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.国際  投稿日:2024/9/22

アメリカは中国との絆を切る


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米国議会下院中国特別委員会が、中国共産党の活動に対し厳しい監視と規制を行っている。

・米中の大学間の共同研究が、中国軍との関係を理由に中止されるなど、学術分野にも影響が。

・米国の中国に対する強硬姿勢は、日本にも重要な教訓となり得る。

 

アメリカでは大統領選にあまりに多くの光が集中し、他の重要課題がみすごされがちである。首都ワシントンの国政の場で、とくにそんな感じを受ける。ところがその国政に一歩、二歩、踏み込んで考察すると、どうしてどうして、たとえば中国にどう対処するか、という課題はアメリカ連邦議会を中心に大きな波紋を広げている。アメリカにとって大統領選挙はこの11月に終わっても、中国問題はなお切迫した問題として迫り続ける、という展望なのである。そしてそのアメリカの中国に対する姿勢はきわめて厳しさを増しているのだ。この点、いま中国との深刻な摩擦案件を抱えた日本にとっても教訓となりうる実態だといえよう。

アメリカ側でいま中国を脅威とみて、懸念の対象とし、強固な対応をとっている中核は連邦議会下院の中国特別委員会である。この委員会は正式の名称を「中国共産党とアメリカの戦略的競争に関する下院特別委員会」とされている。昨年冒頭に共和党主導で結成されたが、いまは民主党議員も半数を占め、超党派で中国の対外活動を監視し、抑止策を打ち出す。

この特別委員会が9月19日に公聴会を開いた。主題は「中国共産党の批判者抑圧のための法律利用」とされていた。この3時間ほどの公聴会を傍聴した。内容は中国共産党政権が同政権に対する批判や非難を述べる人物に対して、さまざまな法律を使って訴訟を起こし、その圧力によって、批判の言論を沈黙させてしまう、という最近の実例の紹介だった。そんな抑圧の対象になったアメリカ人の学者ら3人が証人として発言した。そして20人ほどの委員会メンバー、共和、民主両党の議員たちが意見を述べ、質問をするという展開だった。

この公聴会で改めて実感したのは中国政府の政策に対するアメリカ議会の超党派議員の辛辣をきわめる非難だった。共和、民主の党派の区別なく、男女の議員たちが中国政府の国内での人権弾圧、少数民族への抑圧、南シナ海や東シナ海での不当な領海領土の膨張、紛争の相手国への経済恫喝、軍事威嚇などを容赦のない糾弾の言辞でつぎつぎに標的とするのだ。この公聴会の光景だけで、いまのアメリカ議会全体の中国への態度の険しさがよくわかると実感した。

さてこの中国特別委員会の活動としては、日本にも参考となる興味を惹く実例が最近あった。この委員会が主導して、アメリカと中国のいずれも著名な工科大学の提携プログラムを終了させてしまったのだ。米中の年来の多様な絆がどんどん断たれていく実例として注目される。日本でも中国の大学と多様な提携をしている大学や研究機関が多いからである。

この下院中国特別委員会は9月上旬、「ジョージア工科大学(GIT)が中国の天津大学との年来の研究・学習の共同プログラムを打ち切った」と発表した。見方によっては大きな驚きのニュースだった。この両大学はいずれも知名度の高い名門だったからだ。

GITといえばアメリカ全体でも有数の州立の理工系大学で国際的な評価も高い。天津大学も古い国立大学で、理工の研究で有名である。両大学はオバマ政権時代の2016年に共同研究作業を始めていたが、そのプログラムをいま止めるというのだ。

この決定自体はもちろんジョージア工科大学が当事者として決めた措置ではあった。だがその前提は下院の中国特別委員会による主導だった。同委員会は米中両国間の官民の多様なつながり、提携などをアメリカの国家安全保障に有害か否か、という観点から広範に点検してきた。学術機関や大学についてもその点検の視線を厳しく向けてきた。とくに米側の機関の提携相手が中国の人民解放軍とつながりがあるか否かを調査してきた。今年春からの同委員会の優先調査事項だった。

その委員会の調査で天津大学は中国の人民解放軍と年来、軍事技術の研究や開発に関して密接な絆があると判定されたのだった。GITと天津大学は半導体の新型の開発などを共同で進めていたという。この中国軍との結びつきは結局は米側の安全保障面での国益を侵害しうるとの判断からの提携の中止の勧告になったわけだ。

米中間のこの種の提携や協力の中止は実はバイデン政権下では珍しくない。その中止の実務には下院のこの委員会が先頭に立つことが多い。アメリカ側の中国に対する警戒はここまできているのだ。米側のこの種の課題の議論では中国をアメリカにとっての「敵性国家」と呼ぶことも普通となってきた。

最近の中国の官民の日本に対する動向をみると、日本側もついに同様の対中認識が必要になったのかもしれない。

トップ写真:米国サイバー軍司令官ポール・ナカソネ陸軍大将、国土安全保障省サイバーセキュリティおよびインフラセキュリティ局ジェン・イースタリー局長、FBI クリストファー・レイ長官、国家サイバー局長室ハリー・コーカー・ジュニア局長が、国会議事堂で、下院 中国特別委員会で証言する(2024年1月31 日 ワシントンDC)出典:Kevin Dietsch/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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