新宿にエンタメの新名所出現
安倍宏行安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(松山柚香)
【まとめ】
・新宿・歌舞伎町にホテルとエンタメの複合施設「東急歌舞伎町タワー」がオープン。
・新しい観光拠点の創出と回遊性が狙い。
・課題は収益性。増えつつあるインバウンド需要に期待。
新宿・歌舞伎町といえば、誰もが知っている東京最大の歓楽街だ。その雰囲気は、銀座とは真逆だ。よく言えば庶民的、悪く言えばちょっと治安が悪いイメージを抱く人が多いかもしれない。
比較的低めのビルがごっちゃになっている歌舞伎町に似つかわしくない、これまで見たことも無いような超高層ビルがお目見えしたというので見に行ってきた。その名も「東急歌舞伎町タワー」。東急株式会社および株式会社東急レクリエーションが開発した。開業は4月14日(金)11時。
地上48階建て、地下5階建て、高さ約225メートルの複合施設の中には、ホテルのほか、映画館、シアター、ライブホール、ゲームセンター、アトラクションなどの他、レストランや会員制ウェルネスクラブなどが入っている。場所的には新宿東急MILANOならびにグリーンプラザ新宿の跡地で、西武鉄道西武新宿駅の真横になる。
水際規制緩和で訪日外国人観光客が増える中、歌舞伎町タワーの1階に、「空港連絡バス」の乗降場を整備、羽田・成田両空港からのアクセス向上を図る。
今回東急は「好きを極める」というコンセプトのもと、このタワーのホテルとエンターテインメントの複合施設という特性を活かして、新たな「好き」を生み出すストーリーづくり・ライフスタイルの提案を目指している。
ではこれまで見たことのない新施設東急歌舞伎町タワーはなぜ歌舞伎町に建設されたのか?歌舞伎町の歴史と共に考えたい。
今や歌舞伎町は東洋一の歓楽街として、平日休日、昼夜、老若男女問わず混む町となっている。
そもそも歌舞伎町という名前は、第二次世界大戦時の空襲で焼け野原となってしまった歌舞伎町エリアを復興するために、当時の町会長である鈴木喜兵衛が戦災復興区画整理事業を立ち上げた。その際に歌舞伎座を建設しようとしたことに由来している。しかし結局は歌舞伎座の誘致は実現できず、東急グループによる新宿東急文化会館や東宝による新宿コマ劇場、プラザ劇場なども開業したことで、歌舞伎町は大きな発展を遂げてきた。
そんな歌舞伎町に今回超高層ビルを建てた狙いとして、東急株式会社野本弘文代表取締役会長は、BSテレビ東京の番組「これだ!日本」に出演し、「地域に応じた夜間の楽しみ方を拡充し、経済効果を高めるだけでなく、エンターテインメントの殿堂を作るため」と述べ、歌舞伎町タワーの意義を強調した。
また、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)と東急レクリエーション、東急電鉄の3社が、エンターテイメント施設の企画・運営を目的として設立した、株式会社TSTエンタテインメント代表取締役社長の木村知郎氏は「新しい観光拠点の創出と回遊性が狙いだ」と述べた。実際、歌舞伎町から羽田・成田空港へのリムジンバスも用意されており回遊性のある観光・交流施設が形成されている。
歌舞伎町地区では、外国人観光客向けのナイトエコノミーに資する施設や、町の歴史・文化を活かした施設が不足している。文化の重要性を感じているため、映画館やライブホールなどソフト面とハード面が備わったビルにしたいという思惑がある。
▲写真 TSTエンタテインメント代表取締役社長の木村知郎氏ⒸJapan In-depth編集部
実際東急は同様に渋谷では訪れたい街づくりをするべく、屋上に展望施設「渋谷スカイ」をオフィス・商業施設の「渋谷スクランブルスクエア」に建設。360度東京を見渡すことができる施設を作った。東京の新たな観光名所になっており、特に若年層の間ではデートスポットとして人気になっている。
空調設備やコストなど課題もあったが、それよりも得られる収益の高さを共同出資者に訴えかけ、実現に持ち込んだ。結果的に実際に一日1万人来場していたため、採算がとれた。これをモデルにして新宿での今回の取り組みも盛り上げていきたいと野本会長は前述の番組で語っていた。新宿ー原宿ー渋谷の回遊も期待したいところだろう。
■ 施設の全容
歌舞伎町タワーの施設を詳しく見ていこう。
地下1階から地下4階がナイトエンターテインメント施設「ZERO TOKYO」、1階から5階はレストランとエンターテインメント施設、6階から8階が新宿ミラノ座の名前を継承した「THEATER MILANO-Za」、9階と10階が「109シネマズプレミアム」、18階から47階が2種類の新ブランドホテル「BELLUSTAR TOKYO」「HOTEL GROOVE SHINJUKU A PARKROYAL Hotel」となっている。
TSTエンタテインメントの木村氏は「上半分がホテル、下半分がエンターテインメント施設、地下はライブホールになっており、高層階のホテルは和をモチーフに、その下のホテルはエンターテインメント施設での余韻や、アートや音楽の文化を感じられる客室が準備されており、現在は7月までの期間限定で、 ヱヴァンゲリヲンとのコラボ客室が用意されている」と述べた。
24階の客室1フロアをヱヴァンゲリヲンでジャックした「ライフスタイル ホテル エヴァ(LIFESTYLE HOTEL EVA)」を期間限定オープンする。碇シンジ、綾波レイ、式波・アスカ・ラングレー、真希波マリ、渚カヲル、5名のパイロットのイラストなどが展示してある。
