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.国際  投稿日:2025/4/24

ヘグセス炎上再び:問われるトランプ人事と政権の危うさ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#16

 2025年4月21-27日

【まとめ】

・ヘグセス国防長官の機密情報漏洩疑惑が再燃し、政権内外からの批判が強まっている。

・トランプ政権は第一期に比べ人事の混乱は減ったが、ヘグセス解任は他の高官への影響も懸念される。

・筆者の注目は、トランプがヘグセスをどこまで守れるかという点に集まっており、政権の今後の動向が注視されている。

 

先週、先々週に書いた「トランプ相互関税」問題は議論がほぼ出尽くしたと思うので、今週は久し振りにトランプ政権人事について書こう。きっかけは先週ヘグセス国防長官のスキャンダルが「再発」したことだ。ヘグセスといえば、日本では先日の訪日で評価が高まりつつあるようだが、案の定、ワシントンでは再び大炎上している。

毎度のことだが、日米メディアの評価は異なっている。4月22日、米メディアはヘグセス長官が、再び「シグナル」アプリで、何と妻や弟、個人弁護士らとも米軍空爆作戦の詳細を共有していたと報じた。トランプ氏は「大きな信頼を寄せている」と述べ国防長官を擁護したが、ヘグセス批判は国防総省内でも徐々に顕在化しつつある。

 

その典型例が、第一期トランプ政権でNSCの広報を担当し、先週までヘグセス長官の下で国防総省首席報道官を務めた人物の痛烈なヘグセス批判だ。この人物、4月20日付でワシントンの政治メディアPOLITICO誌にエッセイを寄稿し、何と概要次の通り述べているのだから、恐れ入る。

「過去一か月間、機微な軍事計画の漏洩から職員の大規模解雇に至るまで、国防総省は完全なる混沌にあり、(中略)バイデンとは異なり、高官の責任を問うことでは定評のある現大統領の性格に鑑みれば、ヘグセス長官が長く現職に留まることは難しいだろう・・・・。」

このエッセイを寄稿したのはJohn Ullyotという、恐らくはコテコテのトランプ主義者、国防総省内の非白人・少数派軍人などの写真や肖像画などを一掃した張本人の一人だそうだ。要するに、国防総省の軍人や文官職員の間だけでなく、トランプ陣営の中でも、ヘグセス長官に対する風当たりが徐々に強まっているらしいのである。

 

なるほど、それでも今回のトランプ政権は第一期目に比べれば、スキャンダルなどによる高官辞任・解任は少ないような気がする。さて、それでは8年前はどうだったのかな?と、物は試しに、AIアプリ「GEMINI」に質問してみたら、答えは以下の通りだった。すなわち、

  •  国家安全保障担当大統領補佐官:

Michael Flynn: February 2017、H.R. McMaster: March 2018. John Bolton: September 2019.

  • 他のホワイトハウス高官

Reince Priebus (首席補佐官): July 2017.Sean Spicer (報道官): July 2017. Anthony Scaramucci (Communications Director): July 2017. Hope Hicks (同): March 2018 and February 2020.

  • 閣僚など:

Rex Tillerson (国務長官): March 2018. Jeff Sessions (司法長官): November 2018. James Mattis (国防長官): December 2018. Ryan Zinke (内務長官): December 2018. James Comey (FBI長官): May 2017.

 

でもAIなど信用しない筆者、これだけでは不安なのでもう少し調べてみたら、流石はブルッキングス研究所だ。第一期政権の高官人事について詳細な研究が残っていた。これによれば、何と第一期トランプ政権発足後100日強で既に4人、年末までの一年間だけで計17人もの閣僚、補佐官、次官補以上の高官が辞任・解任された。

という訳で、今週の筆者の最大関心は、トランプがヘグセスを「どこまで守るか」「守れるのか」である。トランプ氏からすれば、ここでヘグセスを「切れ」ば、似たようなスキャンダルを抱えていそうな他の高官にも波及する「連鎖反応」が最も怖い筈。「たかが人事、されど人事」という訳で週末まで「お手並み拝見」モードで楽しむことにしよう。

 

