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.政治  投稿日:2025/7/19

参議院選挙で問われない日本の問題② 東京一極集中


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・首都移転は公共事業となり、官僚の地方経験促進、東京の関連施設・土地売却益など、新たな公共事業需要増大につながる。

・インドネシアや韓国でも首都・政府機能の移転実績がある。

・都市開発の停止も必要で、国土交通省の再開発補助金は廃止すべき。

 

参議院選挙、外国人問題が争点化している。都内のマンション価格の高騰など、中国人富裕層の買い占めが多分に影響をしている。そしてオーバーツーリズムも深刻だ。トイレは以前より汚くなり、空き缶が溢れ、ゴミは散乱する姿を目にすることも多くなった。そして、街には人が溢れている。渋谷などは通行にも支障があるし、山手線は混雑しているし、車内はキャリーバッグが通路をふさぐ。通勤労働者や住民は一苦労を感じることが増えた。

他方、東京一極集中問題は、今回の参議院議員選挙の争点にはなっていない。本来なら、日本に集中する権限、モノ、人、金を配分することは大事な論点なはず。日本社会の未来を中央集権にするのか、分権・多極化するのか、が問わってもいいのに、そうされない。筆者は30年来、東京一極集中についての問題提起を行ってきた。時には石破首相のもとで、内閣府地方創生人材派遣シティーマネジャーとしても活動した(うまくいかなかった)。一極集中問題が少しづつ注目を浴びつつあると感じる今こそ、最大のテーマとして問題提起したい。

◆ 各党の東京一極集中についての政策

各党は一極集中についての差は見られない。唯一、日本維新の会が副首都をつくり、地方分権の徹底を主張している。真の論点は、東京だけ繫栄していて、よいのかという点だ。石破政権は地方創生2.0を打ち出して推進しているし、「令和の列島改造」を打ち出した。国の若手職員による二拠点活動を支援する制度を新設、地方でのスタートアップの創業や、都市部に立地する企業の本社機能の移転にも取り組んでいる。

・首都機能移転の法律をどう考えるか?

・東京都市圏での開発規制強化をどうするか?

・国家戦略特区に金をつぎ込み、都心の再開発を後押ししている。つまり、都心への再開発事業の抑制・規制ができるのではないか?

・中央省庁の地方移転は何省庁か?

・国家戦略特区での都市再生を止めるべきか?

・地方分権、道州制をどう考えるか?

と言った視点から、石破政権の一極集中問題に対してオルタナティブとなる理念と政策提言が出てこなかったのは非常に残念である。

◆ 問題解決のためには首都移転、都市再開発の抑制

過去に石破さんに仕え、この連載でも石破さんにインタビューをしてきたからこそ厳しく言わせてもらうと、地方創生2.0

ではまだまだ一極集中の解決には十分だとは思えない。

▲表【出典】筆者過去記事

必要な政策は2つある。

第一に、首都移転だろう。大和朝廷が成り立って以来、纏向、飛鳥、難波、平城京、長岡京、平安京、福原、京都・・・であった。途中、鎌倉が中心になったこともあったが、基本京都が中心。その後、江戸・東京という感じで首都は歴史的な流れの中で位置づけられる。明治維新で正式に東京が首都になってから、150年以上がたった。当時とは各県の人口比も大きく変貌(新潟県などは大きく人口減少)。そして、今、多くの地方は人口減少に悩む。東京圏以外では郡山、宇都宮、高崎、相模原、大宮、名古屋、姫路、岡山、博多といった地域はそれなりに元気だが、そのほかの地方都市は厳しい状況に置かれている。首都移転は1つの公共事業になる。

・官僚の地方・現場経験での人材育成が進む

・東京の関連施設や土地の売却で利益が出る

・新たな公共事業による需要が増大する

ことにもつながる。インドネシアでは首都移転がされているし、サウジアラビアではNEOMという新都市建設が行われているし、韓国だって一部政府機能移転はしている。

第二に、都市開発を停止すること。都市の戦略特区などは廃止する。国土交通省の社会資本整備総合交付金は100程度の市街地再開発を補助している。その額1兆円。国家戦略特区という「戦略性」の感じられない規制緩和を停止し、補助金を減額して、東京の無法図の都市開発を止めることだ。

◆ 限界都市東京

改めて東京圏の過密度合いを事実で振り返ってみよう。ピーク時の平均の混雑率は163%である。ストレスフルな極度の緊張状態の通勤で心身ともに健康負担は相当かかる。高度成長時代にとっては東京圏に集中することが様々な面で都合がよかったために、国策として進めたことが最大の要因であり、政府にとっても、会社にとってもメリットが多く、さらに広大な平野があったことが集中を加速化させた。しかし、ここまで集中してしまうと弊害も多い。地方創生2.0の政策メニュー、つまり、企業本社移転、東京の再開発規制、行政機関の移転だけでは

①人・モノ・カネ、富や権限、権力の過度の集中

②地方の衰退

③防災リスクマネジメント

といった問題が解決しない。都心のディベロッパーや不動産会社の利害関係者、都市圏の政治家・自治体、地主、本社や工場を東京におく企業関係者、本社や設備を東京に置いた会社の幹部や家族、中央官僚・・・・そして東京都民の多くに問題点に提示し、説得する行動が今こそ必要だろう。

◆ 日本社会のビジョンはどこに? 

失われた30年が過ぎても、右肩上がり時代の社会システムの発想がまだまだ延命していて、さらに行き詰まりを見せている日本社会。今ほど「日本社会のあり方」が問われている時はないだろう。「一元的集中・中央集権から多様な分散型・分権社会」といった未来の日本のビジョンをどの党がデザインできるのかも問われている。政権を担う党には、その実行プランの披露、そして確実な実行を期待したい。

トップ写真:東京のスカイビュー(イメージ)出典:voyata/GettyImages




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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