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.政治  投稿日:2025/7/21

会計検査院P-1報告書を読む その4


清谷信一(防衛ジャーナリスト)

 

【まとめ】

・P-1哨戒機は開発時からエンジンに問題があり、防衛省は国会や国民に隠蔽して予算を要求。

・P-1の稼働率は3割台と低調で、機体用交換部品の調達や管理にも問題がある。

・防衛省は文民統制を無視し、低稼働率の欠陥機を導入。代替案の検討が必要。

 

P32〜33

>4 検査の状況に対する所見 

>ウ F7-10エンジンの運用等の状況(16~21ページ参照) 会計実地検査時点まで継続的にF7-10エンジンの一定数が性能低下の状態になるなどして使用不能となっており、P-1の可動状況が低調となる要因となっていた。(中略)開発段階においても、当初腐食性試験時不具合及び新条件腐食性試験実施後不具合が発生していた。

 

 つまり、開発時から抱えていた問題を防衛省は国会にもひた隠し、予算を要求していたことになる。これは文民統制上看過できない問題である。多くの自衛隊の装備の問題がこのように政治家には知らされずに防衛予算が成立していることになる。

 報告書では改善を求めるに留まっているが、改善が可能なのは不明である。7月15日の防衛大臣定例記者会見で中谷防衛大臣にP-1の改善のために期間、予算額を明示するかを聞いたが大臣はそれはないと回答した。筆者が取材する限りP-1の稼働率は3割台に過ぎない。今後それがどの程度の稼働率まで改善し、それには費用はいくらかかるのか、防衛省は黙ったままで防衛予算を要求することになる。

 

写真)P-1の可動状況が低調となっている要因等 出典)筆者提供 

 

P32

これまでの内容をまとめてみると、

>(1) 検査の状況の主な内容 

>  ア P-1の開発、運用等に要した経費等

契約額計1兆7766億1506万余円となっていた。

>イ P-1の可動状況

元年度から5年度までの間の可動状況を確認したところ、任務可動機の数は限られており、P-1の可動状況は低調となっていた。

>ウ F7-10エンジンの運用等の状況

継続的にF7-10エンジンの一定数が性能低下の状態になるなどして使用不能となっており、P-1の可動状況が低調となる要因となっていた。開発段階においても、当初腐食性試験時不具合及び新条件腐食性試験実施後不具合が発生していた。

 

つまり開発時から問題があったにも関わらず、それを納税者にも国会にも明らかにせず、低い稼働率を組織ぐるみで隠ぺいしてきたということである。

 

P33〜34

>オ  機体用交換部品の調達等の状況

> (ア) 調達リードタイムの長期化等

>空補処は(中略)調達リードタイムの長期化等に関する情報を幅広く収集し、できる限り早期に対応を検討するよう努める必要があると思料される(28、29ページ参照)。

>(イ) 構成部品製造業者における製造状況の把握

空補処は(中略)主要企業の製造状況だけでなく、構成部品製造業者における製造状況も把握するなどして、サプライチェーン全体の状況を把握した上で、必要に応じて対応を検討すべきであると思料される。

>(ウ) 緊急請求に対する対応状況

空補処が各部隊から緊急請求を受けてから調達が完了するまでに1年以上を要しているものが全体の3割弱となっており、中には3年以上を要しているものも見受けられた。(中略)各部隊において、機体同士で機体用交換部品を流用し合うなどして可動機を確保している状況や、非可動の状態となっている機体が見受けられた。

>(エ) 機体用交換部品の需給状況等の把握

調達所要量の算定については、需給バランス表等により、調査対象品目に関して製造中止等の情報を得ていても、当該情報を調達所要量の算定に反映させる仕組みにはなっていなかった。また、機体用交換部品の構成部品のうち輸入品の需給状況等に関する情報収集が一体的かつ効率的に行われておらず、また、補給本部と空補処との間で当該情報が十分に共有されていない状況も見受けられた。

つまり装備庁、空幕もコンポーネント補充情報に関しては完全に業者任せてあり、しかも当局の組織間の連絡が密に取られておらず、縦割りもひどかった。現場で航空機を円滑に稼働させるための当事者能力を欠いていた、ということである。

 

P35

>(2) 所見

>P-1は、我が国の領海等における国益や我が国の重要なシーレーンの安定的利用の確保等のために重要な役割を担っており、我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面していることを踏まえると、その可動を十分に維持することが求められる。

>国内開発されたP-1には、これまでに多額の国費が投じられている。 (中略)防衛省は、次の点に留意するなどして、省内の各組織が緊密な連携を図ることにより一体となってP1の可動状況の改善に取り組んでいく必要がある。

> ア P-1の運用段階で一定数の不具合が発生し、その可動状況が低調となっていることを踏まえて、今後更なる能力向上等を行う場合には、運用開始後に発見される不具合により任務に支障を来す可能性をできる限り少なくするために、過去に蓄積された知見を最大限に活用して、当該知見を設計に反映させるよう検討するとともに、各種試験の実施に様々な制約がある中でも、当該知見を踏まえて必要となる試験項目を適切に設定して試験を実施すること 

