仏熱狂「ワンピース」第100巻初版25万部
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・世界第二位のマンガ大国フランスで日本のマンガは半分以上の売上高を占める。
・人気の背景として尾野栄一郎氏独自の完成された世界観が挙げられる。
・大人社会だったフランスに日本の「マンガ」は良い影響を与えうる。
尾田栄一郎氏による大人気マンガ「ONE PIECE(ワンピース)」の第100巻初版25万部が、12月8日、フランスで発売された。世界で第2位のマンガ大国と呼ばれるフランスである。発売当日は、フランス各地でマンガ専門ショップやFnacなどマンガを扱う店の前に、開店前から長蛇の列ができ、フランスでの『ワンピース』の人気の高さに誰もが驚いた。
・フランスでのマンガと『ワンピース』の人気の高さ
現在、フランスのマンガ・BD(注1)市場では、日本のマンガが半分以上の売り上げ高を占めている。GFK研究所によれば、2020年全体で2200万冊強の売り上げを記録した。しかし、2021年1月から7月の間にフランスで2510万冊のマンガが販売され売上高は約1億8600万ユーロ。さらに8月だけで2890万冊が販売されており、今年の売り上げは右肩上がりに急激に伸びている。
そんなフランスでも人気の高いマンガ販売量の約10%を占めるのが、『ワンピース』だ。
『ワンピース』は、日本では1997年にスタートしたが、フランスでは2000年から販売された。そしてそれから10年、毎年フランスでのマンガの売り上げトップに立っている。
1000エピソード、そして現在100巻目を迎え、全部読むのに49日以上はかかると言われている狂気的な量のマンガであるのにもかかわらず、それはまったく障壁にはなってはいない。2020年には2019年より89%、2018年より135%多く販売され、毎年売り上げが伸びているのである。
そんな中今回100巻目が発売となり、初版で25万部が印刷されるという前代未聞の領域に到達した。この成功はフランスで最も権威のある文学賞のひとつ「ゴンクール賞」に匹敵するとも言われている。
また、2022年には映画もフランスに届くことになっており、この人気はまだ数年は確実に続きそうだ。
▲写真 欧州最大のコスプレサミット「Japan Expo」に集うコスプレイヤー達(2018年7月5日、フランス・パリ) 出典:Photo by Aurelien Morissard/IP3/Getty Images
・なぜ『ワンピース』がフランスでこれほどまで人気なのか?
日本と文化ベースが違うはずのフランスで、これほどまでに『ワンピース』の人気が出た理由はなんだろうか?フランスの高尚な文化を紹介することでも知られている「フランス・キュルチュール」の『ワンピース』の記事で、フランスの漫画家レノ・ルメール氏が語っている内容を3つほど紹介したい。
まず、その前に知っておいて欲しいのが、日本のマンガが人気がある理由として「少年・少女」が主人公になっていることが挙げられる。マンガが登場する以前のフランスには、10代の若者を対象にしつつも、大人になっても読めるような読み物があまりなかったのだ。
例えば、フランスで人気の子供用のBD『アステリックス』を見てみても、主人公は子供のように背は小さいのだが、子供ではなくひげを生やしたおじさんだ。そしてすごい皮肉が多く、なんだか子供の素直な気持ちを反映したものではない。
フランスでは、子供は小さな大人と呼ばれていたことからもわかるように、大人社会が中心であり、子供の世界は重要視されなかった歴史が影響しているだろう。「少年・少女の心」が置き去りにされがちだったのである。そのため、「少年・少女」だけではなく、「少年・少女の心を持つ大人」も楽しめるマンガは大きく人気を獲得していくようになった。
1. 他の日本の少年マンガと違う理由
しかし、同じく日本のマンガである『ナルト』も、『ドラゴンボール』も「少年・少女」が主人公になっているのにもかかわらず、なぜこれほどまでに『ワンピース』が人気なのだろうか?
その理由を、ルメール氏は、『ワンピース』は全てが最初にセットアップされているからだと説明する。多くの場合、週刊マンガで発表される日本のマンガは、最初はどこに向かうのか誰も知らない状態からはじまり、読者から意見を聞いて人気具合によって登場人物が消えたり話が変わったりしていく。しかし、物語というのは話者が作り出していくことが基本だ。作者の尾田栄一郎氏は、全てを最初にセットアップし、よいストーリーを生み出す作家であるというのだ。
2. 作者の尾田栄一郎のコンセプトは独創的
また、“ONE PIECE=ひとつなぎの大秘宝”を見つけなければならず、それを手にしたものが“海賊王”になるとされているのだが、しかし、作者はそれがいったい何であるかは決していわない。登場人物が誰もが「ONE PIECE」について話しているのに、それが何であるかを誰も何もいわないのだ。冒険はこの宝物の発見で終わるのだとは予測するが、不思議なことに100巻を過ぎても読者はこの宝物が何であるかわかっていない。これが独創的であり、設定としていい。
また、他の「少年」のマンガは旅について考えられているが、その運命の行き先についてはあまり考えられていないのにもかかわらず、『ワンピース』はその両方を持っている。それが強みだ。
3. 人々が変に見えることを躊躇していない。多様性がある。
いろんなキャラクターがでてくるが、すごく変わっていて、尾田栄一郎氏のスタイルでもある。現実には存在しないような体形や体の動きをしたり、アングルで見せる革新的な絵で、キャラクターが変に見えることもまったく気にしていない。
そして、現実時間の中に物語が閉じ込められていない。尾田栄一郎氏が宇宙を作り、独自規則を作り、時代を超えた普遍的な作品になっている。そして、国境もない。ルフィは日本人ではない。ルフィはブラジル人、サンジはフランス語のキャラクター、ロビンはロシアのキャラクターだ。しかしワンピースはそれ自体が宇宙全体であり、実際にはすべてが架空の世界で行われるため、ブラジル人、フランス人、アメリカ人の誰もがルフィに共感する。そう、すべての素晴らしい作品、マンガは、同じように別の現実が舞台になっているのだ。
・マンガがもたらす価値観
ルメール氏の説明からは、『ワンピース』が特別であることも読み取れるが、日本のマンガがフランスで人気がでる理由の一つとして、フランスになかった価値観や、求められていた価値観が詰まっているからであることも読み取れる。
『ワンピース』をはじめとするマンガにおけるフランスでの成功からは、フランスにはなかったよい価値観をもちこむことは肯定的にとらえられることも垣間見え、このような日本の文化を守っていく重要性を考えさせられる。マンガを通して若者たちは、冒険すること、未来に希望を持つこと、そして多様性のある平等な世界など多くのことを学ぶことができるのだ。そして、そういった少年・少女の心に寄り添えるのが、日本のマンガなのである。
**注1 B.D.(仏語:bande dessinée バンド・デシネ)は、フランス・ベルギーなどを中心とした地域の漫画のこと。ベデと発音する。
<参考リンク>
今週水曜日の朝、ニースのfnacの開店を多くの人が待っていた理由とは
フランスで売れているコミックのうち半分は日本の『マンガ』:「あらゆるレベルで爆発的に売れている」
マンガ「ONE PIECE」シリーズの100巻が発売され、前代未聞の25万部を突破
トップ写真:2016年11月5日に開催された「Paris Manga & Sci-Fi Show」にて『ONE PIECE』のコスプレをする人々 出典:Photo by Chesnot/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。