「裏金隠し解散」「約束破り解散」今回のネーミングは?
樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・衆院が解散。石破新首相の信任を問う総選挙は15日公示、27日投開票。
・解散に先だつ党首討論、衆参の代表質問で、石破首相は精彩を欠いたように映った。どの程度「国民に(投票の)判断基準示す」ことができたか。
・過去を振り返ると、その時々の政治、社会情勢などを反映して「黒い霧解散」などさまざまなネーミングが行われてきた。今回は?
■ 論戦で精彩欠いた首相、追加公認認める
石破首相の所信表明演説、それに対する衆参での代表質問など決戦前に与野党間で交わされた論争のハイライトは、解散当日に行われた党首討論だった。
石破首相は、立憲民主党代表の野田元首相との議論で防戦に追われた。
野田氏が、〝裏金〟議員の非公認決定について、当初は「相当数にのぼる」と強調していたことを逆手にとり、「相当数が公認だ」と追及した。
首相は「厳正な議論をして、つらい決断をした」と述べただけで、非公認が10数人にとどまることへの直接的な説明は避けた。
公認されない議員が当選した場合、追加公認するかとの質問はさすがにかわしきれずきれず、「国民が代表としてふさわしいと判断すればありうる」と思わずホンネをのぞかせた。
代表質問での答弁でも、はぐらかしが少なくなかった。
解散をめぐっては、「新しい内閣が国民の信を問うのは当然だ」と繰り返し、「自民党だけでは決められない」「すぐに解散ということにはならない」という総裁選期間中の発言との齟齬に対する説明、弁明は一切なく、「批判は当たらない」と繰り返すだけだった。
自らの持論、「アジア版NATO」については、「一政治家として考えを述べてきた。一朝一夕にできるものではない」と慎重姿勢を見せた。
首相は自民党総裁選さなか、「アジアにおいても集団的安全保障模索していくべきではないか。少なくとも議論は国内できちんとしなくてはならない」(9月14日、日本記者クラブでの9候補共同会見)と述べている。
この発言は、その場の性格を考えれば、総裁選での〝公約〟、内閣総理大臣になった時の政策を披歴する機会だった。いったん、総理・総裁の座につき、国内外の波紋、異論が少なくなったとみると、「一政治家の発言」だったと逃げを打つのは、不誠実といわれてもやむを得ない。
■ 「解散怖い」が野党のホンネ?
もっとも、責められるべきはひとり石破首相だけではない。攻める野党も心もとなかった。代表質問をとってみれば、重複が目立った。
工夫を凝らした独自の質問、提言型で論争を挑もうという姿勢もみられたが、解散時期、日本版NATO、日本と北朝鮮との連絡事務所設置問題など繰り返しの質問が延々と続き、首相が同じ答弁を繰り返すというのでは、解散・総選挙前の与野党論戦としては何とも盛り上がり、緊張感に欠けた。
解散時期をめぐって野党が首相の言行不一致にこだわり続けるのを糾弾するのも、やや食傷気味だった。
首相の前言翻しが批判されるのは当然で、解散前に補正予算を成立させよという野田代表の主張も理解できるが、批判ばかり繰り返していたのでは、解散を恐れているという印象を与えるだろう。
総裁選に出馬した小泉進次郎氏(選挙対策本部長に就任)が「野党が政権交代を望むなら、早く解散しろというのが当然だろう」と揶揄したが、その通りだろう。
党首討論で野田代表が、首相がかつて率いた派閥を「どうせ小さなグループ」と侮辱するような発言をしたり、代表質問で一部議員が、ひな壇の閣僚席に向かって絶叫、詰問調で非難するのも見苦しかった。55年体制時代の野党のような振る舞いは、決して票につながるまい。
■ 過去には膝を打つようなネーミングも
ともあれ衆院は解散された。
公示される15日から全国で各候補の舌戦が本格的に始まるが、過去の衆院解散・総選挙を振り返ってみると、毎回、そこに至る経緯や政治状況を反映した「ネーミング」で、選挙戦の盛り上がりに一役買ってきた。
古くは、現職の首相が衆院予算委員会で質問者に腹を立ててつぶやき、それが原因となっって内閣不信任案が可決された「バカヤロー解散」(1953年、吉田茂内閣)はよく知られている。
与党議員のスキャンダルに端を発した政治不信のなかで、国民の審判を仰いだ「黒い霧解散」(1966年12月)、前回解散から3年、そろそろという雰囲気が広がった中での「ムード解散」(1963年、池田勇人内閣)というのもいい得て妙だった。
解散権の私物化ではないかといわれた2017年の解散は、安倍晋三首相が自ら「国難突破解散」と呼んだ。理由のあいまいさを隠すため、ことさら時代がかった名称を付けたようにもみえた。
今回は「日本創成解散」(石破首相)に対し、「裏金隠し解散」(野田代表)、旧統一教会問題を念頭に「臭いものにふた解散」(同)、「約束破り解散」(国民民主党、玉木雄一郎代表)など、首相に厳しいネーミングが乱れ飛んでいる。どんな名前が定着するか。
衆院が解散された9日午後の衆院本会議。額賀議長が解散詔書を読み上げた際、議場は静まり返ったままだった。朗読が途中で途切れたため拍子抜けしたようだが、終了後自民党席を中心にようやく、恒例の「万歳」三唱が響いた。
与野党激突火ぶたが切られたにしては静かすぎるが、盛り上がりに欠ける今回の解散を象徴しているかのようだった。
トップ写真:衆議院本会議 石破首相が衆議院を解散し、万歳を叫ぶ衆議院議員 (2024年10月9日東京・千代田区)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。