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.政治  投稿日:2024/9/28

自民党総裁選、どこが「脱派閥」?


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・自民党総裁選、背景には、紛れもなく「派閥の論理」。

・石破新総裁の政策には3つの死角。経済、拉致問題、防衛。

・仮に総選挙に勝ったとしても、政権運営は多難。

三つ巴の戦いに決着がついた。自民党の国会議員は、「選挙の顔」に石破茂候補を選んだ。最年少でも女性初でもない、国会議員に人気のないはずの石破氏が総裁の座についたのだ。

背景には、紛れもなく「派閥の論理」があった。菅義偉元総理がバックにいる小泉進次郎候補、河野太郎候補の票に加え、岸田文雄総理に近い林芳正候補、上川陽子候補の票が、石破候補に流れたことがある。

菅元総理は、小泉候補が決選投票に残れなければ、石破候補を推すと決めていたのだろう。二の矢を用意していたということだ。岸田総理とともに、影響力を残した。

一方、完全に見誤ったのが麻生太郎副総裁だ。高市候補に張ったが完敗した。影響力の低下は否めないだろう。もっとも石破候補を推す選択ははなから無かったわけだから、ある意味、仕方なかったともいえるが。

こうして俯瞰してみると、一体どこが「脱派閥」なのか。ニュースなどで「初の脱派閥の総裁選」などと枕詞をつけているのが滑稽に見える。まさに、派閥の論理で選ばれた総裁そのものである。集金マシーンとしての派閥はその力を失ったが、総裁選では、その力いまだ衰えず、といったところだろう。

したがって、石破総裁が、党役員人事に関し、「派閥の推薦は受けない」などと言ってもむなしいだけだ。結局、僅差で勝利を手にした最大のライバル高市早苗氏や、他の候補をどう処遇するかにいま頭を悩ませていることだろう。

■ 石破氏の政策の死角

さてその石破総裁。10月1日には新総理に選出されるはずだ。早速、その政策に注目が集まることになる。死角は3つ。

① 経済政策

まず、石破氏最大の死角は、なんといっても経済政策だろう。選挙戦では、税の応能負担の原則を掲げ、株式の売却益など金融所得への課税強化法人税と所得税の引き上げ余地があるなどと述べ、投資家やエコノミスト、企業経営者から総スカンを食った。さすがにまずいと思ったか、選挙期間中に発言を修正した。

また、総裁選出後の記者会見で、「経済に弱いとの評があるが・・・」などと質問されると、「デフレからの脱却を確実にしていかなければならない。物価上昇を上回る賃金上昇を実現するために、新しい資本主義にさらに加速度をつける」などと発言し、軌道修正を図った。もっとも、もともと財政再建派であり、最低賃金の早期引き上げを主張するなど、経済政策ではちぐはぐな発言が相次ぐ。財界のみならず、日本国民がみな懸念している点だ。株価が暴落するようなことにでもなれば、一気に批判が噴出するだろう。

② 拉致問題

そして、保守派が問題視しているのが、「拉致問題」への対応だ。石破氏は2002年4月から9月頃まで超党派の国会議員により発足した「拉致議連」の初代会長だった。

石破氏の総裁選挙政策集には、「北朝鮮による拉致被害者の帰国を実現するため、東京・ピョンヤン相互の連絡事務所開設など、交渉の足掛かりを作ります」とある。これが、拉致被害者家族や保守派から激しい批判を浴びている。北朝鮮側が、全員死亡という調査結果を出してきたら一体どうするのか?被害者家族らからは、北朝鮮の交渉引き延ばしに乗ることになり、解決につながらないとの意見が強い。

岸田政権下でも全く進展がなかった拉致問題。家族会が求める「全拉致被害者の即時一括帰国の実現」にどう取り組むのか、問われることになる。

③ 防衛問題

そして3番目は、一番の得意分野、防衛問題だ。

得意のはずなのだが、それがゆえに独自色を出そうと力こぶが入ってしまうのか、首をかしげるような政策を訴えている。

石破氏は、中露や北朝鮮の脅威を念頭に、「法の支配に基づく国際規範を形成し、地域の多国間安全保障体制の構築を主導します」(政策集)として、「アジア版NATO」構想を掲げているのだ。選挙戦中も、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドのANZUS同盟などの枠組みにも言及し、他の候補者からその実現性に疑問を呈されていた。

しかし、そもそもロシアを仮想的としたNATOとは違い、東南アジア諸国が対中国の軍事同盟を望むか、といったら懐疑的な意見が多い。等距離外交を進めるインドをどうするのか。すでに日米韓や、日米豪印4か国の「QUAD(クアッド)」などの枠組みがあるわけで、それらを有機的に活用することが先決だろう。それ以前に、日本が集団的自衛権を行使できるようにすることが最優先課題だ。

また、沖縄の基地負担の軽減のため、日米地位協定の見直しを訴えているほか、米国に自衛隊の訓練基地を作る案も示すなど、アメリカが猛反発しそうな政策を打ち出している。

11月にもあるとされる総選挙。立憲民主党の看板が野田佳彦代表に変わったなか、自民党は果たして勝てるのか。相変わらず分裂している野党勢力に仮に勝ったとしても、その後の政権運営は以上の3点を巡り、机上の空論ではなく実行力が問われる。新政権、多難な船出となることは間違いない。

 

写真)石破茂自民党新総裁 2024年9月27日 東京都千代田区

出典)Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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