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.国際  投稿日:2018/7/16

中小企業の海外展開に活路 Japan Expo 2018


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・パリ近郊で7月上旬「ジャパンエキスポ2018」が開催。

マンガ、アニメ以外の日本文化も人気。中小企業の出展も。

・日本の中小企業の売り上げ増に繋がる可能性もあるが、ハードルは低くない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41035でお読みください。】

 

フランスのパリ近郊で7月5日~8日までの4日間、今年も盛大に「ジャパンエキスポ2018」が開催された。マンガやアニメ、ゲームの会場の盛況ぶりは日本にも伝えられとても有名なイベントではあるが、果たしてそれ以外の会場はどのような様子だったのだろうか?

▲写真 ジャパンエキスポ会場 ©Ulala

「ジャパンエキスポ」は2000年に始まり、主にマンガやアニメ、ゲームを中心とする日本の文化を基盤にして楽しむイベントだ。フランス人が子供の頃から身近にあった日本のマンガやアニメやゲームはすっかりフランスの娯楽の一つとして定着し、国を超えて共通の話題として楽しめる文化となった。

▲写真 Japan Expo 2018 会場内の様子 出典 flickr: lullypop

一歩会場に入れば、そこには一面に広がるマンガ、アニメ、ゲームの世界。大手の日本のゲーム会社や出版社のブースも大きく場所を取り派手なイベントも行っているが、細かく見ていくとフランスなどを中心にコミケ的な活動をしている人たち、フランスのプログラミング教育機関、フランスのコスプレイヤー、ヨーロッパへの商品販売ルートが豊富にありそうな各国の販売者たちなど、主に現地の人たちがイベントを盛り上げている。

▲動画 Japan Expo 2018 Cosplay Music Video

「ジャパンエキスポ」は、そこに日本と言う言葉が入っているためか、よく日本が主導を握った日本のためのイベントと誤解されがちだが、あくまでも日本のマンガ家や業者は、他の参加者と同様にイベントに参加させてもらっている立場であり、決して主導権を握っているわけではない。しかしながら、こういう日本に関係するイベントに興味を持つ人たちは親日家も多く、海外と言う土地であるのにもかかわらず、日本に好意を持ち親切にしてくれる人々が大勢集まるイベントとも言える。

このようなジャパンエキスポでのマンガ、アニメ、ゲームの人気の高さはすでに周知のとおりで、クールジャパンの活動などでも知られるように人気にあやかって日本を知ってもらおうと宣伝活動が行われてきたが、現時点ではそれなりの効果がでてきている。

近年ではジャパンエキスポだけに留まらず、大小の差はあるにしてもフランス各地で、日本を中心としたマンガやアニメやゲームの同様なイベントが行われる町が次々と現れ、フランス全体にブームの広がりも見られるようになってきた。そういった様子を見ていると、もうマンガなどを通しての日本のイメージアップが必要な段階ではないかもしれないとも思えてくる。今は、その努力を今後どう発展させるかという段階ではないだろうか?そこで今回は、ジャパンエキスポでのマンガ、アニメ、ゲーム以外の催しや出店スタンドに注目してみた。

まず、現在のジャパンエキスポは、単にマンガやゲームなどが好きな人から日本そのものが好きな人まで、幅広い層を集めていることもあり、その入場者数の多さに驚かされる。2012年からは毎年の入場者数が20万人を超え、今年は25万人の入場が見込まれている。出展数も去年の600から800店に増え、世界最大級の日本文化の総合博覧会の一つだ。

この25万人がどのぐらいすごいことかと言うと、フランスで開催される他の有名な展示会と動員人数と比べてみてもわかるだろう。フランスで行われる有名なサロンの入場者数は下記の通りだ。

サロン・デュ・メゾン・エ・オブジェ  8万人
サロン・デュ・ショコラ        13万人
農業見本市              67万人

さすがにフランスでも特に重要視されてる農業見本市は、開催期間も1週間と長いこともあって入場者数も多いが、海外からも多く人が訪れることでも有名なサロンよりもジャパンエキスポの方が入場者数が勝っている。

もちろんマンガ、アニメ、ゲームファンの層の厚さがこの入場者数に大きく貢献しており、ジャパンエキスポ内でマンガ、アニメ、ゲームの展示がされている場所の人口密度はかなり高い。しかし、これらの会場を突き抜けた奥の会場に広がる、日本のアイドル、ゆるキャラ、日本料理、よさこい、書道、着物、武道など、日本の文化や日本についてなどの紹介も行われている場所に行っても、多くの来場客でにぎわっていることも確かだ。

