バングラデシュ ハシナ首相辞任、暫定政権が発足
中村悦二(フリージャーナリスト
【まとめ】
・バングラデシュの首都ダッカで学生デモが起き、8月5日にハシナ首相が自認した。
・バングラデシュ暫定政権はインド政府との間で結んだ覚書について再検討ないし取り消す可能性に言及する。
・インド側も各種プロジェクトの実現可能性や継続を見直しており、両国関係が変化している。
バングラデシュの首都であるダッカで2024年7月、公務員採用特別優遇枠制の改革を要求する学生デモ隊と治安部隊が衝突した。8月に入っても抗議活動が続き、学生デモ隊はハシナ首相の退陣要求を掲げた。
ハシナ首相はこれに午後6時以降の外出禁止令で応じたが、陸軍の辞任要求もあり、同首相は2024年8月5日についに辞任した。インドの英語経済紙エコノミック・タイムズは、この間の衝突で数百人の死者が出たと報じた。
■ バングラデシュの暫定政権、インドとの覚書を見直しか
インドのタイムズ・オブ・インディア紙9月3日付によると、ノーベル平和賞受賞者であるムハンマド・ユヌス氏が率いるバングラデシュの暫定政権は8月初旬、インド政府との間で結んだ覚書について再検討ないし取り消す可能性に言及した。バングラデシュの最大の新聞であるプロトム・アロ紙の英語版報道を引用したもので、バングラデシュのムハンマド・トゥヒド・ホセイン暫定外相は、「合意は覚書に縛られるものでなく改定可能」との見解を明らかにしている。同暫定外相は、「覚書はバングラデシュの国益にそぐわない。再評価すべき」と断じている。
■ インド側も援助プロジェクトを見直しか
一方、インドの計画省は、バングラデシュに対する信用供与枠による継続ないし将来プロジェクトに関する実現可能性について見直しを図っている。そうしたプロジェクトは主にインド側の関心の下で検討されていた。
インドはバングラデシュに対し2010年、2016年、2017年に総額73億6000万ドルの融資を請け負ったが、バングラデシュの報道によると、実際の融資額は18億ドルで、融資元はインド輸出入銀行という。その中に入っているプロジェクトは、道路、鉄道連結、エネルギーなど。完成プロジェクトは15件で、進行中が8件、残りは準備段階という。
信用枠供与によるプロジェクトの請負会社はインド企業であることが必須で、プロジェクト向けの製品・サービスの65%はインド国内調達が課せられている。
■ 具体的なプロジェクトの動向
インド融資で2017年から始まった、バングラデシュとインド北東地域の連結路線となるブラーフマンバリアのアシュガンジからアカウラ国境に至る約50kmの道路の改修関連プロジェクトに関しては、インド企業のプロジェクトは放棄された。しかし、バングラデシュ政府による信用供与枠設定で復活。2025年6月に完成予定という。
また、ティースタ河の水の共同利用については、2011年のインドのマンモーハン・シン首相(当時)のダッカ訪問時に調印される予定だったが、いまだに実現されていない。この共同水利用に関し、インドの女性州首相として名高い西ベンガル州のママタ・バナージー州首相は強硬に反対しており、“たとえ少量の水でも、バングラデシュへの供給となると、国際的基準によって支払われるべき”とけん制している。
トップ写真:誓いを立てるノーベル平和賞受賞者かつバングラデシュ暫定政府主席顧問ムハマド・ユヌス氏(バングラデシュ・ダッカ、2024年8月8日)
出典:Photo by Habibul Haque/Drik/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)