▲写真 HOTEL GROOVE SHINJUKU、ヱヴァンゲリヲンとのコラボ客室ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 HOTEL GROOVE SHINJUKU、ヱヴァンゲリヲンとのコラボ客室ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 HOTEL GROOVE SHINJUKU、ヱヴァンゲリヲンとのコラボ客室ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 HOTEL GROOVE SHINJUKU、24階の廊下にもヱヴァンゲリヲンサインボードがⒸJapan In-depth編集部
エンターテインメント施設として、シアターでは3面ワイドビューである「スクリーンX」やオールプレミアムシートにより差別化をはかり、新宿ミラノという映画館とボウリングの名前を遺したミラノ座を設置していた。
飲食では、和牛を用いたレストラン「和牛特区」やエンタテインメントフードホール「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」など、外国人観光客を強く意識した施設が入る。同横丁は24時間営業を予定している。
▲写真 新宿カブキhall~歌舞伎横丁ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 新宿カブキhall~歌舞伎横丁ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 新宿カブキhall~歌舞伎横丁ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 新宿カブキhall~歌舞伎横丁ⒸJapan In-depth編集部
そのため、ターゲットとしてはホテルやレストランでは富裕層、そしてアミューズメント施設「namco TOKYO」やダンジョン攻略体験施設「THE TOKYO MATRIX」では家族連れや若年層、フードホール歌舞伎横丁などで外国人観光客が挙げられる。まさに好きを極めて多様性を紡ぐという目的に沿って様々なターゲットに対して施設展開しているといえる。
さらに、「好きを極める」施策として現在ヱヴァンゲリヲンとのコラボを行っている。客室アレンジだけでなく、舞台、高橋洋子によるライブ、リアル脱出ゲーム、映画館でのシリーズ一挙上映などに力を入れているのだ。
前身の新宿ミラノ座はヱヴァンゲリヲン基幹上映場所だったこと、広場を使ったビューイングも行うなど、新宿は「ヱヴァの聖地」だったため、今回「好きを極める」施策として選ばれたようだ。
■ 近隣への波及効果
歌舞伎町タワーのすぐ隣にあるバーの店長に話を聞いた。コロナ禍で閉めた居酒屋に去年8月に居抜きで入ったという。歌舞伎町タワーが建つ事を見越しての判断だった。
店長の栗山氏は、「治安的にさらに誰でも来やすい歌舞伎町になるのではないか。観光客も増えて夜は盛り上がると思う。24時間営業にしたが、空港から早朝着いてホテルにチェックインできない外国人とかが立ち寄ってくれれば」と話す。近隣の飲食店や物販店舗には間違いなく追い風になるだろうし、新宿全体への波及効果は計り知れない。
▲写真 バー「ACQUA 24」ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 バー「ACQUA 24」店内 店長の栗山昴之氏とスタッフの中野寛之氏ⒸJapan In-depth編集部
■ 課題は収益性
本プロジェクトは、コロナ禍による計画変更や障害があったが、向かい風を追い風に変えるために、そのシンボルとしてこのタワーを作ると意気込み、今回の開業まで導いたと木村氏はいう。しかし課題も存在している。それはオフィスを一切設けない複合施設のビジネスモデルの収益性だ。
同じように東急が力を入れた渋谷の開発でも、テナント賃料で安定的収益を得るビジネスモデルだが、今回の歌舞伎町タワーは、ホテルやライブハウスなどのエンタメ施設とホテルのみだ。
木村氏によれば、今回の東急歌舞伎町タワーの計画は2018年に国家戦略特区の認定を受け、日本観光立国を目指し、東京都や新宿区から世界のエンターテインメントシティとして作って欲しいと言われていることもあり、物販やオフィスよりもエンターテインメントに振り切ったニーズの方が高いのではないかと考え、チャレンジングではあったが判断したと話した。
▲写真 東急歌舞伎町タワーⒸJapan In-depth編集部
加えてコロナ禍を経て世の中が大きく変わり、オフィスの需要が働き方の変化に合わせて減少した。コロナ前の状態には戻っていないのが現状だ。
また木村氏は、「商業施設について、ECの加速に合わせて物販のあり方も将来大きく変わるはずだ。街にわざわざ来てもらうモチベーションを考えると、エンターテインメント、観光の拠点をつくりだすことが必要だと考え、今回の開発に至った」と背景を語った。
映画館は近隣にも多く存在しているため、通常の映画館よりも席数を抑え、より快適なスクリーン空間で優雅に映画を鑑賞できるプレミアム体験を提供しようとている。また同じビル内にライブハウスや劇場、シネコンがあるという強みを活かし、映像配信や限定グッズの販売、レストランでは映画に登場したものと同じ料理が味わえるといった趣向を凝らすことで競合相手との差別化を図ろうとしている。
▲写真 「109シネマズプレミアム新宿」 プレミアムシートはゆったり。CLASS Sのシートには電動リクライニング機能や充電機能付きサイドテーブルも完備。ⒸJapan In-depth編集部
リアルとオンラインを通じて好きに出会う機会、そこに集う人々の好きへの情熱が交換される場を創出する。この好きへの思いと共に街の未来や文化と多様性を紡いでいくことができるのだろうか。変わりゆく歌舞伎町の未来が楽しみではある。
▲写真 内覧会にはメディア関係者200人以上が参加ⒸJapan In-depth編集部
(了)
トップ写真:東急歌舞伎町タワーⒸJapan In-depth編集部