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.国際  投稿日:2024/10/1

石破茂新総理の安全保障論 米困惑


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#39

2024年9月30-10月6日

【まとめ】

・10月1日、岸田内閣が辞職し石破内閣が誕生した。

・新内閣成立は安倍元首相殺害事件がもたらした一連の流れの結果だ。

・今回の総裁選は、「既得権益への逆風」の始まりとなりうる。

 

本10月1日、岸田内閣が総辞職し、石破茂内閣が発足した。内閣官房参与としての最後の仕事は、総理官邸玄関で岸田首相をお見送りすること、と決めていた。会場入りしたら、もう多くの官邸関係者・職員が並んでおり、何と立ち位置は最前列。結果的には目の前で「花束贈呈」を見ることができ、忘れられない経験となった。

それはさておき、日本では新内閣が発足、来週には衆議院解散、10月27日が投票日となるそうだ。「権力」は見えないが、感じることはできる。最近では第二次安倍政権、菅政権、岸田政権の首相交代劇を直接見てきたが、人間とは「権力獲得」とともに「大化け」し、「権力消失」とともに「普通の人」に戻る、不思議な生き物である。

筆者の専門は外交なので、自民党総裁選について詳しく論ずる立場にはない。それでも外国から「どう見えるか」にだけは大いに関心がある。石破総裁誕生直後の先週末に、早速米国の旧友からメールで「石破勝利で安倍時代は終わったのかね?」と聞かれた。おうおう、よくフォローしているな、とまずは感心した。

だが、そんな単純な話ではないぞ。石破内閣の誕生は2022年7月の安倍晋三首相暗殺事件がもたらした一連の流れの究極的結果であることは間違いない。だが、これで「安倍時代」が終わったと言うのは如何なものか。こうした筆者の見立てを今週の産経新聞WroldWatchに書いた。お時間があればご一読願いたい。

高市候補が石破候補より多くの党員票を獲得したことには大きな意味がある。現職指導層への逆風は欧米社会共通の現象であって、日本も例外ではない。IT革命が西側社会を変え、労働集約型製造業の衰退で「忘れ去られた人々」の鬱積した不満が米国のトランプ現象や欧州の「極右」運動を生んだことは間違いない。

では「失われた30年」を経験した日本はどうなのか。今回の総裁選は、今後数年間続くかもしれない「既得権益への逆風」の始まりに過ぎないのではないか・・・。これが筆者の問題意識である。詳しくは産経新聞を読んでほしいが、どうやら総裁選後の自民党内は、とても「ノーサイド」とはなりそうもない。

もう一つ気になることがある。昨日、米国の別の旧友からメールが届いた。総裁選中に石破候補が米保守系シンクタンクに小論を寄稿し、日米安全保障条約と地位協定の改定やアジア版NATO構想を提唱したが、これを「一体どう理解したら良いのか、率直な意見を聞かせて欲しい」と言う。これは「よくよくのこと」だと筆者は思う。

案の定、昨日から同寄稿の冒頭には、この文章は「Mr. Ishiba’s personal opinion as a member of Diet and does not necessarily reflect his view as the next prime minister.”」「石破氏の議員としての個人的意見であり、必ずしも次期首相としての見解を反映していない」との注釈が追加された。これって、実に興味深いではないか。

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

10月1日 火曜日 米印外相会談(ワシントン)

 石破茂内閣誕生

 メキシコ新大統領就任

 前オランダ首相、NATO事務総長に就任

 ジャンムカシミールで議会選挙(第三期)

 

10月2日 水曜日 欧州委員会委員長、ジョージア大統領と英首相と個別に会談

 欧州安全保障協力機構(OSCE)、ダブリンでOSCE議員会議開催

 

10月3日 木曜日 G7内務大臣会合(イタリア)

 

10月6日 日曜日 チュニジア大統領選挙

カザフスタン、原子力発電所建設の是非に関する国民投票

 ボスニアヘルツェゴビナで地方選挙

ブラジルで地方選挙

 

最後はいつものガザ・中東情勢だが、南レバノンのヒズブッラに対するイスラエルの軍事攻勢は遂に地上戦の段階に入りつつある。筆者の見立ては次の通りだ。

  • いつも書くことだが、ネタニヤフ首相は少なくとも11月5日まで政策変更する気などさらさらなく、南レバノンでの作戦は今後も長く続くだろう。
  • 一方、ヒズブッラの本音はイスラエルとの全面戦争回避だろうが、恐らくイスラエル側はそれを許さないような形で、ヒズブッラを挑発し、戦闘を続けるだろう。
  • 米国主導による「停戦案」は風前の灯火だろうが、バイデン・ハリス政権としても大統領選まで努力を続けている「ふり」をせざるを得ない。

何とも代わり映えのしない話になったので、今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

 




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