フランスの“マンガ愛”と日本文化ブーム

Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・コロナ禍と文化支援策でフランスのマンガ市場が急成長。
・特需後は売上が減少も、依然高い人気と影響力。
・マンガを軸に日本文化への関心がフランスで拡大。
フランスは「マンガの第二の故郷」とも呼ばれるほど、日本に次いでマンガの人気がある国だ。特にコロナ禍は、ロックダウンにより自宅で過ごす時間が増えたことでエンターテイメント需要が高まりフランスのマンガ市場は目覚ましい成長を遂げた。さらに、若者向けの文化支援策「Pass Culture(パスカルトゥール)」も売上に貢献し、多くの若者がマンガを購入したのだ。その結果、2022年にはマンガの売り上げは4800万冊が記録され、過去最高の売り上げとなったのだ。
しかし、このようにフランスで大きく躍進したマンガであったが、この数年、マンガの売り上げが年々下がっており経営難から閉店する書店も出てきているという。
フランスの漫画売り上げの推移
コロナ禍 で、フランスのマンガ市場は爆発的に成長した。2021年にはコロナ禍で2800万冊の日本のコミックが販売され2020年比の約120%増となり、売上高も10億ユーロ近くに達したのだ。さらに2022年には4800万冊の売上が記録され、2021年から2022年の間にフランスのマンガ市場は約4倍の拡大となる、3億8100万ユーロに達するという驚異的な売り上げをたたきだした。
この売り上げの増大には、パスカルトゥール の影響も大きかった。 パスカルトゥール とは、学生が多くの文化を体験できるようにと本を買ったり、映画館に行ったり、美術館に行ったりなど、文化的行動にのみ使える補助金だ。しかし、この補助金はあまり美術館にいくのには使用されなかったようだが、その代わり学生たちはマンガを多く購入した。 その結果、2021年の半年間だけでも パスカルトゥール でマンガが150万冊購入され、それに伴い街中の書店の売り上げが伸びた。ちょうどコロナで多くの店が閉店したこともあり、街中には新たなマンガを中心とする書店も増加していったのだ。2021年から2023年に パスカルトゥール で購入された本10冊のうち4冊はマンガであり、マンガはフランスの書店の売り上げに大きく貢献した。
しかし2022年をピークにマンガの売上が下がってきた。2023年には12%減少し、2024年には9%の減少、そして2025年の第一四半期にはさらに14.5%の減少が報告されている。特に、コロナ禍の特需があった2021年や2022年と比較すると、その減少幅はかなり大きい。この影響を受け、経営難から閉店する書店が出てきたのだ。
フランスでマンガの売り上げが減った理由
フランスのマンガの売り上げが下がった理由はなにが考えられるだろうか?まず、人気シリーズの終了や新たな大型ヒット作の不在も影響している可能性もある。長年市場を牽引してきた作品が完結したり、新たな国民的な作品が現れていない状況が全体の売上を押し下げる要因になっていることも考えられるだろう。その他にも、デジタル版を読む習慣に変わってきたことも影響しているかもしれない。違法なオンラインリーディングは減少したものの、公式のデジタル配信サービスの利用が増加しているため紙媒体の購入に繋がらないのではないだろうか。またアニメとマンガの連携の鈍化もあるだろう。 以前はアニメ化が漫画の売り上げを大きく押し上げる要因となっていたが、近年はその効果が以前ほど強くないのだ。
このように考えられる減少の理由を挙げればきりがないしどれも多少は当てはまっているだろうが、冷静に見れば、売り上げの減少はどちらかと言えば コロナ禍で異常なほどの売り上げがあったことの反動だと理解できる 。なぜなら、コロナ禍前の2019年と比べれば2024年のマンガ市場の売上高は50%増となっており、マンガはフランスの書籍市場全体においても依然として大きなシェアを占めているからだ。
要するにコロナ禍やパスカルトゥールによる一時的な爆発的マンガブームがあったが、現在はそれも落ち着き、どちらかと言えば通常の状態に戻りつつあると解釈する方が自然だろう。急激な伸びを経て市場がより成熟した段階に入ってきたと言えるかもしれない。マンガの読者が離れていったのではなく、反対に読者の層が広がり多様化もしているのだ。
フランスでは、マンガもゲームも日本への観光も大人気
