無料会員募集中
.政治  投稿日:2024/9/28

なにを今さらキングメーカー(下)本当に「政治の季節」なのか その2


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・自民党総裁選では、小泉、高市、石破の3候補が競っている。

・高市候補が存在感を増し、小泉候補は支持を失いつつある。

・女性宰相の可能性もあるが、自民党内の派閥問題や支持基盤が影響し、真の改革派が不足している。

 

前回も少し触れたが、自民党総裁選においては、小泉、高市、石破の3候補(それぞれの肩書きについては〈上〉を参照)が優勢だと報じられていたが、20日あたりから、国会議員票でトップを走っていた小泉候補の勢いに陰りが見えはじめ、高市候補が存在感を増してきているという。

「火事は最初の5分間、選挙は最後の5分間」

という言葉もあって、まだまだ予想がつきかねるのだが、前述の3候補のうち、誰も過半数を制することはなく、上位2人による決選投票にもつれこむだろう、と見る向きが多い。

総裁選はよく知られるように、国会議員票と一般党員票で決まるが、石破候補について見ると、国会議員票では前期2候補の後塵を拝しているが、一般党員からは安定した支持を得ていると聞く。

前述2候補との比較ということなのか、一般党員(自民党支持層)からは「無難」「常識的」という声が聞こえてくる、と各メディアが報じているが、これを信じる限り、悪く言えば消去法で支持を集めている、ということではないだろうか。

実際問題として、一般有権者(当然ながら自民党支持層も含まれる)を対象に、

「次の自民党総裁にふさわしくない、と思う人は?」

というアンケート調査では、小泉候補が3位、高市候補が2位となっている。くどいようだが、次期総裁に「ふさわしくない」と考えられた順位である。

ちなみに1位は河野太郎デジタル大臣で、世に言うマイナ保険証問題の責任者として、かなり根深い怒りを世間から買ってしまったようだ。

以下、3位の小泉候補から先に見ると、やはり「世間知らずの世襲政治家」だという批判を払拭できていない。一方、当選すれば初の女性宰相の座が確実視される高市候補だが、そうなれば「靖国神社を公式参拝する」という公約が、あまりにも右翼的すぎる、と見られたらしい。

私も個人的には、高市早苗という政治家が自民党総裁選を制し、初の女性宰相の座に就くというのは、いかがなものか、と考えている。

未だ選挙期間中であるから、候補者個人の資質について批判的に取り沙汰するのは差し控えたいが、私が前々から問題視しているのは、彼女が総理総裁になるべきだと強く訴える人たちの思惑である。

結論から言うなら、安倍派の復権に他ならない。

彼女自身が、かねてから安倍元首相の「正統な後継者」だと標榜しており、保守系の論客と呼ばれる人たちやメディアもその点を高く評価している。

今年初めに、政治資金パーティーにからんだ裏金問題で、安倍派をはじめ自民党の派閥は相次いで解消する羽目になったが、人脈は今も残り、隠然たる勢力を保っていることは、もはや周知の事実と言ってよい。

高市候補自身は、かつて町村派に属していたが、現在は無派閥である。とは言え、そもそも町村派とは、1979年に、元首相に福田赳夫を中心に旗揚げされた「清和会」が源流で、安倍元首相も親子二代(安倍晋太郎・晋三)で会長を務めた。

2022年7月、安倍晋三元首相は凶弾に斃れたわけだが、その後、議員総会で「安倍派」の名称を継続して使用することが確認されたのだが、前述のように今年1月、解散の沙汰となった。

その安倍派に属していた議員たちが、高市候補を強く推していることは、推薦人の一覧を見れば一目瞭然である。上川候補の推薦人の中に、元SPEEDの今井絵理子・参議院議員の名前があったことから、ネットの一部では非難がましい声も上がっていたが、高市候補の推薦人の中には「差別発言の女王」みたいな人の名前がある。

若い有権者の中に、高市候補について総理総裁に「ふさわしくない」と考える人が意外に多いということだが、それは彼女の政治姿勢より、こうしたバックグラウンドのせいではないかと、私は考える。

仮に、保守派と言うよりは旧安倍派の思惑通り、高市候補が総理総裁となった場合、裏金問題や、旧統一教会とズブズブの関係にあったことなどは、なし崩し的に不問に付されてしまうのではないだろうか。

もうひとつ、高市候補を推す声の中で私が個人的に聞き捨てならないと感じたのは、現在は政界を引退している亀井静香氏が、次期総裁は高市さんか上川さんがよいとして、

「女性が総理総裁になれば、自民党の支持率はたちまち回復する」

などと述べたことだ。

この人は3年前の総裁選に際しても高市候補を推していたので、単なる思いつきの発言とも考えにくいが、要するに「選挙の顔」にうってつけだ、と言いたいだけではないか。

亀井氏自身、かつては自民党内で派閥の領袖だったかだが、まさか今でもキングメーカーに憧れているわけでもあるまい。

本連載で以前に取り上げたことがあるが、英国では、16歳で妊娠し高校を中退した女の子が、18年後、労働党政権の誕生にともなって副首相の座にまで上り詰めた。

米国では、11月の大統領選挙に向けて、黒人・アジア系、そして女性として初めてその座を目指すハリス副大統領が、共和党の候補者であるトランプ元大統領の前に立ちはだからんとする勢いだ。

あまり好もしい表現ではないのでカッコ付きで述べさせていただくが、こうした「底辺」や「マイノリティ」にトップへの道を開こうとしている米英の政治に比べると、なにが今さら初の女性宰相なのかと言いたくなるのは、私だけであろうか。

ここまで読まれた方には、すでにご理解いただけていることと思うが、私は女性が総理総裁になることに反対しているわけではない。

ただ、自民党政治が今のまま存続してゆくのでは日本はよくならないと考えるので、そうした本当の改革派がいないことが寂しく思えて仕方がない。

「自民党を本当にぶっ壊す」

気概のある候補がいないから、総裁選もしらけてしまうのはないだろうか。

トップ写真:自民党総裁選の候補者が日本記者クラブへ会見する様子(2024年9月14日東京)出典:Photo by Takashi Aoyama/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."