石破さんが留任するべき理由(2)一極集中問題

西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・東京一極集中は日本社会の最大の構造的リスク。
・東京一極集中による構造的な偏りを是正するには、地方創生や分散型社会への転換が不可欠。
・石破氏は地方創生の実績と路線で東京一極集中問題を解決できる可能性がある。
石破さんが留任すべきという世論が上昇している。石破さんが留任すべき理由の第二回目の今回は政策に焦点を当てる。なぜ留任すべきか?
それは東京一極集中という難易度の高い問題解決を成し遂げられるには石破さんくらいしか見受けられないからだ。野党についても、日本の維新の会の副首都くらいしかこの問題解決に本気な人がいないのだ(筆者の政策比較についての文章を見ていただければわかる)。岸田政権でやっと国民的な合意ができるようになり、そして石破さんになって本格化した。
一極集中問題に反対する方々とその利害を考えてみると・・・
・不動産業界、デベロッパー:保有する物件が売れなくなる
・不動産を持つ人:土地の価値が下がる
・都内地元企業:人口・お客、ビジネスチャンスが減る
・官僚、その家族:地方生活を強いられる・子供の教育など対応が必要になる
彼女ら・彼らにとっても「よろしくない」のはわかるが、日本全体のためには、ここまで一極集中が極端に進行してしまったことはリスクであり日本社会の最大の問題である。
◆現状の問題の深刻さ
筆者は一極集中問題について30年以上、発信・提言を行っているが、現状は停滞どころか悪化している。問題点を改めて整理しよう。
①過度な人口集中
・東京圏(1都3県)の人口:約3,658万人(2018年時点)で、全国人口の約30%
・若年層の流入:20代前後の層が修学・就職のために東京へ集中
・国際比較:首都圏人口比率は日本が突出して高く、欧州諸国では見られない傾向
②生活環境への影響
・通勤時間(2021年);78分東京都 95分(47位)
・1人当たり居住面積、東京都は20.6㎡(46位)、神奈川県は22.3㎡(44位)
③経済
・東京圏の大企業数:全国の大企業の約半数が東京圏に集中
・若年層の就職先:首都圏の大学卒業者の約9割が首都圏で就職
・地方大学卒業者も首都圏へ:地方大学卒業者の一定数が首都圏で就職
・首都直下地震が発生した場合の経済被害は約95.3兆円と想定
・地方の空洞化:若者の流出により地方の人口減少・経済停滞が進行
これ以外にも様々あるが、東京圏に人・モノ・金が集中し、その魅力がゆえに、東京圏が栄える構造である。利便性や経済的魅力によってその動きが加速し、他方、その裏で地方経済は衰退してしまっている。
この構造的な偏りを是正するには、地方創生や分散型社会への転換が不可欠である。東京一極集中は、中央集権・統制・権威主義、権力・情報の集中、中央エリート主導、全体効率化という過去の、失われた30年で変えられなかった「日本の社会モデル」の問題なのだ。確かに方向性が明らかで、「欧米に追い付け追い越せ型」の社会モデルの時、つまり高度成長時代は、それが効いた。人・モノ・金を東京に過度に集中させ、一気呵成に進めていくのが効率的であった。しかし、今の時代は、創造性やイノベーションが求められる。過度に人・モノ・金が集中しすぎて偏在している。

【出典】筆者作成
地方は自由や裁量が与えられず、イノベーションも起こせず、個々の事情や特性が尊重されず、結果として、地域の価値、個性や独自性を見失うことになってしまっているのが現状だ。
◆政治ができること
政治ができることはたくさんある。
・首都機能移転法案を実行する
・地方交付金の配分方法を変える
・行政機関を移転させる
・企業の本社移転を進める
こういったことだ。
それが可能かどうか?東京一極集中の是正ができるという確信はほぼ持てない。第一に、これまでうまくいかなかった政策をどのようにすればうまくできるのか。その知見や考え方が示されているとは思えないからだ。第二に、問題解決がものすごく難しいから。難しい理由は利害関係者が多いからだ。都市圏の政治家・自治体、地主、不動産業、本社や工場を東京におく企業関係者、本社や設備を東京に置いた会社の幹部や家族、中央官僚・・・・そして東京都民の多く。常に誰かが反対するのだ。そのため、政治的に相当のリーダーシップが必要なのだ。現在の日本の政治状況ではなかなか進まないと思えてしまう。都心の開発デベロッパーや不動産業界から企業団体献金をもらっている人たちがいる以上、これまで力を持っていた与党議員には期待できない。
◆なぜ石破なのか?
2014年に始まった「地方創生」はなかなか進まない。タワマンや株は外国人が買い占め、新自由主義的な政策、国家戦略特区で都市再開発は進み、グローバルビジネスが跋扈してますます東京だけがグローバル都市としての繁栄を謳歌している。
岸田政権以来、自民党はリベラル・中道路線にシフトした。株価があって大企業が儲かるアベノミクス的な路線、「新自由主義」的経済エリートの政策路線ではなくなったのだ。岸田さんの実質的な後継者であり、初代地方創生大臣の石破さんが東京一極集中問題に挑戦するのは運命的なものともいえる。そして、東京一極集中問題の解決ができる可能性が高いのは石破さんの政権くらいなのだ。石破政権の政策を見てみよう。いろいろ課題はあるが、期待できる内容になっている。石破政権に期待したい。
写真)第5回新しい地方経済・生活環境創生本部に出席する石破首相 2025年9月2日 首相官邸
出典)首相官邸
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。












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