”青渋”エリアに起爆剤「渋谷アクシュ」開業へ
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・渋谷と青山をつなぐ「青渋」エリアに新複合施設「渋谷アクシュ」が開業へ。
・施設全体がアートと融合、飲食店とのコラボもあり、新たな賑わい創出を目指す。
・IT企業も渋谷に集積、再開発も相次ぎ、高いオフィス需要は今後も続く。
渋谷駅の東口から青山方面にかけての、いわゆる「青渋」エリアに、商業施設とオフィスが入居する地上23階の新複合施設が誕生した。その名も「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」(7月8日開業)。
渋谷ヒカリエの裏手に位置し、元々は複数のオフィスビルがあった場所で、反対側に渋谷クロスタワー(旧東邦生命ビル)がある。これで、渋谷ヒカリエ3階から渋谷アクシュを通り抜け、歩道橋を渡って渋谷クロスタワーまでつながることになる。
写真)渋谷アクシュ(手前)を抜けると歩道橋につながり、渋谷クロスタワー(奥)に直接行くことができる。
ⒸJapan In-depth編集部
もともとこのエリアは、青山方面につながる宮益坂と金王坂に挟まれており、青山学院の学生らが通学に使っているが、飲食店が少なかったため、賑わいに欠けていた。
渋谷アクシュの事業コンセプトは「TSUNAGI-BA(ツナギバ)」で、アクシュの名称は、青山(Aoyama)の「A」と渋谷(SHibuya)の「SH」が交わる(X:交差)ことを意味する「AXSH」から取り、かつ、「握手」の意味も込めた。2つの街の人や文化が交流し、新たな価値が生まれることを期待する。
東急グループは「広域渋谷圏」の構築を目指し、再開発を進めているが、青山もそれに加わることになる。
写真)渋谷アクシュ 渋谷クロスタワー側から
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■ 商業施設とアートの融合
渋谷アクシュ内の飲食店は、1階と2階にある。和食やスパニッシュ、イタリアン、タイなど、多国籍な店舗展開で、このエリアに少なかったカフェが3店舗入る。
興味深いのは、一部レストランやバーが現代アートプロジェクトとコラボしていることだ。
青山方面の広場(AOスポット)では、現代美術ギャラリー運営の株式会社NANZUKAがパブリック・アートプロジェクト「NANZUKA PUBLIC」をスタートさせる。渋谷と青山を行き来する人が、気軽にアート作品に触れることができる。第1弾として、フランス・ブルターニュ地方出身のアーティスト・Jean Jullien(ジャン・ジュリアン)氏の作品「The Tank(水槽)」が展示されている。アート作品は、年に2〜3回ほど入れ替えながら継続的に展示される。
写真)Jean Jullien(ジャン・ジュリアン)氏の作品「The Tank(水槽)」
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写真)NANZUKA代表・南塚真史氏 オフィスエントランスにアートギャラリーが隣接する
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2階には、アートバー「NANZUKA TAKEN」もオープンする。扉を開けると、まっさきに空山基の彫刻作品「セクシーロボット」や田名網敬一の映像作品に目を奪われ、近未来的な雰囲気に包まれる。ソファやテーブルも、中村哲也や大平龍一がコミッションワークで制作したもので、無機質なアルミのシルバーとファブリックの赤が妖しい雰囲気を醸し出す。
写真)空山基の彫刻作品「セクシーロボット」
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また、先に紹介した「NANZUKA PUBLIC」と連動したアートを店内に展示しているのが「TRATTORIA PIZZERIA 207(トラットリア ピッツェリア ニーマルナナ)」。「The Tank」をエントランス前に臨む。
神奈川県葉山の一色海岸至近にある同名の一軒家レストランの姉妹店として東京初出店だ。
昼は明るく開放的でカジュアルな雰囲気だが、夜は無数のペンダントライトの下、煌めく星空のダイニングと変貌する。
館内のギャラリー、飲食店、外部広場などがアートで連動させる試みは新しい。このエリアを知らなかった層も引きつける要素となりうるだろう。
写真)「Trattoria Pizzeria207」昼の店内
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写真)「Trattoria Pizzeria207」夜の店内
写真)「Trattoria Pizzeria207」メニューの一例
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■ 働く場としての渋谷の魅力
渋谷アクシュは、商業4フロア、オフィス19フロア約7,500坪を提供するが、開業前に満床になったことは、働く場所としての渋谷の魅力を再認識させることになった。入居企業の業種は人材関連サービスで知られるビジョナルグループをはじめ、IT、不動産、金融など多岐にわたっているという。
東急株式会社 不動産運用事業部 事業推進第三グループ主査 亀田麻衣氏は、渋谷区の空室率は約4%で千代田区に次ぐ低い水準であり、同区の平均募集賃料は2024年第一四半期で月坪約2万3千円と都心5区の中で最も高い水準であることを明かした。
写真)東急株式会社 不動産運用事業部 事業推進第三グループ主査 亀田麻衣氏
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「渋谷はオフィスの絶対数が少ないという要因もあるが、コロナ後、真っ先にマーケットが戻ってきたのが渋谷であり、それだけ勢いのある企業が渋谷にいること、そして渋谷にオフィスを構えたいと考える企業の多さを表している」と語る。
その理由として亀田氏は、「渋谷が今も昔も文化や遊びの要素が強く、日本の今がここにある」、と述べたうえで、渋谷は様々な目的で人々が集う街であり、どんなスタイルでいても街に馴染むのが大きな特徴だとした。そのため、コロナ以前からシェアオフィスやノマドワークが根付いていたり、髪型や服装も自由で自分らしく働いている人が多いという。
加えて渋谷は三軒茶屋や代官山、中目黒、恵比寿といった人気の住宅街が電車で10分圏内にあり、「働く、遊ぶ、暮らす」といったQOLの高い生活をしやすい環境にあると指摘した。
「日本の今と隣り合わせで働けることはビジネスにとって非常に大切な要素であり、従業員が自分のスタイルで働きやすいことは、現在の多様な働き方の中でますます大事なポイントになってくる」と話した。
すでに、渋谷にはGoogle Japan、サイバーエージェント、DeNA、GMOインターネット、ミクシィなど数々のIT企業がオフィスを構えている。
写真)渋谷アクシュ インテリアグリーンを手掛けるSOLSOと協働。2階天井に配置された「垂直庭園」は、ビル空間を緑で繋ぎ、空間全体の緑視率を向上させた。
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渋谷の再開発は今後も続く。京王井の頭線「渋谷」駅直結となる、オフィス・商業・ホテルの大規模複合再開発が、三菱地所により進行中だ。2027年2月の竣工を予定している。
また、7月21日に渋谷西口地下歩道が開通。玉川通りで分断されていた渋谷駅西口と桜ヶ丘エリアが自由に地下で往来できるようになる。JR東日本渋谷駅新南改札も使用開始となり、駅と周辺商業施設への動線も確保される。7月25日には渋谷サクラステージの商業エリア37テナントが開業するなど、この夏以降、渋谷をハブとして、「広域渋谷圏」の賑わいはさらに加速しそうだ。
(了)