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.国際  投稿日:2024/10/27

中国の台湾戦略、そして尖閣戦略は その1 習近平主席が尖閣奪取を命令


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・アメリカと中国の対立が深まり、中国は台湾と尖閣諸島への軍事攻勢を強化している。

・日系アメリカ人学者トシ・ヨシハラ氏は中国の戦略を分析し、侵入の頻度が増加していると指摘。

・習近平政権は尖閣の施政権を強調し、侵入を続けることで日本の主権を脅かしている。

アメリカと中国はなお対立を深める。その中国は台湾への軍事攻勢を強める。同時に日本領土の尖閣諸島に対しても連日のように威圧をかける。では中国は具体的にこんごどのような台湾戦略、尖閣戦略を実行するのか。

アメリカ側の中国軍事研究、とくに中国軍の海洋戦略の研究の権威とされる日系アメリカ人学者トシ・ヨシハラ氏とこの課題について語りあった。習近平政権が実際に台湾や尖閣に対してどんな攻略シナリオを準備しているか、である。

ヨシハラ氏は台湾育ちで中国語に練達という基礎がある。ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)で修士号を得て、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で博士号を取得と、高等教育をすべてアメリカで受けた。その後、海軍大学校で教授、同校の付属の中国海洋研究所の主任研究員を務め、現在はワシントンの大手研究機関の戦略予算評価センター(CSBA)の上席研究員として活動している。 

この対談はヨシハラ氏のCSBAのオフィスで9月中旬に実施した。

古森義久(以下、古森)「中国の軍事戦略、とくに海洋戦略の研究では全米有数の権威とされるヨシハラさんからはここ数年、何回にもわたり分析をうかがってきました。私もまた記者としての中国駐在体験やその前後の東京とワシントンからの中国ウォッチを基礎に課題を提起してきました。今回は日本の尖閣諸島に対する中国の軍事的な攻勢、そしてその動きと一体ともみられる台湾への戦略を主要点に話をしたいと思います。

日系米人のヨシハラさんは少年時代を台湾で過ごしたことから中国語をマスターし、中国側の軍事や海洋がらみの動向を中国の要人との会話や人民解放軍の戦略文献の読破からも把握するという独特の研究手法でも知られています。さらにアメリカ海軍の大学校の教授を務め、さらに同大学校付属の中国海洋研究所でも長年、研究員として実績を重ねてきました。

さて今回、まず提起したいのは中国の尖閣諸島周辺への威圧的な侵入のエスカレーションです。今年の春以来、日本の領海やそのすぐ外にある日本の接続水域への武装艦艇による侵入が連日のように増えています。至近でも今年8月から9月中旬にかけては日本の接続水域には中国船が4隻ずつ、文字通り連日、侵入しました。日本の領海にも毎週2,3回、いつも4隻の中国艦隊が入ってきます。

中国側はこれらの艦艇を中国海警局の公船と称しますが、実際は人民解放軍の指揮下の人民武装警察の艦艇です。しかもその背後にはいつも正規の海軍が控えています。中国側のこの明白な攻勢増大の新たな意図はなんなのか」

トシ・ヨシハラ(以下、ヨシハラ)「習近平国家主席が昨年末に中国海警局の司令部を訪れ、尖閣諸島の中国名である釣魚島の名をあげて、『この領土は1ミリたりとも譲れない。その主権を守る闘争を不断に強化せよ』と命令しました。以降、とくに今年に入って、日本側の領海や接続水域への中国海警局の艦艇の侵入と滞在、巡航が頻度を増しています。基本的には中国側としては自国の領土や領海の通常の定期的な巡視というわけです。

このままだと日本側の主権や施政権は着実に侵食され、後退していきます。中国側は近い将来、まず『尖閣の施政権は中国と日本が共同で執行している』と宣言し、その後、『釣魚島はもう完全に中国の領有権、施政権の下にある』と宣言する見通しが強い。中国当局はその『実績』を国際的にも広めるために、個別の艦艇の尖閣周辺での行動をすべて詳細に中国海警局のサイトに発表し、中国側の管理の積み重ねを内外に誇示しています。

中国が尖閣諸島を自国領扱いして、日本側への侵入を続けることは新しくはない。ただし最近の現象としては、その侵入を実行する中国海警局やその背後にいる人民解放軍海軍の物理的な力が大幅に強くなったことです。艦艇の数、規模、ミサイルなどの搭載火力の増大です。日本側の海上保安庁はもちろんのこと、海上自衛隊の戦力を圧倒するわけです。その結果、中国側にとっては尖閣奪取の方法のオプションが増しました。

(その2につづく)

*この記事は雑誌「月刊 正論」2024年11月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

トップ写真:BRICSの会合に参加するカシムジョマルト・トカエフ大統領、習近平国家主席、サディル・ジャパロフ大統領、プーチン大統領(2024年10月24日、ロシア・カザン)

出典:Photo by Contributor/Getty Images




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