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.国際  投稿日:2024/9/11

米大統領選TV討論、ハリス勝利 11月の投票結果にどう影響?


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・米大統領選TV討論で、ハリス副大統領が予想以上に健闘、6割を超える人が「勝利」とCNN。

・TV討論では過去に大きなドラマがあったが、今回大きなハプニングはなかった。

・今回の結果が大統領選に効果を与える可能性がとりざたされているが、トランプ人気は揺るがないとの見方も。

 

■「ハリス、トランプを防戦に追い込む」

米CNNテレビの緊急世論調査によると、63%の人が「ハリス勝利」と評価、トランプ氏に軍配をあげたのは37%にとどまった。 

6月27日のバイデン大統領VSトランプ氏の討論会では、それぞれ33%、67%だったから、今回は逆転した。

ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は、「ハリス、トランプを防戦に追い込む」、ニューズウィーク誌(同)も、「ハリス、トランプを打ち負かす」と伝えた。

6月のバイデンVSトランプでは、冒頭の5分間で、バイデン劣勢を感じさせたが、10日(日本時間11日)は、滑り出し10分間で、ハリス氏の周到な準備、議論上手が鮮明になった。副大統領は終始、議論をリード、途中で息切れするかもしれないという懸念は杞憂に終わった。

今回のTV討論では、経済政策、人工妊娠中絶、国境管理・移民政策ハ、ウクライナ、中東政策など多岐なテーマに及んだ。

両候補とも抑制した議論を展開、相手に対する罵詈雑言など見苦しい場面が大きく目立たなかったのが救いだった。

ホワイトハウス復帰をめざす大統領は、いつもの派手なジェスチャーや、相手の話を遮って、非難するなど攻撃的な姿勢を控えた。

しかし、ハリス氏が「多くのウソ」と指摘したように事実と相違したり、根拠のない発言を繰りかえし、質問への答えを避ける場面も少なくなかった。

びっくりさせたのは、オハイオ州などでは移民が、イヌやネコなどペットを食べているという発言。ディベートを主催したABCの司会者を「事実ではない」と呆れさせた。

前回の大統領選結果を確定する手続きが行われた2021年1月6日、議会襲撃を扇動したといわれることについて「後悔していることはあるか」と聞かれ、「私は演説しただけだ」と述べて強気でかわした。

一方、7月に急遽、出馬が決まって以来、一度も記者会見を開いていないハリス副大統領は、冒頭から落ち着いた受け答えで、議会襲撃事件をめぐっても、必要以上にトランプ氏を追い詰めることなく、「新たなページをめくろう」など団結の復活を呼びかけるにとどめた。

しかし、トランプ政権の失業率は大恐慌以来最悪、トランプ大統領は連邦中絶法が成立した場合は署名するだろうなど、根拠薄弱の発言も少なくなかった。

余裕をみせようとしてか、時折笑みを浮かべたりする場面があったが、見る人、場面によっては、相手を見下した態度に見えることもあり、有権者にどう映ったか。

■ 過去には致命的なミス犯した候補も

この日のTV討論を全米の有権者がどう評価するかが勝敗を大きく左右する。政策論議もさることながら、立ち居振る舞いや態度挙措などが有権者の判断材料になることも少なくない。

過去の選挙戦を見ても、それが現実になったケースがある。

以前にも当サイトで触れたことがあるが、新人同士の一騎打ちとなった2000年の選挙。民主党のゴア副大統領は、共和党のブッシュ・テキサス州知事との討論で、相手が発言するたびに大げさにため息をついてみせたり、薄笑いをうかべて見下すような態度をとって有権者の嫌気を誘った。

この選挙はまれにみる大激戦、集計結果の定をめぐって法廷闘争に持ち込まれ、ブッシュ氏勝利で決着がついたのは年末になってからだった。

そのブッシュ氏の父親、先代ブッシュ大統領(共和党)が初当選した1988年の選挙。対立候補、民主党のデュカキス・マサチューセッツ州知事は、新人らしくない落ち着き払った態度で、死刑反対などを主張、表情の乏しさなどから、人間味に欠けるという烙印を押されてしまった。

先代ブッシュ大統領自身、再選をめざした1992年の選挙のディベートの際、途中でちらりと腕時計に間を走らせたところをカメラがにとらえた。

湾岸戦争の勝利で一時は8割を超える支持率を誇ったブッシュ氏も、「長丁場の緊張に耐えられない男」と評価を下げ、無名に近かったクリントン・アーカンソー州知事に一敗地にまみれた。

■ 討論勝敗は選挙結果に直結せず

今回はとりあえず、ハリス副大統領が勝利したが、その結果がそのまま11月の投票に反映されるとみるのは早計だろう。

ハリス氏の出馬が急遽決まって以来、その人気は当初の予想を超えて上昇したが、トランプ氏を大きくリードするには至っていない。

勝敗のカギを握るといわれるペンシルなど7州の討論直前に行われた調査を見ると、両候補が拮抗、それぞれ1-2%程度の差にとどまっている。

こうしたトランプ人気の根強さ、今回のTV討論の主催者ABCテレビの司会者が、トランプ氏にきびしい質問を浴びせたことなどを考慮すれば、「討論では勝利しなかったが、選挙では勝つ」とみるトランプ支持者は少なくない(CNNテレビ)。

10月1日には共和党の副大統領候補、バンス上院議員と民主党のウォルズ・ミネソタ州知事による討論が予定され、その後、選挙戦はいよいよ大詰めを迎える。

激戦だけに、直前に起きた問題、事件が選挙結果につながる「オクトーバー・サプライズ」など、ほんの少しの要素が、勝因にも致命傷にもなりうる。

全米の有権者だけでなく全世界の人々は固唾をのんで行方も見守る日が続く。

トップ写真:TV討論に臨むトランプ氏とハリス氏(2024年9月10日アメリカ・ペンシルベニア)出典:Win McNamee/Getty Images




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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