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.政治  投稿日:2025/9/10

石破政権の社会的・歴史的意義~お疲れ様石破茂①


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・石破首相は1年で辞任したが、「地方創生・東京一極集中問題への布石」「理念政治の提示」という3つの歴史的意義があった。

・地方創生では「令和の列島改造」を打ち出し、若手職員の二拠点活動支援、地方でのスタートアップ創業、企業本社機能の地方移転などを推進。

・一方、企業団体献金問題の不十分な規制や裏金議員への対応など、自民党政治の限界も露呈。

 

石破さんが辞任した。何度も挑戦し、自民党総裁になり、そして総理に。衆議院議員選挙、東京都議選、参議院選挙選挙と敗北し、残念ながら石破さん1年しか総理として活動できなかった。しかし、短い1年だったとしても、3つの意義がある。それは地方創生・東京一極集中問題への布石を打ったこと、理念政治を示したこと、そうした成果があった。一方自民党の政治の限界が明らかになった。詳細に見ていこう。

◆地方創生・東京一極集中問題解決へ

石破政権は地方創生2.0を打ち出して推進、そこで「令和の列島改造」を打ち出した。国の若手職員による二拠点活動を支援する制度を新設したり、地方でのスタートアップの創業、都市部に立地する企業の本社機能の移転にも本格的に取り組み始めた。

▲写真【出典】筆者作成

東京一極集中の問題構造は図の通りである。中央集権・統制・権威主義、権力・情報の集中、中央エリート主導、全体効率化という過去の、失われた30年で変えられなかった「日本の社会モデル」の問題に石破さんはわかっていた(筆者記事・インタビュー記事参考)。人・モノ・金が東京に過度に集中させ、一気呵成に進めていくことが効率的ではなくなった今の時代。地方は自由や裁量が与えられなく、イノベーションも起こせず、個々の事情や特性が尊重されず、結果として、地域の価値、個性や独自性を見失うことになってしまっているのが現状だ。そこを石破さんの地方創生では「人口減少が進む中、かつて人口増加期に作り上げられた経済社会システムを検証し、中長期的に信頼される持続可能なシステムへと転換していくことが求められている。」という問題認識を持っていた。そして、「単なる地域活性化策ではない。我が国の活力を取り戻す経済政策であり、多様な幸せを実現するための社会政策であり、そして地域が持つ本来の価値や楽しさを再発見する営みである」という地方創生 2.0を強く推進しようと断固たる決意をしていたのだ。

◆理念・ビジョンの政治

第二に理念・ビジョンの政治だ。石破さんはいくつかのビジョンを掲げている。まずは「楽しい日本」。石破さんは「一人一人が実現する「楽しい日本」を国民の皆さま方と共につくり上げていきたい」と年頭会見でぶち上げていた。彼は「日本全体がお互いを認め合い、尊重し合う「楽しいな」というものがすごく薄れているように感じています」「笑顔があって、お互いを尊重し合って、助け合う社会がありました。明るくて楽しかった。今の日本に欠けているものだと思います。」(自民党HP)とも語った。

石破首相が掲げたビジョンは、まったくもって正しいのだ。日本社会に必要な相互協力と信頼の基盤、そして、対話を重ねて、協力をしあうことで、将来不安を取り除き、自分らしく生きていける社会を作り出すということだ。さらに地方創生2.0では「中長期的に信頼される持続可能なシステムへと転換していくことが求められている」(地方創生2.0基本構想)とも記されている。

そして、もう1つの理念は「令和の日本列島改造」である。5本柱として、①若者や女性にも選ばれる地方、②産官学の地方移転と創生、③地方イノベーション創生構想、④新時代のインフラ整備、⑤都道府県域を超えた広域リージョンの連携といった考え方である。高度成長期における「過疎」と「過密」問題、都市集中・地方疲弊への対応を踏まえて、現代では人口減少・若者流出など新たな課題克服を目指したものだといえる。インフラ整備中心の田中版改造論と異なり、人的・知的資源の流動性や地域拠点への投資が重視されていること、官民協働・デジタル技術活用・多様性尊重など、現代的な価値観に即した方針であることなどが特徴的である。従来のインフラ整備型から地域の個性・多様性と人材重視・ソフト面強化へ大きくシフトした総合政策であった。

◆自民党の政治の限界

そして第三に、自民党政治の限界が見られたことだ。その1つに、企業団体献金の問題は規制されず、透明化という中途半端な対策になった。企業・団体献金は結局、自民党の強み、競争力の源泉でもあるから、それを捨てることはできなかったということはわかる。それは仕方ない選択にしても、情報公開についてはあまりに不十分な内容であった。多くの自民党の政治家を説得して、裏金議員に厳しい対応を取り、世論にアピールすることができなかった。石破さんですら、自民党を変えるのは難しいことが明らかになった。

◆石破さんの政治家としての価値

2014年の安倍政権のもとではじまった「地方創生」であるが、なかなか進んでいなかった。安倍政権の国家戦略特区をみればわかる。「本気さ」もそこにはなく、制度的制約があり、調整はすすまず、成果は当初の期待以下であった。地方交付税、省庁移転、分都などできることは多かったはず。そして、その間に東京はタワマンや株は外国人が買い占め、新自由主義的な政策、グローバルビジネスが跋扈する。こうした状況に石破さんが出てきて、大きな方向転換が期待された。しかし、道半ばになってしまった。そこは本人も残念だっただろう。

世論をバックに自民党内を抑えるには、党内基盤・ネットワークが弱かったのだろう。学習意欲が高く、政策で勝負する、問題意識がある稀有な政治家石破茂総理。本当にお疲れ様でした。

トップ写真:辞任会見を終えて退出する石破首相(2025年9月7日首相官邸)出典:Toru Hanai – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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