 もう一つ、事後報告にはなるが、4月22日に我がキヤノングローバル戦略研究所は、ワシントンから一時帰国中の辰巳由紀主任研究員と、双日総合研究所の吉崎達彦チーフエコノミストを迎え、「トランプ政権100日座談会」 なるセミナーを開催した。幸い「登壇者よりもレベルの高い」多数の参加者にお集まり頂き、盛況だった。

自画自賛かもしれないが、数年ワシントンで仕事したぐらいで「ワシントン通」として立ち振舞う人士が少なくない昨今、ワシントン在住30年の辰巳研究員の発言は貴重である。また、経済が専門なのに政治の機微も分かる数少ないエコノミストである吉崎氏の洞察も傾聴に値する内容だった。

特に、冒頭で辰巳主任研究員は先日亡くなったアーミテージ元国務副長官の評価が日米で異なることに言及したが、これには筆者も「我が意を得た」思いである。この点は今週の産経新聞WorldWatchに書いたのでご一読願いたい。更に、そこで詳しく書けなかったところを、誤解を恐れず、ここに補足しておく。

 

確かにリッチ・アーミテージ元国務副長官は偉大だった。しかし、振り返ってみれば、彼は日本側の(駐留軍時代からの)伝統的「外圧活用外交」論者(当時はこれしか手段がなかった)の「被創造物」でもあったのかなと思う。それは一昔前に霞が関の小役人が創造した幻想のスーパー官庁「大蔵省主計局」と同じ構図だ。

アーミテージも大蔵省主計局も、どちらも強力ではあったが、実態は霞が関の小役人が発明した傑作の「幻想・偶像」だった。強い敵に対抗できない小役人たちは、実力以上に「力」があるような「幻想・偶像」を巧妙に作り上げ、(予算削減に反対する族議員や米国に批判的な)国内の反対派を説得するために大いに利用したのである。

 先週筆者が「北米局日米安全保障課長時代から今まで、実は「アーミテージレポート」は殆ど読んだことがない」と書いたのも、これとまったく同じ理由だ。日本が自分の言葉で自国の安全保障を語り、構想し、法制化して、実行しない限り、本当の安全保障政策は持てないと思うからである。

 

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

4月22日 火曜日 オマーン国王訪露、露大統領と会談

露外相、ウズベキスタン訪問

 ケニヤ大統領訪中(一週間)

4月23日 水曜日 オランダ首相、3日間の訪日を終了

 仏大横領、マダガスカル訪問

4月24日 木曜日 マダガスカル、インド洋諸国首脳会議を主宰

 ウクライナ大統領、南アフリカ訪問

 欧州委員会委員長訪英、英首相と会談

4月25日 金曜日 仏大統領、モーリシャス訪問

4月26日 土曜日 米・イラン、「間接」核協議開催(オマーン)

4月28日 月曜日 BRICS外相会談(於ブラジル)

 カナダ総選挙

 

最後にガザ・中東情勢について一言。先々週のネタニヤフ首相訪米では「イスラエルは対イラン攻撃のため様々な計画を準備しており、トランプ政権に対し具体案を提示するも、トランプ政権は支援を拒否した」と報じられた。流石のトランプもネタニヤフには追い付いていけないようだが、ネタニヤフだって米国の協力なしにイラン核施設への効果的な軍事作戦は難しい筈。でもこうした動きが報じられること自体、米国とイランの核協議を見据えた意図的リークなのかもしれない。

 

一方、今週末オマーンではそのイランと米国の第三回目の核協議が行われる。最近イランの態度は微妙に変化しているようで、両者がある程度歩み寄りつつある可能性は否定しない。但し、イランは核開発を諦める気など毛頭なく、米国もイランの核開発は絶対に認めない、という基本方針は変えないだろう。

となれば、2015年と状況は基本的に変わりなく、今はこれにイランのウラン濃縮度は6割を超えているという現実が加わったに過ぎない。これでは米イラン核協議を楽観視することは難しいし、両国を仲介できる国も存在しないだろう。

 

ウクライナ停戦問題との関連を指摘する向きもあるが、イランにとってはウクライナがどうなろうと、最後は関係ない。彼らの目的はただ一つ、「イスラム共和制」の生き残りしかないのだから・・・。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)President And Mrs. Trump Host Annual White House Easter Egg Roll

出典)Photo by Anna Moneymaker/Getty Images




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