【都議選公約分析】③立憲民主党

西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・立憲民主党は、「生活都市の再生」を掲げ、家賃補助や物価高対策、教育無償化など都民一人ひとりの生活を支える「人への投資」を重視した政策を具体的に提示している。
・「政治とカネ」の問題や議会制度改革など、政治のあり方そのものへの問題提起を行い、理念と現実的な政策を結びつける姿勢が特徴。
・一方、平和祈念館建設や「東京都平和の日」の普及推進には疑問が残る。
「本当に支援を必要としている人への施策や予算が後回しにされる。こんな政治は、もう終わりにしましょう」と立憲民主党は、政治の根本的な価値に問題提起をしている。第三回目の公約分析は立憲民主党だ。
「プロジェクションマッピングや巨大噴水といった、根拠に乏しく検証も不十分な見せかけの事業に多額の公金を費やすよりも、物価高騰にあえぐ生活者を支える取り組みや、経営不安を抱える中小企業の支援、子どもから若者・高齢者・障がい者など誰もが安心して暮らせるベーシック・サービスの充実、機会の平等を保障する多様で質の高い教育など、徹底的に「人」への投資を貫くことを私たちは提案したい。」(都議選政策2025)として政治の価値観・あり方を明確に打ち出してきた。「人への投資」を重視した、経済一辺倒ではなく、都民一人ひとりの生活を支えるための政策が並んでいて、「生活都市を取り戻す」という理念が色濃く反映されている。具体的には、物価上昇を上回る賃上げの実現、生活困窮世帯に月2万円の家賃補助、救急搬送時間の短縮、単身高齢者への介護充実、水道料金引き下げ拡充などを訴えている。
◆政策と特徴
その特徴の第一に、生活都市という理念に即した具体的な政策が明確に並んでいることだ。都民の生活実感において、物価上昇とともに、家賃高騰が問題になっている。立憲民主党は、住まいの確保はもっともベーシックな生活保障という認識のもと、「住まう権利を守る家賃補助制度・家賃高騰対策」として、必要とする全ての人への家賃補助制度を提案している。
また、都市開発でタワーマンションが乱立し、外国人の購入なども話題になっているが、この実態に対しても「外国人等による投資目的の不動産購入の規制や空き家対策の強化、既存住宅の流通活性化など、あらゆる対策を講じて、住宅価格や家賃の高騰抑制に取り組みます。」と明記している。外国人に対してはあらゆる面で優しいリベラルな政党ではあるが、この点をはっきり言ったのは評価したい。
第二に、政治改革の面についての問題提起は強烈だ。「政治とカネ」の問題と決別するべき、として、裏金問題の徹底解明、パーティー券廃止を訴えている。「献金やパーティー券などを通じて、政策決定や政治判断がカネによって歪められる、このあり方を根本から見直すことが必要」という非常に強い問題認識はさすがである。また、365日いつでも議論できる通年議会を提案し、行政のチェックなどを強化する点も提案している。
第三に、理念が具体的な政策に落とし込まれている点が特徴的である。
例えば
・水道料金の引き下げ:物価高対策、家計を応援する観点から拡充
・所得UP支援:中小企業の賃上げ支援、非正規雇用の正規化
・教育の完全無償化:格差の再生産を防ぐ
・若年がん患者(15〜39歳)支援
・ヤングケアラーの実態把握調査
・依存症・アディクション(嗜癖)の支援
・ICT活用による介護職員の負担軽減
・救急搬送時間の短縮
・フッ素化合物であるPFASを含む泡消化剤が横田基地から漏えいした問題の再発防止策
・環境アセスメントにおいて、事業者の意見だけでなく、有識者から意見を聞くことができるように制度を改正
などの多岐にわたった政策を提示している。社会福祉面はさすがである。都民の立場、現場の立場からの声を真摯に聞き、提案してくる背景には、「家族や高齢者のみの世帯が増える中で、介護離職や老々介護、ヤングケアラーなどに代表される家族の過大な負担や社会的孤立対策、サービス利用を進めます。高齢者や障がい者、医療的ケア児、高次脳機能障がいなどケアを必要とする方の家族が介護するのは当たり前という根強い意識から脱却し、ケアラーを理解し支える社会へと転換します。」という問題意識があるようだ。
◆もうちょっと頑張って欲しい
社会問題解決への視点をもった弱者への配慮からの政策が並んでいるが、その中には疑問を感じる政策もある。一つが、平和祈念館(仮称)の整備である。「平和の尊さを次世代に継承する」ことは大賛成であるが、この時代に、ハコもの建設である。建設とその後の維持管理費をどうするのだろうか。もう1つが若者をターゲットにした「東京都平和の日」のさらなる普及啓発(東京空襲の証言映像の使用承諾や活用、空襲資料展の内容や場所を充実)。日本では義務教育レベルでの平和教育が進んでいて、世界最高レベルの内容と思える中、さらなる普及啓発の必要性があるだろうか。平和を尊ぶあるべき姿、価値観、主張としては素晴らしいし、東京大空襲の悲惨さを伝えることは本当に素晴らしい。戦争についてのリアルさがなくなっている今だからこそ、というのもわかる。しかし、誰も戦争などしたくないし、やりたくないが、人間は争ってしまうものでもある。先人たちも、水、土地、メンツを巡って争ってきた。他人などどうでもいいと考えている一部の権力者の考えで相手を蹂躙したり、利害や面子などの利害対立が行われたり、小競り合いが発展し、争いになったり様々なケースはあるが、戦争はその極端な例でしかない。何かを巡って争ったり、奪われたり、奪ったり・・人間社会には争いはつきもので、歴史的には過去にはたくさんあった。国民国家になってから、第二次大戦などに限定して平和を考える必要はあるのだろうかと思う。
また、国政レベルの野党第一党でもあり、知事部局に対峙する大きな勢力でもあるのだから、小池都政に対しても、もうちょっと対決姿勢を打ち出してもよかったのではないかと思われる。小池都政においては、予算や事務事業の詳細を「見える化」できてきないこと、政策検証が十分できないこと、一部の議員の答弁に立ちたがらない都知事の問題などなども見られる。この点を明確にしてほしかったし、独自の政策検証をしてもよかったのではないか、と考える。それをもとに、立憲民主党としての対案・提案、もっと大きなグランドデザインを提起してほしかったというのが本音のところだ。
◆東京一極集中問題
最後に、一極集中問題への視点は全く感じられない。国政政党として、東京一極集中問題への対処方法を視野に入れて、解消されない通勤時の混雑、過剰な都市開発についての抜本的な対策を提示してもらえなかったのは残念であった。都市の開発に規制をかけ、持続的にまちづくりをできる主体は行政なのだ。災害対策も含めて考えてもらいたい。
国政においても野党第一党でもあり、幅広い支持や既存の政党としての実績と信頼も確かである。高齢層で立憲民主党の支持が厚いが、その公正な理念やメッセージが若者に浸透するか。立憲民主党に期待したい。
トップ写真)東京都庁ライトアップ 東京 2020年1月24日
出典)Photo by M.Arai/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。












執筆記事一覧




