 イ P-1の可動状況が低調となっている状況や、機体用交換部品が不足している状況等を踏まえて、機体用交換部品の調達方法をより効率的、効果的なものとすることなどについて検討すること。また、状況の改善が見込まれない場合には、機体用交換部品の安定供給のための方策も検討するなどして、防衛省が一体となって機体用交換部品が不足することのないよう努めること 会計検査院としては、P-1の運用等の状況について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。

 

所見は稼働率向上のため努力せよと結んでいる。だが果たしてそれが可能なのか。はじめから信頼性が怪しい専用の国産の機体とエンジンを採用することにプロジェクトに無理があった。プロジェクト自体がそもそも国産開発ありきの甘い見通しで決定された。それは

防衛庁(当時)のトップであった石破茂長官(防衛大臣)の反対を組織として押し切った。それは防衛庁、海幕だけではなく経産省も背後にいた。

まず文民トップの意見を無視して開発を決めたことは文民統制上問題がある。防衛庁、防衛省となった現在でも体質は変わっていない。防衛省、自衛隊の体質は同盟国の米国や同志国の民主国家よりもはるかに旧帝国陸海軍に近いものがある。

 

写真)国内開発された固定翼哨戒機(P-1)の運用等の状況(随時) 出典)筆者提供

 

防衛省は国産哨戒機導入のために本来行うべき、試験などオミットしてきた。更に問題がある欠陥機である機体を部隊承認して、採用してしまった。開発時にはC-2と合わせて3400億円という極めて少ない開発費で二つの機体の開発が可能だと宣伝していた。

だがそもそもC-1以来大型機を開発した経験がない我が国の航空業界が大型機を開発するのであれば、経験者も現場にはおらず、諸外国より慎重に事業を進め、多くの試験をすべきだった。ところがエンジンの試運転含めて他国よりも少ない「手抜き」を行った、P-1だけではなく、C-2もずさんな開発で強度が不足して追加の開発費が必要となり、調達単価もペイロードが2倍の米空軍のC-17の約二倍、維持費は5倍以上と常識外のコストとなっている。

しかも戦術輸送機に必要不可欠な不整地運用能力すら要求されていかった。これらの機体を売れるはずもない海外の軍隊や民間用に販売すると政府や防衛省は宣伝し、多額の税金を使ってきた。これは納税者に対する背信行為である。

 

少なくともP-1が試験段階で十分な信頼性がなければ採用しないという選択もあったはずだ。仮に開発費が無駄になっても低い信頼性で低稼働率の機体を採用して国防を危うくするよりは英国がニムロッドMR4の調達を断念ように採用をやめて、P-3Cの延命化を行うなり、P-8を導入すればよかった。

だが組織のメンツのために「不都合な真実」を隠蔽して国会をだまして予算を詐取してきたのだ。別表2「次期固定翼哨戒機の取得方法を判断するに当たって比較した候補機種等」を見ていただきたい。

「候補」とした機体はニムロッドMR2、アトランティック1,アトランティック2など既に旧式化し本来候補にならない機体が並べられている。ニムロッドMR4は既存のMR2からの近代化で英空軍の保有数もすくなく、調達できる可能性はまったくない。そしてP-8は候補に入っていない。防衛庁や海幕はこういう恥をしらない資料を作成してきたのだ。

そして海幕はP-3Cの近代化はライセンス料が法外に高いなどと虚偽の説明をしてはじめからまともに検討しなかった。だが主翼を新造しても大した金額でなくカナダやドイツ、また米海軍もそれを実行しており、米海軍の機体は川重の子会社の日本飛行機が担当して国内で経験もあった。仮に主翼を再生産しなくてもある程度の延命は可能だった。実際にP-1の開発が遅れて海幕自体がP-3Cの延命措置を行っている。まさに語るに落ちるとはこのことである。

 

 そもそも2007年にP-1の採用が決定されてから18年が経過し、その間に多額の費用がつぎ込まれてきたにもかかわらず、稼働率が3割台である現実をみればP-1の稼働率を満足できるレベルにすることは不可能だろう。それが仮に可能だとして一体何年かかり、どのくらいのコストがかかるのだろうか。またその間の哨戒の穴をどう防ぐのか説明が必要だろう。

 またこの低稼働率を放置して現在35機のP-1を予定の61機まで調達を続けるのか。 防衛省と海幕には説明責任があるはずだが先述のようにそれを拒否している。

 

 例えば昨年海幕が採用を決定した海上監視用の無人機、シーガーディアンに対潜装備を搭載し、さらにP-8を20〜30機導入するなども検討すべきだろう。あるいは既存のP―3Cの延命化も選択肢に入るだろう。

政府と国会は今回の会計検査院の報告を重く受け止めて、予算審議、防衛の在り方の検討に反映させるべきだ。

 

トップ写真)P-1哨戒機 出典)海上自衛隊ホームページ




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

1962年生 防衛ジャーナリスト 作家。日本ペンクラブ会員。

2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。ドイツの防衛専門誌、「European Security and Defence」(英字誌)日本特派員。 東洋経済オンライン、Japan indepthなどのオンラインメディアにも寄稿。

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