HPVワクチン無料キャッチアップ接種、今年度末終了 1回目は9月末までに
Japan In-depth編集部(菅谷瑞希、秋山彩葉)
【まとめ】
・HPVワクチンの「無料キャッチアップ接種」が2025年度末で終了するため、対象者は今すぐ行動に移す必要がある。
・接種率低迷の要因として、対象者の「情報格差」が挙げられる。
・自身の健康を守るために、早期の接種が急務である。
HPVワクチンキャッチアップ接種とは
HPVワクチンの「無料キャッチアップ接種」の期限が今年度末に迫っている。
キャッチアップ接種とは、HPVワクチンの接種を個別に勧める取り組みが差し控えられていた間に、ワクチンの定期接種の機会を逃した者に対して、公平な接種機会を確保する目的で設けられたワクチン接種の機会のことである。
詳細な経緯は後ほど紹介するが、政府は接種後に報告された多様な症状等について十分に情報提供できない状況にあったことから、一時的に個別に接種を勧めることを差し控えていた。
しかし、令和3年11月の専門家会議にて、安全性について特段の懸念が認められず、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められたことから、本取組が再開したのである。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000918718.pdf
この制度の対象者は、厚労省によると以下の通りだ。
・平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女性(※1)
・過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない(※2)
※1 令和6年4月からは、平成19年度生まれ(誕生日が2007年4月2日〜2008年4月1日)の方もキャッチアップ接種の対象になります。
※2 過去に接種したワクチンの情報(ワクチンの種類や接種時期)については、母子健康手帳や予防接種済証等でご確認ください。
▲写真 接種するワクチンの種類とスケジュール。接種間隔が最も長いサーバリックスは、2回目と3回目に5カ月の間隔をあけることが望ましいとされている。出典:厚生労働省
接種の対象に該当する人は、令和4(2022)年4月~令和7(2025)年3月の3年間、HPVワクチンを公費で接種できる。同制度が確立されるに至った経緯を振り返る。
■ これまでのHPVワクチン接種の経緯
2013年に同ワクチンの公費負担で、小学校6年生~高校1年生(12歳~16歳)の女子を対象に無料接種が開始されたが、同ワクチンによる副反応に関する報道が始まると、同年6月には厚生労働省が同ワクチン接種の積極勧奨を中止した。その結果、約70%の接種率は1%未満にまで落ち込み、それが8年半続いた。https://jsgo.or.jp/public/hpv_vaccine.html
そうしたなか、2021年11月の厚労省の審議会でHPVワクチンの安全性が確認され、子宮頸がんの減少効果も証明されたことを機に、厚労省は積極勧奨を再開した。同時に、8年半の間にワクチンを受けることができなかった17歳〜26歳の女性に対し、キャッチアップ接種を公費負担で行うことを決めた。
しかし、令和4年度のキャッチアップ接種の初回接種実施率は全国で6.1%に留まり、最高でも島根県の10.8%、最低は沖縄県の2.1%である(大阪医師会)。
HPVワクチンは半年の間に3回に分けて接種する。同制度が来年3月に終了するため、第一回目の接種は半年前の今年9月末までに済ませる必要がある。正しい情報を得て自身が接種するか考えるためにも、キャッチアップ接種の効果や意義を把握することが急務だ。
・子宮頸がんとは
日本では毎年約1.1万人の女性が子宮頸がんを発症し、約2900人の命が奪われている。がんの中でも若年層で発症する割合が高いのが特徴で、日本の25歳から40歳の女性のがんによる死亡の第2位は子宮頸がんによるものだ。また、30代までに子宮頸がんの治療で子宮を失い、妊娠できなくなる女性も年間約1000人存在する。
この原因は、主にHPV(ヒトパピローウイルス)への感染だ。性交渉の経験がある女性の内、5〜8割がHPVに感染していると推計されている。ウイルスの約90%が2年以内に自然治癒するが、感染したままにすると一部の人でがんを発症することがある。