おにぎりや、唐揚げが売っている店を中心に長い行列ができ、日本のアイドルとそのファンの掛け声による一体感は既にフランス人を引き付けるショーとなっており、フランス人チームで作られたよさこいのショーは立ち見もいるほど盛況だ。本物の日本の着物を売るスタンドには試着しているフランス人が常におり、ゆるキャラのショーも、みんな楽しみながら見ている。こう見ていると、日本には世界に紹介できる成熟した文化がこれほど豊富にあるのかと改めて感心させられるのだ。しかしながら、そんな状況なのにもかかわらず、残念ながら日本からの出店スタンドは思ったよりも消極的だ。

県により観光の宣伝を行うブースも多かった。地元の代表となる伝統的な商品とその制作会社の代表者と共にやってきて、観光と海外販売ルート確立を模索している積極的なスタンドもあれば、単に、県の観光紹介パンフレットを配布しているだけのスタンドも存在する。フランスのイベントに出店しているだけでも積極的な行動と評価するべきなのかもしれないが、なんだかまばらでまとまりがない。これが、「47都道府県」全てがずらりと並び、一同に県の産業と観光を紹介ができるなら、日本への観光誘致にも、もっと効果を発するのではないだろうかとも思う。

また、日本の中小企業の出店数はそこまで多くはなかった。さらに出店しているお店の中には海外に出店できたことに満足して終わっており、海外での販売につなげる次の展開は考えていないスタンドも見受けられたり、もしくは、「最初にパリで発表して、今後日本で展開していくのが目的」と言うような、日本国内で販売すると言う内向きな理由での出店も見られた。

もちろん、商品自体も目を引き、キラリと光る活発な出店者も存在している。

一番興味を引きつけたのは、富山県の三味線販売店「しゃみせん楽家」のスタンド。三味線はなかなか世界には出にくい商品だろう。と言うのも、やはり皮素材でできたものは輸出が難しい点が多いからだ。しかし、「しゃみせん楽家」の「SHABO(しゃみせんBOX)」と言う三味線は皮以外の素材を使い、本格的な三味線よりは値段を抑え、多様なデザインに対応できるように開発されている。

▲写真 SHABO 出典:しゃみせん楽家

最近はよく、外国人向けにおみやげとして三味線を模倣したような商品も日本で売っているが、そんな飾り物とは違い、この「SHABO」は、三味線の先生でもある濱谷拓也さんが作られているので、簡易的であっても本格的な三味線の音が実現できている。日本の伝統的な楽器を手頃な値段で購入できるせいか、なんとそれなりのお値段がするのにもかかわらず、30本持ってきた「SHABO」は完売したそうだ。

「三味線には世代も、国境も越える力がある。日本の音をフランスに広めたい。」

そう語る濱谷さん。三味線演奏のパフォーマンスも素晴らしく、濱谷さん自身が世界でも十分通用する魅力をもっており今後の可能性を大きく感じた。

▲写真 SHABOを演奏する濱谷さん ©Ulala

その他にも人気を集めていたお店があった。埼玉県行田市の畳店「有限会社石川富男商店」のスタンド。昔ながらの天然い草を使った畳では輸出の制限がある。しかし和紙を使った新素材で変色もなく、モダンな色使いで、フランスのインタリアにもマッチした畳。色彩豊かな畳縁で作られたカードケースなどの販売も行っており、多くの人が群がっていた。

▲写真 和紙を使った畳 出典:有限会社石川富男商店

「フランス人はみんな親切なんです。」と笑顔で語る店主の石川さん。今回は20件程度のフランスの業者との連絡先を手にしたそうだ。

写真)有限会社石川富男商店 店主の石川さん

©Ulala

こういったフランスのニーズにも気を配り、意欲ある出展スタンドはそれなりの成果を上げている。特に、日本に興味がある人たちが集まるジャパンエキスポのようなイベントに出店し、販売経路を増やす道を模索することは、日本国内で消費に伸び悩む中小企業の売り上げアップにつながる可能性も広がるため、もっと積極的に展開する販売者が増えてもよいのではないだろうか。

しかし、各スタンドの方の話を聞いていると出店することはそう簡単ではないようだ。出店までたどり着くだけでも言葉の壁や輸出と言う壁があり、その後の継続的な販売につなげるには更に高い壁が立ちはだかっている。最低でも販売者が英語ができるか、もしくは通訳者を雇えるぐらいでなければ思った成果は上げられないと言う。

フランスで力を入れているスタートアップでは、日本で言うJETROのようなフランスの機関が海外の支援者と直接合わせる場所を作っていると言うが、日本はどういった体制をもって支援しているのだろうか?と言う点が気になった。

日本は、海外に紹介できる成熟した文化が数多くある。それは日本企業が作る製品についても同じことが言え、日本の商品の伸びしろは絶対ある。今回、ジャパンエキスポに行ってそのことを確信した。しかしながら、中小企業が個別に戦っていくにはまだまだ厳しい状態だ。今後その辺りをどう打開していくかが、大きな課題となるだろう。

トップ画像:Japan Expo 2018 出典 flickr lullypop


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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