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.国際  投稿日:2024/8/27

シンガポール、ついに昆虫食を解禁


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・FAOとオランダの大学の調査によると、全世界でヒトは1,990種を超える昆虫類を食べている。

・昆虫食について厳しく規制していたシンガポールが、7月末に輸入解禁に踏み切った。

・栄養面でも食用昆虫類の可能性は低くはないようだ。

 

タイのバンコクで、人気どころの一つは屋台街。屋台では好きな食べ物を選んで食べられる手軽さがあり、様々な昆虫食も売られている。タイではレストランでも昆虫食を出すところもあり、いわば当たり前の食べ物といったところ。

国連食糧農業機関(FAO)とオランダのヴァーヘニンゲン大の共同調査によると、全世界でヒトは1,990種を超える昆虫類を食べているという。昆虫食はタンパク質、良質の脂肪、カルシウム、鉄分、亜鉛が豊富だ。

その昆虫食について、従来厳しい規制をしていたシンガポールが、この7月末についにヒトの食用や食用に飼育される動物向けに輸入解禁に踏み切った。昆虫食などへの投資のほか、都会型農業振興も図るなどと方針大転換の様相を呈している。

■ 代替たんぱく源として注目

食料の約90%を輸入しているシンガポールは、食料自給率を2030年までに30%(栄養ベース)に引き上げる「30×30」目標を掲げている。昆虫食の解禁はその一環ともいえる。

日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポールによると、シンガポール食品庁(SFA)は2022年12月に食用としての昆虫や動物飼料としての昆虫の輸入・販売を認める制度案に関する食品、畜産飼料関係者からの意見公募を締め切った。そして、「2023年中に解禁」と見られていたが発表が遅れていた。シンガポールが昆虫16種類の輸入解禁を発表したのはこの7月8日となった。

食用や動物飼料として輸入する際、SFAへの業者登録、輸入する昆虫の海外加工施設の登録も必要となる。

日本貿易振興会(ジェトロ)シンガポール事務所によると、地場企業のアルテメイト・ニュートリションがコオロギ由来のプロティンバー販売を計画している。信州大学発のスタートアップで、カイコ(蚕)由来の代替タンパク質食品生産を目指しているMorus(東京都品川区、代表取締役CEO 佐藤亮)はシンガポール法人を4月に設立している。

■ 食用昆虫類の可能性

FAOが2013年5月に発表した食品及び飼料における昆虫類の役割に注目した報告書「食用昆虫類:未来の食料と飼料への展望」の共同執筆者であるFAOの森林経済政策部門トップは「昆虫類は森林がもたらす資源のひとつだが、飼料としての可能性は、まだ、開発されていない部分が多い」とし、現在消費量の多い昆虫は、甲虫類(31%)、ケムシ(18%)、ミツバチなどのハチやアリ(14%)、イナゴ(13%)などとしている(内閣府の食品安全委員会の食品安全総合情報)。

同情報によると、鉄分含有量は、牛肉では乾燥重量100g当たり6㎎だが、日本でも食べられているイナゴ類では同100㎎当たり8~20㎎としており、栄養面でも食用昆虫類の可能性は低くはないようだ。

■ タイの昆虫輸出業者、シンガポール市場に注目

タイの英字紙ネーション2024年8月25日付けによると、商務省貿易振興局はタイの昆虫輸出業者に、シンガポール政府の昆虫類16種の輸入認可について説明を行っている。同紙は、現在の昆虫類市場規模は4億ドルだが、2027年に20億6000万ドルになるとのFAO予測を紹介し、シンガポールの食品製造業者やレストランが昆虫類食品の普及に取り組んでいると報じている。ネーション紙は、タイは年間7,000トンの商用昆虫類を生育できるとし、2万以上の昆虫類飼育場があるとしている。

トップ写真:タイのチェンライ市の市場で売られているコオロギやシルクワーム (2023年4月21日)出典:Photo by atosan/ Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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