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.国際  投稿日:2024/7/30

日米「2 + 2」会合の「進化」、隔世の感


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#31

2024年7月29-8月4日

【まとめ】

・先週末に日米「2 + 2」会合が東京で開かれた。

・在日米軍司令部は在日統合軍司令部になる。

・今回の2 + 2会合の3つ目の目玉は「防衛産業と先端技術面での協力」である。

 

 今年も8月がやって来た。日本のこの「暑い夏」、どうにかならんのかなぁ?昔は8月になったら暑くなるぞ、なんて思っていたが、今は下手すると6月末から真夏みたいな酷暑が始まる。やはり、気象変動というのは本当なのかもしれない。それに比べれば先週の国際政治は意外に静かだったような気がする。

 米大統領選の「万華鏡」も先週は一休み、ハリス候補は伴走者(running mate副大統領候補のこと)を来週7日までに決めるはずだ。下馬評ではアリゾナ州のケリー上院議員、ペンシルベニア州のシャピロ知事、ミネソタ州のワルツ知事の3人に絞られたと報じられたが、どれも一長一短。でも、先週はもっと重要なことがあった。

 先週末に日米「2 + 2」会合が東京で開かれたからだ。ブリンケン、オースティン両長官が揃って出席し、筆者にしてみれば、驚くべき、隔世の感のある、共同文書が発表された。そのことを日本のメディアは概ね次の通り報じている。例えば、日経新聞の電子版の書き出しはこんな感じだ。

 「日米両政府は28日、都内で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開いた。在日米軍を再構成して部隊運用を担う新司令部を設け、自衛隊と指揮統制を連携させると確認した。「拡大抑止」の閣僚会合も初めて開催し、米国が核を含む戦力で日本を守る体制強化を進めると合意した。」

 これが朝日新聞の電子版になると、「軍事の「日米一体化」、指揮権の独立性懸念「核の傘」依存も深まる」との見出しで、「28日の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)では、米側が新たな司令部設置を表明。指揮統制連携強化で「日米一体化」はさらに加速することになる。一方、拡大抑止をめぐる初の閣僚級会合も開催。日本の米国の核兵器への依存はかつてないレベルで深まっている。」となる。

 微妙だが両者は明らかに違う。それはともかく、共同文書で最も重要なのは「米国は、平時及び緊急事態における相互運用性及び日米韓の共同活動に係る協力の深化を促進するため、在日米軍をインド太平洋軍司令官隷下の統合軍司令部として再構成する意図を有する。」の部分だ。分かり難い文章だが、ここは英語版を読もう。

 英語版ではこう書かれている。

To facilitate deeper interoperability and cooperation on joint bilateral operations in peacetime and during contingencies, the United States intends to reconstitute U.S. Forces Japan (USFJ) as a joint force headquarters (JFHQ) reporting to the Commander of U.S. Indo-Pacific Command (USINDOPACOM).

 要するに、在日米軍司令部は在日統合軍司令部になるということだ。筆者の現時点での理解に基づき、誤解を恐れず、これを高校野球に例えれば、在日米軍司令官が統合軍司令官になるということは、「野球部の練習用合宿所の管理人」だったおっさんが「甲子園で戦うチームの監督」になる、ぐらい「大きな変化」なのである。

 しかも、その新たな司令官は日米の共同活動joint bilateral operation (日米二国間の共同オペレーション)において米軍側の指揮を執るということだ。勿論、自衛隊がこの米側司令官の指揮下に入ることはない。詳細は今後日米間で詰められることになると思うが、いずれにせよ、日本側の「指揮権の独立性」に懸念は生じないだろう。

 しかし、筆者が気になったのはここではない。共同文書を丹念に読めば、統合司令部と拡大抑止に加えて、今回の2 + 2会合の3つ目の目玉は「防衛産業と先端技術面での協力」である。ウクライナ戦争の教訓は「備蓄した武器弾薬は一瞬にして消費される」という現実を踏まえた極めて重要な決定であるのだが・・・。

 それ以上に、筆者が「隔世の感がある」と書いた理由は日米「2 + 2」会合の「進化」である。要するに、2 + 2会合を始めた頃は、2 + 2と言いながら、米側の某長官は多忙なので副長官で良いか?とか、毎年の開催は難しいとか、米側から色々言われたものだ。当時はフルの「2 + 2」会合を日本で開催するなんて、夢のまた夢の時代だったのである。

 例えば、筆者が担当課長だった2000年9月にはニューヨークで2+2会合が開かれたが、その際の共同発表は、今から振り返れば、大半が日米安保の精神論と在日米軍問題に費やされ、今回のような具体的中身のある言及は殆どなかった。昨年1月の共同発表ですら、今回のような「ビーフ」はない。時代は大きく変わったのである。

 このことを今週のJapanTimesに書こうと今構想を練っている。今の若い人は読んでくれないだろうが、「2+2」にも長い経緯があったこと、今回日本で「2+2」だけでなく、日米間防衛大臣会合やQUAD(日米豪印)外相会合も開かれたことが戦略的に如何に重要な意味を持つか、を是非とも知ってもらいたいからである。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。

7月30日 火曜日 イラン新大統領就任

米フィリピン、2+2会合開催

 豪州外相が韓国訪問

7月31日 水曜日 イタリア首相、4日間の訪中終了

 ミャンマーの非常事態宣言(2021年2月)が失効

8月1日 木曜日 OPECプラスの閣僚モニタリング会合開催

8月2日 金曜日 ブルガリアでの気候変動パネル会合が終了

8月3日 米国務長官、アジア歴訪(ベトナム、ラオス、日本、フィリピン、シンガポール

、モンゴル)を終了

 コロンビア政府と反政府勢力との間の6か月間の停戦期間が終了

 最後にいつものガザ・中東情勢だが、先週はネタニヤフ首相が訪米した。バイデン、ハリス、トランプ氏とそれぞれ会談し、議会演説も行ったが、その雰囲気は一昔前とは大違いだったようだ。それでも、ネタニヤフ首相のバイデン、トランプ両氏との会談は、これまで様々な経緯はあったものの、概ね良好だったと報じられている。

 問題はハリス候補との会談だったらしい。同じ民主党でも、バイデンとハリスではイスラエルへの対応が微妙に異なったのだろうか。それとも、バイデンが「良い警官」をやり、ハリスに「悪い警官」を意図的にやらせたのだろうか。

 11月にハリス候補が勝ったら、イスラエルとの関係では再度悶着があるかもしれない。いずれにせよ、ネタニヤフは今もハマース壊滅という最終目標を諦めておらず、恐らく11月まで現在の方針を変えないのではないか。

 そんな中、イスラエルの戦闘区域が更に拡大する恐れが出てきた。ハマース、西岸パレスチナ人、イエメンのフーシー派に加え、ゴラン高原でもヒズブッラによる攻撃があり、イスラエル側に死傷者が出たからだ。当然イスラエルは何らかの報復攻撃をするだろうが、一体どこまでやるのかね。戦線拡大を望んでいるのはハマースで、実はイスラエルもヒズブッラも望んでいないとの見方もあるのだが・・・・。

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)2024年7月28日 東京・外務省

出典:外務省




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