参院選前に「石破おろし」始まる恐れ【2025年を占う!】内政
樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・石破首相は2024年暮れ、予算が成立しなかった場合の衆院解散・参院との同日選の可能性に言及。
・野党へのけん制だが、「伝家の宝刀」は口にすれば神通力を失う。
・都議選と参院選が同じ年に行われたケースでは過去、与党が苦杯をなめたことが少なくない。
■ 野党けん制もすぐに軌道修正
昨年秋に就任した石破首相は、どんな新年を迎えただろうか。
元日には能登半島地震・豪雨の犠牲者追悼式に出席するが、何よりも政局の展開が気がかりだろう。
首相は12月27日、都内で行った講演で、予算案や重要法案が否決された場合、「国民の信を問うことは当然、ありうるべきだ」と述べ、解散・総選挙断行の可能性に言及した。
翌28日には、民放のテレビ番組で、「(衆参の選挙を)同時にやってはいけない決まりはない」とも述べ、ダブル選挙にむ踏み込んだ。29日には一転、別の番組で「(解散を)やりますと、いったわけではない」と軌道修正した。
一連の発言からは、1月24日召集が予定されている通常国会での2025年度当初予算審議を見据えて野党をけん制したものの、波紋を呼んだことであわてて沈静化を図った右往左往ぶりが伝わってくる。
解散権は内閣総理大臣にだけ与えられた〝伝家の宝刀〟だ。
本来、しかるべき時に、瞬時に抜くものであって、事前に予告すべきものではない。いったん、解散に言及してしまえば、野党は反発、警戒させ、選挙準備を急がせることになる。与党内も浮足立つ。
ロッキード事件の解明に心血を注いだ三木武夫首相(在任、1974年―1976年)のように、反主流派の反発で解散権を封じられ、任期満了選挙を強いられて敗北、退陣した例もある。首相自身がいくら軌道修正を図っても、綸言汗のごとし、時すでに遅いというべきだろう。
■ 最初のハードルは当初予算の成立
総額115兆円にのぼる2025年度当初予算の成立は、石破首相にとって、何としても越えなければならないハードルだ。24年暮れの臨時国会では、何とか補正予算の成立にこぎつけたが、当初予算の審議に甘い見通しは禁物だ。
〝部分連合〟の相手、国民民主党は補正予算には賛成した。しかし、年収の「103万円の」をめぐって123万円まで引き上げた与党と178万円を主張する国民民主の隔たりはなお大きく、このままでは同党も当初予算案に反対の構えだ。
■ 過去、首相が退陣して予算成立させたことも
野党の反対で予算が成立せず、時の首相が退陣、〝クビ〟を差し出して、事態を収めたケースも過去みられた、
リクルート事件で大揺れだった1989年。野党が要求する証人喚問問題などをめぐって国会が空転し、新年度に入っても予算成立のめどが立たなかった。当時の竹下登首相はやむなく退陣を表明、事態打開にこぎつけた。
後継選びは混迷を極め、6月の両院議員総会で宇野宗佑外相(当時)が指名されたが、リクルート事件はなお尾を引き、宇野新首相の女性スキャンダルも明るみにでるにおよんで、7月2日、同23日にそれぞれ投票が行われた東京都議、参院選で自民党は、いずれも大敗北。宇野内閣はわずか69日の短命に終わった。
ことしもやはり、都議選、参院選が夏に予定されている。むろん、二つの選挙が重なる年、与党がかならずしも敗北を喫していたわけではない。しかし、政治資金パーティの収入をめぐる裏金疑惑は尾をひき、石破氏自身の不人気はなお低迷している。リクルート事件当時後と政治環境が似ているのは、石破自民党にとって気になるところだろう。
■ 予算成立後「石破おろし」も
予算が無事成立したとしても、首相は安心できない。それまでは総裁を支える暗黙の合意が党内にあるとしても、その後も支持率の低迷がつづけば、参院選前に「石破おろし」が始まる恐れがある。
首相は24年秋の臨時国会所信表明演説で、外交問題を冒頭に語り、人気浮揚を図るという手段にでた。1月には東燃アジアを歴訪する。
しかし、秋のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で、カナダのトルドー首相と座ったままあいさつ、首脳の集合記念写真にも間に合わなかったなどという不手際は、そうした目論見を挫折させた。
首相はトランプ米次期大統領と早期に会談する意向と伝えられるが、「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプ氏は、次期国防長官に、「日本の防衛費はGDP%」を主張するエルブリッジ・コルビー氏を指名。首脳会談でもアメリカ側が安全保障問題で厳しい姿勢に出てきたら、石破政権はいっそう窮地に陥る。
■〝2枚腰〟の首相、どう乗り切る
石破首相にとっては、きびしい環境での年明けとなる(った)が、首相が事態を座視するとは思えない。総理大臣に上り詰めた非凡な手腕に加え、国民の中にも、その政治理念に共感する向きは少なくない。
戦力の不保持をうたった憲法9条2項削除、自衛隊を国防軍とすること、米軍に特権的地位を付与している日米地位協定の改定などだ。
何より、昨秋の総裁選での大逆転勝利など、〝2枚腰〟は目を見張るものがある。
首相の持論「熟議」を尽くし、愚直に政策課題をこなせば、有権者の信頼回復につなげることができるかもしれない。新年に首相がどのような妙手を繰り出すか。国民は注視している。
トップ写真:石破新内閣の記念撮影(2024年11月11日東京都首相官邸)出典:Yoshikazu Tsuno-Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。