これに対し、HPVワクチンによるHPV感染の予防効果は極めて高く、性交経験前に接種した場合はほぼ100%感染を予防することが出来る。性交経験がある場合でも、ワクチンの予防効果は減少するがなくなる訳ではない。つまり、子宮頸がんはHPVワクチン接種を通じ高い確率で防ぐことが出来る病気なのだ。
そこで今回は、「藤沢女性のクリニックもんま」で院長を務める門間美佳医師に、キャッチアップ接種の現状について話を聞いた。
門間医師はHPVワクチンの接種状況に関して「教育レベルに左右されている」と警鐘を鳴らす。
現状として、大学に進学する学生に比べて、定時制高校や通信制高校に通学している学生らの接種率は相対的に低いという。中には県立高校の養護教諭でさえHPVワクチンのキャッチアップ接種について知らなかったというケースもあるのだという。門間医師がそうした学校にアプローチしたところ、教員から「キャッチアップ接種を学校が進めていると保護者に思われると困るからその話はしないように」と言われたことを明かした。
こうした現状に門間医師は「8年前から情報が何も変わっていない」とし、「情報格差や健康リテラシーの差がワクチン接種に大きな影響を及ぼしている」と憤る。情報に疎いがためにHPVに罹患するリスクが高まるという現状を変えたいという門間医師の強い思いがそこにある。
来年3月31日に終了してしまうHPVワクチンの無料キャッチアップ接種だが、副反応に関する報道により、厚生労働省が同ワクチン接種の積極勧奨を中止した8年半前の情報からアップデートされず、未だにその接種率は低迷している。
この現状を打開するためには、HPVワクチンを打った人が、日常会話の中で話題に上げることが大切だと門間医師は強調した。
クリニックで夏休みにワクチンを打ち始めた人が多かったことから、夏休み明けに学生の間で、「『ワクチン打った?』とか、『痛かったよね』とか、そういうことが話題に上がれば、知らないうちにみんなワクチン打っていたんだ、という認識が広がることを期待したい」と門間医師は話す。ワクチンを打った人が一人でも多く意思表示すれば、人々が漠然と抱えるHPVワクチンへの不安感や恐怖心を和らげることができるのでは、との思いからだ。
門間医師は、インスタグラムを通して、若い世代に向けてHPVワクチンに関する情報を発信したり、寄せられた質問に回答して若い人たちの疑問を解消しようとの努力もしている。ワクチン接種後に30分間安静にしている時間に「このインスタグラムを見て勉強してね」と声をかけ、若者の健康リテラシーの向上に努めているという。
さて、読者の皆さんは今注目を集めているフジテレビの月9ドラマ「海のはじまり」をご存じだろうか。筆者は門間医師から紹介されて知った。
目黒蓮演じる夏の元恋人である水季は、頸がんでその一生を終えてしまう。その水季の葬式で、夏は海という名の少女と出会い、その子が水季の子どもだということを知る。そして彼女の母親から、自分が海の父親だということを聞かされ、水季が自分の知らないところで、自分との間にできた子供を産み、何も言わず子育てをしていた事実に思いをはせる…というストーリーである。
実はこのドラマの脚本家である生方美久さんは、本作品で最も視聴者に伝えたいことの1つに、他ならぬ「がん検診を受けてほしい」ということを挙げている。若者に絶大な人気を誇る俳優を起用し、テレビという身近なコンテンツを通して、若い世代に子宮頸がんの怖さを伝えるとともに、すべての人が検診を受診でき、また受診しやすい環境が整ってほしい、という思いが込められている。
女の子たちがトイレで繰り広げる女子トークを描写したシーンにおいては「がん検診は絶対受けた方がいいよ」というセリフも登場し、脚本家の強い思いが伝わってくる。このドラマの制作陣の思いが一人でも多くの人に伝わるといいと思った。
最後にもう一度繰り返す。HPVワクチンのキャッチアップ接種対象者が無料で接種を受けるには、第一回目の接種をこの9月末までに済ませる必要がある。だからこそ、自身の健康リテラシーを今一度見つめなおすとともに、よく考えて自身で判断して行動にうつしてほしいと心から願っている。
(了)
トップ写真:ワクチンを打つ学生(イメージ※本文とは関係ありません)出典:Peter Dazeley/ Getty Images