関与がアメリカの国家や国民にどんな実益があるかをまず検証してから方針を決める国連のような国際機関、他の関係諸国などによるグローバリスト的な力でアメリカの主権を侵食させてはならない、と強調していた。
そして、より具体的にはアメリカ第一的対外アプローチには以下のような要素がある、と述べていた。
「アメリカの国家主権を、自国の国境を物理的に守ると同時に、政策的に国際機構によるアメリカの主権への侵害を抑えることによって防御する。
アメリカの強さと繁栄を強固な経済、安全な社会、安定した供給チェーン、エネルギーの自立などにより再建する。
実戦と抑止に再集中する強力な軍事力の再建とともに、その軍事力の慎重な使用に努める。
主権国家同士の関与には慎重な優先順位をつけ、大胆な外交を展開する 一方、実際の紛争には『力による平和』へのアプローチを主導する。
同盟諸国に対しては自国とその地域の防衛に公正な負担を確実にすることを求める。同時に同盟諸国とのより緊密な安全保障活動を進める。
アメリカ自体が先のみえない他国の戦争にかかわることを避ける。
数十年にわたり米側がその脅威を無視してきた共産主義・中国の着実に増大する重大な脅威に正面から対処する。」
以上のように述べる同報告書は同盟諸国、有志諸国との共同防衛について、ロシアに侵略されるウクライナへの支援、さらにはハマスに奇襲攻撃を受けたイスラエルの支援でも、アメリカの現在の負担は公正ではない、と断じていた。フランスやドイツなどの西欧諸国からの支援は大幅に増大されるべきだと主張していた。
同時にこの報告書の第一章は今後のアメリカの対外政策では大統領自身の決断が明確であることが超重要だとして、今のバイデン政権では大統領自身の判断が見えてこないと批判していた。同報告書は選挙戦で対決相手の民主党バイデン政権をけなすのは当然だともいえるが、特に具体的に「バイデン政権の対外対応は弱すぎる」と断じていた。
その具体例としては2021年8月のアフガニスタンからの突然の米軍全面撤退での失態、22年2月からのロシアのウクライナ侵略への軍事オプション排除という欠陥的な対応、そして23年10月のハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃に先立つ中東情勢での反イスラエル勢力の活動拡大の許容などをあげていた。
(その3につづく。その1)
*この記事は総合雑誌「月刊 正論」2024年7月号に掲載された古森義久氏の論文「トランプ陣営の『世界戦略』を知る」の転載です。
トップ写真:ロシアとの国境に近いハリコフ地方で、戦闘任務に備える120ミリ迫撃砲を装備したウクライナの迫撃砲部隊(2024年5月18日 ウクライナ・ハリコフ地方)出典:Kostiantyn Liberov/Libkos/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。