国家AI・電力統合拠点構想――ハイパースケール・データセンターと火力発電を国家インフラとして臨海工業地帯に整備せよ

杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)
【まとめ】
・日本に大規模データセンター(DC)が立地しない理由は、計算需要が無いからではない。受皿となる電力・立地インフラが欠けているからだ。
・ハイパースケールDCは国家インフラであり、民間任せではなく国主導で計画して整備を進める段階にある。
・工業地帯に電力と通信インフラを集約する「国家AI・電力統合拠点構想」が、日本の競争力を左右する。
生成AIの急速な進展により、世界は今、計算能力そのものを巡る競争の時代に突入している。その物理的基盤となるのが、都市一つ分、場合によってはそれ以上の電力を消費するハイパースケール(超大型)・データセンターである。
米国では1地点あたり数10万kWから100万kW級のDCが次々と計画・建設され、中国でも国家主導で巨大な計算拠点が整備されている。一方、日本では「ハイパースケールは米国や中国に立地するもので、日本にはそのような需要は存在しない」といった見方がある。しかし、この認識は現実を正確に捉えていない。
第一に、強調すべきは、日本には十分な計算需要が存在するという点である。日本企業、研究機関、行政、さらには一般消費者に至るまで、日常的にAWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった海外クラウドに依存している。日本はAIやクラウドを使っていないのではない。使ってはいるが、計算拠点が海外にあるため、需要と付加価値が国外に流出しているのである。
第二に、日本にハイパースケールDCが立地しにくい理由は、計算需要不足ではなく、電力・用地・制度といったインフラの構造問題にある。これまで日本のDC立地は、数万kW規模を前提とした内陸分散型、住宅地近接型で進められてきた。だがこの方式では、50万~100万kWといった桁違いの電力需要を満たすことは不可能である。電力系統は変電所単位で検討され、接続待ちや空押さえが常態化し、電力供給者は「電力需要者が来てから考える」という順序が前提とされてきた。だが、ハイパースケールはインフラが整っている場所にしか来ようが無い。日本の制度設計は、この前提と根本的に噛み合っていない。
第三に、欧米で顕在化しているデータセンター反対運動は、日本にとって重要な教訓である。米国や欧州では、住宅地の近接地に巨大DCを分散的に立地させた結果、騒音、景観、水不足、電力料金高騰などへの懸念から、住民の強い反発が生じている。これはAIやデータセンターそのものへの拒否ではない。無秩序で民間任せの立地が、地域社会の許容限界を超えた結果にすぎない。
米国テキサスでは、豊富なエネルギー資源を背景に、民間主導でデータセンター立地が急増したが、その結果、系統接続の遅延、局地的な電力逼迫、地域社会との摩擦といった問題が各地で顕在化している。これは、計算基盤を市場任せ・分散的に整備した場合に生じ得る問題を示している。
他方でシンガポールでは、国家が立地を厳格に管理してきたが、近年になってその政策は強い環境制約の下で容量を抑制することに主眼が置かれるようになり、AI計算能力を戦略的に大規模に拡張するという目的に沿ってはいない。
日本が目指すべきは、いずれの模倣でもない。民間任せの無秩序な開発でもなく、国家による産業活動の抑制でもない。電力・用地・制度を国が一体で設計し、工業地帯に計算能力を集約することで、地域社会との問題を回避しつつハイパースケールDCの速やかな立地を進める、という第三の道である。これを本稿では「国家AI・電力統合拠点構想」と呼びたい。
具体的には、川崎や京葉といった臨海工業地帯において、50万~100万kW級の電力を一体的にDC向けに供給できる拠点を国主導で計画し整備する。LNG基地や大規模火力発電所、ガス導管、石炭火力発電所、港湾といった既存インフラを最大限活用し、短中期的には天然ガス火力、石炭火力を軸に電力の安定かつ安価な供給を確保する。
工業地帯に立地することで、既存の電力・水利用インフラを活用することが出来るし、近隣住民との摩擦も避けることが出来る。
将来的には原子力電源の増加は見込めるが時間はかかり、また、コストを抑制する形で再エネを導入することは困難を伴うだろう。いま臨海工業地帯ではGXとして再エネや水素利用が進められているが、これではDC向けの安定かつ安価な電源とはならない。GXの理念先行ではなく、時間軸と工学的現実を踏まえた迅速なインフラ整備が不可欠である。答えは、まずは既存の火力発電の活用、次いで新規の火力発電の建設である。
DCはこれからの国家の基幹インフラである。事業者は「日本には計算需要がないからDCを作らない」のではない。DCを作らないから計算需要を国内に取り込めていないのである。現状では国内へのDC立地が進まないが故に、国家主導で国家AI・電力統合拠点を整備する必要がある。応分の対価を支払って入居する事業者を見込むことは十分にできるだろう。
AI時代において、DCが提供する計算能力は新しい国力基盤である。電力と計算を一体として捉えて整備する国家AI・電力統合拠点構想は、日本の産業競争力をたかめ、経済成長をもたらすだろう。

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出典:Photo by onurdonge/ lGetty Images




