ひと昔前は日本バッシングの道具とされたマンガであったが、特にコロナ 禍 を経て多くの人がマンガを手に取った。こういったマンガの普及は日本に対するイメージに大きな貢献をし続けている。身近でも、マンガに触発されて日本に観光にいきたいと意欲的なフランス人も増加したことを感じるが、実際にフランスから日本にいく旅行者が年々増加しており、旅行者全体を見ても、2024年の訪日フランス人数は38.5万人、消費額は1388億円でともに過去最高。2025年もフランスから日本への観光客は上昇傾向にあるのだ。マンガの売り上げが減少しているとしても、日本のマンガや日本文化を好ましく思っているフランス人が増加していることを感じる場面が多くなってきた。
こういった、マンガの読者や日本を観光した人たちがフランスにおよぼす影響は大きい。例えば、最近ではフランスでも桜を楽しむことが一般的になりつつある。ニュースでも「フランスでも日本のように桜が楽しめる」と、紹介されるほどだ。中でも、ヨーロッパ最大の日本庭園「モレヴリエ東洋公園」や、パリの南に位置する「ソー公園」の桜は美しく、開花の季節には多くの花見客が訪れる。
他にも、日本のコンテンツの人気は依然として高いと思わされるものがある。それはゲーム機もその一つだ。任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch2」の予約がフランスを含む世界中で非常に好調で、世界で220万件以上の予約があり、予約数は同社の予想を大幅に上回っている。本体価格が従来機よりも高めに設定されているにもかかわらず、フランスの主要な販売店でも「歴史的な」予約数を記録しており、価格が需要を妨げていないことが示されている。
こういったことも含め、パリ近郊で開かれるジャパンエキスポに代表されるアニメやマンガ、ゲーム、日本文化のフェスティバルはまだまだ盛況だ。一時的なマンガの爆発的売り上げは落ち着いたが、現在はマンガに限らず幅広く日本の独創的な文化やコンテンツに興味を持つフランス人が増加しつつあると実感する。
参考リンク
Le marché du manga s’essouffle en France, des librairies spécialisées contraintes de fermer(フランスでマンガ市場が失速、専門書店が閉店を余儀なくされる)
Selon une étude, les Français délaissent de plus en plus la lecture(調査によると、フランス人は読書からますます離れている。)
Marché de la bande dessinée en France est-il en train de s’effondrer ?(フランスのバンド・デシネ市場は崩壊しつつあるのか?)
La bulle du marché BD s’essouffle sans éclater(バンド・デシネ市場のバブルははじけずとも、勢いは失われつつある)
Lesté par le manga, le marché de la BD poursuit sa chute | Les Echos(マンガに足を引っ張られ、バンド・デシネ市場は下落を続けている)
Face à la baisse des ventes de mangas, certaines librairies sont contraintes de fermer leurs portes(マンガ販売の減少に直面し、一部の書店は閉店を余儀なくされている)
Après l’euphorie des années Covid, l’hécatombe des librairies spécialisées dans le manga(コロナ禍の熱狂の後、マンガ専門書店に訪れた大量閉店の悲劇)
On a beau rager, la Nintendo Switch 2 bat tous les records… même en France – jeuxvideo.com(怒りたくもなるが、Nintendo Switch 2はフランスでも記録を塗り替えている)
フランス市場の最新インバウンドデータを解説【2024年年間】
トップ写真:ジャパン・エキスポ 2018@フランス・パリ ― 2018年7月5日
出典:Photo by Aurelien Morissard/IP3/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。
